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後編

 その後、彼女は無事退院してきた。

 そして前と同じように学校生活を送るようになった。僕は彼女の顔を見れることが、すごく嬉しかった。

 

 退院してから、彼女の方から視線を感じるようになる。たまにそちらを見ると、彼女は授業に集中しているようだった。自分が気にしすぎているのかもしれない。そう思っていた。

 だけど、彼女から一通のメールが来る。

 僕は授業中に、こっそりと携帯を覗き見る。


『ありがとう、□□君のお陰で入院してても頑張れたよ』


 メールの中では、彼女は僕のことを名字ではなく名前で呼んでいた。

 僕が彼女の方を見ると、彼女はいつも通りに授業に集中していた。もしかしたら照れていたのかもしれない。

 でも僕はそんなメールがとても嬉しくて、それだけで満足していた。



 男女のグループができると、当然色恋沙汰が起きる。

 グループ内で、ある男子と女子が付き合いだしたのだ。

 僕はそれを羨ましいと、素直に思った。……でも、告白をするような勇気は無かった。


 そして僕は、グループ内のある女の子と仲が良くなる。△△さんと良くメールをし、気になりだした。

 あんなに彼女のことが好きだと思っていたのに、現金なものだ。

 僕と△△さんをくっつけようと、グループ内では動いている感じまでした。

 彼女はとても可愛らしく、嫌いではない。でも僕が好きなのは〇〇さんだった。だが、明らかに△△さんは自分に好意を持ってくれている。それを嫌がるようなことはできなかった……いや、違う。好意をもたれていることに、優越感を持っていたのだろう。救いようのないクソガキだ。


 僕は学校の帰り道、同じグループの男子たちに聞かれることになる。

 みんな気になっていたのだ。


「□□さ~、△△さんと付き合わないの? 明らかに惚れられてんじゃんw」


 僕は言葉に詰まった。誤魔化して来たのに、ついに聞かれてしまったのだ。

 適当に誤魔化せば良かったのだ。でも僕は答えてしまった。


「いや、〇〇さんのことも気になっててさ……」

「〇〇!? えー、でも△△さんの方が可愛いじゃん! 絶対そっちの方がいいって!」


 僕はその後、適当に会話を濁した。確かに可愛い方と付き合いたいなら△△さんの方が良かったからだ。

 〇〇さんのことが好きだと思いながら、△△さんも気になる。

 僕はどうしようもないクズだった。



 だが、事態は進展した。

 僕の予想もつかない方にだった。

 放課後、部活に入っていないやつらで集まっていると、こんな話が出たのだ。


「そういえば知ってるか? 〇〇さんって野球部のやつと付き合ってんだってさ」


 僕の頭の中は真っ白だった。

 そして、付き合ってもいないくせに嫉妬した。とても醜い感情を押し殺し、会話に付き合う。

 でも頭の中には、何も入ってきてはいなかった。


 僕は帰った後も、ずっとそのことが気になっていた。彼女にメールを送ろうかとも思った。

 ……だが、できなかった。

 何て聞けばいいのかも、もしいた場合に何て言えばいいのかも分からなかったからだ。

 その日、僕は彼女からのメールに返信をしなかった。僕は、ただの臆病者だった。



 そして、そのまま△△さんに告白をされ、周りに流されるままに付き合いだした。

 彼女は素直に祝福をしてくれた。僕もそれを受け入れた。

 そしてそれから、彼女とのメールは激減した。△△さんと付き合いだしたのなら当然だろう。

 数日後、彼女から来たメールが全てを物語っていた。


『あんまりメールとかすると迷惑になっちゃうから、もうやめておくね。入院してたとき、本当にありがとう。あはっ、大好きだよ。△△さんと仲良くね』


 僕はそのメールを何度も見た。何度も、何度も。

 だが僕は△△さんと付き合っている。大好きだと言われた、嬉しかった、でも何も言うことはできない。

 野球部のやつと付き合ってるんじゃなかったのか? 何で今更そんなことをメールしてきたんだ。……そんなことばかりを考えた結果、そのメールに返信をすることはできなかった。

 そしてしばらく経った後、噂となっていた野球部のやつと、彼女が付き合いだしたと聞いた。

 ……彼女は、誰とも付き合っていなかったのだ。


 それから教室で、彼女はまた僕の事を苗字で呼ぶようになった。△△さんに配慮してのことだろう。僕もそれを受け入れた。

 僕らは目線を合わさないように、メールをしないように、そんな風に過ごした。

 委員の仕事も同じだった。

 隣の席に座って委員会に出ているにも関わらず、僕と彼女の間には見えない壁があった。

 そして風の噂で、〇〇さんが野球部のやつと別れたという話を聞いた。

 どうも話を聞くと、野球部のやつは何人もの女の子に手を出していたらしい。

 ……〇〇さんもその一人だった。

 

 そして一年生が終わり、二年生となる。

 二年生のときも、僕と〇〇さん、△△さんは同じクラスだった。

 二年生での一年間も同じ。

 僕と彼女は友人として付き合い、特別用事がなければ話すこともない。そんな一年を過ごした。

 


