表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新生 学校の怪談  作者: 周防まひろ
最終章 魔界ノ刻
41/58

散らばる絆


    1


 亘は学校に着くといきなり、見知らぬ男に話しかけられた。

「そこの君、ちょっといいかな?」

 相手は、度の強そうな眼鏡をかけた半袖姿で一見大学生だった。にしては少し年を取っている。三十代くらい。片手に手帳を持つその男は一見人は良さそうだ。

 亘は「何ですか?」とやや警戒した。

「怪しい者じゃないんだよ。僕はね、トキワクロニクルっていう地元の新聞を発行している記者なんだ。ほら」

 差し出された名刺を確認する。もっとも、こんなものを見せたら安心してしまうだろうな。亘はとりあえず正門を通ってから、人のいるところまで行った。

「君はこの学校の生徒かい?」

「はい」

「今日のキャンプファイヤーは数十年ぶりにやるらしいけど、どうしてかな。なんか、理由とか聞いてる」

「分からないですね。僕も今朝知ったばかりですから」

「なるほどね。ところで、この学校はどうだい?」

「普通です。良いも悪いもないです」

 本当は行きたくないのだが。

「君は何年生?」

「五年生です」

「学校で怖い噂とかないかな。ほら、トイレの花子さんとか、動く二宮金次郎像とか」

「あまり聞かないです。あの、さっきの質問って、キャンプファイヤーと関係あるんですか?」

「どうだろうね。それともう一つ、最近、この学校で数日間暗い記憶が失っている子が何人かいるらしいんだ。何か聞いているかな?」

「さあ」

 ワタルに捕まっていた子達のことだろう。彼らはいなくなっていた間の時間は眠っていたのと同じように、全く記憶を失っているはずだ。

 それにしても、目の前の記者はどうしてそれを調べているのだろう。

「僕に聞くよりも、本人達に聞いた方がいいと思いますよ」

「確かにそうだね。だけどな、皆、覚えていないって言ってるんだよ。僕の姪もそうなんだけどね、あははは」

 意味もなく笑う大人ほど信じられない者はいない。亘は「もういいですか」と言って立ち去ろうとした。

「君はお守りを持っているね。それは近くの神社で買ったのかい」

 記者が言っているのは、腰に付けたお守りだ。ワタルから身を守るために着けたまま忘れていた。あいつも翔もいなくなったのに意味がない。

「何かの魔除けかな」

「そんなところです」

「それは学校に出る妖怪かな」

「おじさんは妖怪を信じてるんですか?」

「信じてるよ。僕は昔、神隠しにあったことがあるからね、この学校で」

「ここで?」

「ちょうど、二十年前に――」

 その時、「亘」と呼ぶ声に続いて、駆け寄ってきた雛に肩をどんと叩かれた。

「ホントに遅いんだよ。皆、待ってるよ」

「ごめんね」

 亘は記者に謝ると、慌てて彼女の後をついていった。記者からもらった名刺をもう一度確認すると、ポケットに入れた。

 奇譚出版、雑誌『常盤台クロニクル』発行、記者、竹井寛和。


    2


 未来と一也と落ち合った亘は、開口一番に言った。

「翔くんはいないの?」

「何言ってんだよ。あいつがいるわけないじゃん」

「違うんだ、雛ちゃん。翔くんは無事だったらしいよ。ねえ、高橋くん」

「わたしも聞いたよ。どこかに隠れてるんじゃないかな」

 雛は未来達を睨んだ。

「どういうことなの。あれほど、黒澤のことは亘の前で言うなって言ったのに」

「違うの、仲里さん。わたしはカズから聞いたの。それに今日も廊下で歩くのを見たし、あれはやっぱり、黒澤さんだったかもしれない」

「いないじゃん、どこにも。あんたらさ、あたしと亘を担ごうとしてんじゃないの。だいたいさ、小宮は一組の仲良しグループと一緒じゃないの?」

「それが、美穂達の姿がどこにも見当たらないの。皆は来ているはずなんだけど」

「ふん。嫌われてんじゃないの、ホントは」

「そんな」

「雛ちゃん、それは言い過ぎだよ。それに僕は翔くんが無事だったってだけで安心なんだよ」

「ねえ、亘。あたしらは別のとこでいようよ。あの化け物がいた頃は仕方なくつるんでたけどさ、今はお互いに他人同士なんだ。もう、あんたらと一緒にいる必要もないし」

 雛はそそくさと立ち去った。亘は仕方なく「ごめん」と言い残した。


     3


 未来は雛の言葉に呆然としていたが、さめざめと泣き出した。

「わたしじゃないのに。本当に黒澤くんを見たのに……ひどいよ」

 隣には一也が突っ立ったまま。ここは幼馴染として、気にするなとか泣くなとか慰めるところだろうに、なんて薄情な奴だろう。

「カズも見たよね?」

「ああ、見たよ。それに会った」

「わたしは泣いているんだけど、それについてどう思う?」

「泣いているなあ、って思う」

