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第二話 病魔

※架空の病名が出てきます。

第二話 病魔



地上で蒼真が倒れた。


同じ頃、地下。


作業を続けていたラファエルが、不意に動きを止めた。


『朔真様』


「ん?」


工具を手にしたまま、朔真が振り返る。


『ラミエルの信号に変化がありました』


その言葉に、朔真の表情が変わった。


「蒼真に何かあった?」


『分かりません。ただ、先ほどまで検知していた不安定な信号が――変化しました』


「……そうか」


しばらく黙っていた朔真は、やがて視線を手元へ戻した。

再び工具を握り、作業を続ける。


しかし――ラファエルは動かなかった。


先ほど、朔真が床へ落としたペンチ。

これまで一度もなかった小さな異変が、どうしても気に掛かっていた。


『朔真様』


「今度は何?」


『作業を続行する前に、医療機関を受診してください』


「今?」


『今です』


「いや、でも――」


『予約はすでに入れてあります』


朔真は工具を持ったまま、ラファエルを見る。


「……いつの間に」


『先ほどです』


「仕事が早いなぁ」


『ありがとうございます』


「褒めてないよ」


結局そのまま押し切られ、朔真はラファエルに半ば強制的に総合病院へ連れて行かれた。


最初は、簡単な検査だけで終わるはずだった。


しかし検査結果を確認していた医師の表情が、わずかに曇った。


「念のため、もう少し詳しく調べさせてください」


追加の検査が行われた。


採血。

神経反射。

運動機能。


そして、遺伝子検査。


すべての結果が揃ったあと、朔真は再び診察室へ呼ばれた。


医師はしばらく手元のデータを確認してから、ゆっくりと顔を上げた。


「遺伝性若年性神経変性症――HJNDです」


「HJND?」


「病名の通り、遺伝性があり、なおかつ若年層で発症する病気です。神経機能が徐々に低下し、進行すると運動機能などにも影響が現れます」


朔真は自分の右手を見る。


床へ落ちたペンチを思い出した。


「治療法は?」


「現時点では、根治療法はありません」


朔真の視線が医師へ戻る。


「現時点では?」


「神経再生や遺伝子治療の研究は進んでいます。ですが、実用化にはまだ相当な時間が必要だと考えられています」


「じゃあ、間に合えばいいんですね」


医師がわずかに目を見開いた。


「……治療法については、時間がかかると思ってください。ですから今は、症状の進行を遅らせるための対症療法が中心になります」


「分かりました」


「それから――遺伝性があるため、ご家族にも検査を勧めます」


医師は一度言葉を切った。


「特に、双子の弟さんには」


朔真の表情が変わった。


その様子を、傍らにいたラファエルは黙って見ていた。


――ラミエルの信号が変化した。

そして、自分には遺伝性の病が見つかった。


まさか。


「……ラファエル」


『はい』


「統合管理機構へ行く」


『承知しました』




その頃、地上では――。


ラミエルが意識のない蒼真を抱え、統合管理機構の付属医療施設へ駆け込んでいた。


普段の冷静さは、そこにはなかった。


『医師を。至急です』


蒼真はすぐに検査を受けた。


だが、最初の検査だけでは診断がつかなかった。


追加の検査が行われる。


そして――。


HJND。


医師の診断は、朔真と同じだった。


蒼真が意識を取り戻したとき、最初に目に入ったのは白い天井だった。


身体を起こそうとして、わずかに顔をしかめる。


『蒼真様』


傍らにいたラミエルが、すぐに声を掛けた。


蒼真はしばらく何も言わなかった。


やがて、低い声で問う。


「ラミエル。説明しろ」


『……はい。蒼真様は遺伝性若年性神経変性症、通称HJNDと診断されました』


「治療法は」


『現在の医療では、対症療法のみとのことです』


沈黙が落ちた。


蒼真は自分の右手を見る。

指先が、微かに震えていた。


「……はっ」


乾いた笑いが漏れる。


「俺はもう終わりか」


『蒼真様。決めつけるのは――』


「治療法ないんじゃ終わりなんだよ」


『私が探して――』


「気休めなんていらねーんだよ!」


病室に声が響いた。


ラミエルは、それ以上何も言わなかった。


――コンコン。


静かなノックの音がした。


「蒼真、無理はするな」


聞き覚えのある声に、蒼真が顔を上げる。


「朔真……。何しに来たんだよ」


病室の入口には朔真と、その傍らにラファエルが立っていた。


「統合管理機構に行ったら、蒼真がここにいるって教えてもらった」


「笑いに来たのかよ」


『蒼真様! 朔真様は――』


ラファエルが思わず声を上げる。


「ラファエル。自分で言うよ」


『……はい。出過ぎた真似をしました』


朔真はベッドの上の弟を見る。


「蒼真。俺も同じ診断を受けたよ」


蒼真の表情が止まった。


同じ病。

同じ遺伝子。


ほぼ同じ時期に、同じ病を告げられた双子の兄弟。


けれど二人は、この病によって――


同じ未来を見ることが、できなくなっていく。


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