 あっという間に三年生となる。

 僕はまた〇〇さんと同じクラスだった。△△さんとは、一番離れたクラスとなる。

 夏に入るころ、僕は△△さんと別れた。

 理由は簡単、僕が我がままで、ガキだったからだ。

 クラスが離れてしまえば、一緒にいる時間も減る。そんなことで耐えれなくなるようなクソガキだった。


 あっという間の三年生での夏休み。

 うちのクラスは劇をやることになった。

 僕は音響の係となっていた。夏休み中に、役として学校に通わなくていいというのが魅力でそうした。

 まぁ、役というのはクラスでも人気の人たちがやるので、僕には関係なかった。

 だがそんな折、僕は電話で頼みごとをされる。


「〇〇さんがさ、文化祭の二日目に出れないんだって! それで劇の役を探しててさ……」


 なぜ女子の役がいないことを僕に振るのだろう。

 確かに僕は中性的な顔立ちだった。だが、さすがに女子の役をやる気はない。

 ……話を聞くと、どうも他の女子が役をやりたくないと言ったらしく、代わりが決まるまで、人数合わせのため練習に付き合って欲しいと言われた。

 自分は、それくらいなら良いかと思い承諾した。


 次の日学校に行くと、僕は二日目の代役に任命されていた。

 すでに先生までも知っていた。完全にハメられたのだ。

 僕は仕方なく諦め、女装をさせられ役をやることになった。


 文化祭当日、僕は初日に〇〇さんが来た衣装を着せられた。

 男子たちは可愛いと大はしゃぎだ。女子は衣装を着付けながら人の腰を撫でまわし、細いずるいと言っていた。

 知ったことではない。

 結果的に言うと、二日目の劇も無事終わった。

 初日に〇〇さんが来ていた衣装を着せられ、僕だけがドキマギしていた。

 好きだった女子の衣装を着せられる男子。ひどく滑稽な話だった。




 そして卒業式。

 僕と〇〇さんの関係は何も変わらなかった。

 僕も〇〇さんも、変えようとはしなかった。


 卒業式が終わり、卒業アルバムを教室で受け取る。

 皆が卒業の打ち上げはどこどこで! と盛り上がったり、卒業アルバムに寄せ書きをしたり、そんな中に僕も混じっていた。

 そんな時、○○さんと目があってしまった。恐らくこんなにしっかりと目が合うのは、二年ぶりとかになるのだろう。

 僕は気まずさから、先に帰る、また後で。と、伝えて教室を出た。

 

 何となく、帰る前に最後となる学校を一人で歩く。

 そして一年生のときの教室の前に辿り着く。

 もう一年生は帰宅しており、誰もいない教室へと入る。

 なぜか、自分が一年のころに座っていた席へと僕は座った。そして隣を見る。〇〇さんが座っていた席を。

 まだ未練があるのか、そんな情けない気持ち。もうこれで会うこともないという寂しさ。ただ、無性に悲しかった。


 ガラッと、扉が開く音がする。

 物思いに耽っていた僕は、驚きながら教室の扉を見た。

 そこに立っていたのは、〇〇さんだった。

 〇〇さんも驚いた顔をした後、何も言わずに僕の隣の席。一年生のときの自分の席へと座った。

 僕は立ち上がることも、横を見ることもできずにいた。

 そんな僕に、彼女は話しかけてきた。

 こうして二人の時に話すのは、一年生以来だった。


「三年間、同じクラスだったね。私たちだけ三年間同じとか、すごいよね」

「うん……」


 僕は、彼女の方を見ることもできずに、何とか言葉を紡ぎ出していた。

 彼女はそれを気にすることなく、淡々と話を続ける。僕は何とか返答をする。そんなことを数分繰り返した。

 彼女は急に黙り、教室が静寂に包まれた。

 そして立ち上がり、教室の扉へと歩いて行く。

 帰るのかもしれない、僕はその姿を見ていることしかできない。ただ、何か言いたいのに、何も言えない。そんなジレンマと戦っていた。

 ……彼女は、最後にこちらを振り向くと、僕の方をしっかり見た。

 目線を逸らすことができず、僕もただ彼女のことを見ていた。


「……大好きだよ」


 彼女は、そう伝えて走り去った。

 僕は追いかけたかった。追いかけなければいけなかった。

 なのに……臆病な僕にはできなかった。その場から動けないまま、ただ少しだけ泣いた。



 

 あの時、追いかけていたらどうなっていたのだろう。

 あの時、彼女と付き合っていたらどうなっていたのだろう。

 結果は分かり切っている。

 我がままな僕に彼女は耐えきれず、きっと別れていただろう。


 ……でも、どうしてもそんなことを忘れられずにいる。情けない女々しい男だ。

 僕はタバコの火を消し、部屋の中へと戻る。

 そして水を少し飲み、眼鏡を外してベッドの中へと戻った。


 もう伝えることはできない、あの時に伝えたかった一言。

 伝えていたら何かが変わっていたのか。

 今なら上手く伝えることができるのに。

 そんなことを考え、微睡の中へと落ちていく。

 夢の中、あの日の続きが見れることを祈って……。



『一目惚れでした、あなたのことが大好きです』



 完

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