「それだけ?」

「それだけ」

 なんだか、一也の様子がおかしい。いつもおかしなところがないわけではないが、やっぱりおかしい。

「ねえ、カズは元気。大丈夫?」

「俺は元気百倍だ。大丈夫」

 やっぱりおかしい。テンションが妙に低い。元気には見えない。

「ねえ、何かあったの?」

「ああ、何かあった」

「何があったの?」

「何かがあったんだ」

「もういい」

 未来は呆れて彼から離れようとする前に、何の気なしに質問した。

「ねえ、カズはわたしのこと好き?」

「好きだ。たぶん」

 恥ずかしげもなく一也は答えたが、感動はない。

「そうなんだ、ありがとう。ちょっと、一人にさせてくれない?」

「俺も一人になる」

 うつろなおうむ返しにしたまま、一也は無言でうつろな目でキャンプファイヤーの丸太を眺めるだけだった。


    4


 午前六時。七月ならまだ夕闇が落ちるまで、少し明るいものだが、学校の校庭はすでに暗闇に変わっていた。

 雛の足は表校舎を突っ切り、裏校舎を面した中庭で止まった。芝生とウサギ小屋のある広場である。

高ぶっていた気持ちを落ち着かせた。いつも、こうやって、他の奴に喧嘩を売って遠ざけてしまう。気がつくと、後ろ指をさされて、変な噂を立てられる。

 それらは自分の耳にも入っている。シンナーを吸ってるとか。援助交際をしてるとか。カツアゲをしてるとか。実際、どれもしているはずもなく、ゲスな噂を広めている奴らは、レベルが低いと考えて無視していた。

「ねえ、雛ちゃん。僕は気にしてないよ。本当に。翔くんが無事だったかもしれないことが分かっただけでも、満足だから」

「だから、あんたはいつも馬鹿にされるの」

「そう思う?」

「あんたさ、二組に入ってから、いじめに遭ってんだろ。平気そうにへらへらしていられるの。あいつが出てくる前から便所に閉じ込められたりしてたんだろ。女子便所に閉じ込められたりとかさ」

「僕が弱いからだよ」

「違う。あんたは言い訳してるだけだ。おじさんらに遠慮してるだけだ」

「うん。だって、僕がそんなことをしたら、きっと、また――」

「捨てられる? あの人達は絶対にそんなことしないよ」

「でも、雛ちゃんも同じだよ」

「あたしも?」

「小宮さんに謝りに行こう。雛ちゃんは周りに突っ張るのは、怖いだけなんだ」

「あたしは怖がりじゃねえよ、馬鹿」

「ハリネズミみたいにトゲトゲを出して丸まっているんだ。そんなのじゃあ、誰も雛ちゃんを分かってくれないよ」

「うるさいな、亘のくせに」

 雛は彼につかみかかろうとしたが、いつものおどけた顔ではなかった。思わず手の力が弱まった。

「僕も頑張ってみるからさ。雛ちゃんも」

 近くの生垣からガサッと足音が聞こえた。気がつくと、周りに数人の生徒が包囲していた。その中には見知った顔がいた。二組で、亘をいじめている噂のある男子、吉岡龍樹だった。

「なんだよ、お前ら」

「見つけたぞ、恐怖のワタルだ」

 吉岡の手が伸びて、雛を弾き飛ばした。すごい力で抵抗する暇を与えなかった。亘はなすすべもなく、神輿みたいに担がれていた。

「ワタルを殺せ。皆の平和を守れ」

「わあぁっやめてよ!」

 雛は「こいつ!」と怒鳴りながら、吉岡の顔を渾身の力で殴りつけた。大人はもちろんン、相手に振るった力で一番強いはずだった。吉岡の顔が真横まで曲がっていた。顎だけがひしゃげていた。

「わたるをころへ」

 まるで壊れた機械みたいに手足をばたつかせると、その場に倒れた。他の奴らは動きを止める。亘はその間に地面に落ちた。

「大丈夫?」

「うん。なんとか……それよりも」

 吉岡だったそいつは狂ったように地面を転がった挙句、煙を立てて動かなくなった。他の連中は、一斉に二人を睨みつける。

「こいつらはまだ仲間じゃないぞ」

「そうだな。こいつはまだ人間だ」

 皆は顔に手をかけると、まるで被り物を脱ぐように自分の頭を脱いだ。その下には、緑色をしたごつごつの肌に、飛び出した目をぎょろつかせ、額には二本の角を突き出した素顔をあらわにした。口からはよだれに混じって、ウジ虫がぼたぼたと地面に落ちている。

「こいつらはまだ人間だ!」

「人間を捕まえろ!」

「ショウ様の仲間にしろ!」

 亘はとっさに立ち上がり、雛の手を掴んで走り出した。

「逃げるよ」

「ちょっと、なんなの、あれ! 表校舎に入ると、亘は急いで扉の鍵をかけた。扉のガラスの向こうで、鬼の集団がバンバンと手でたたいて「開けろ!」と怒鳴る。

「これって、もしかして……」

「信じたくないけど事実だ」亘は荒い息を整えた。「あいつはまだ死んでいない。高橋くん達の危険が危ない」

 その時、校庭の方から絶叫の合唱がこだました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