第三話 おなじしあわせ
第三話 おなじしあわせ
霧島家に双子が誕生した。
父、霧島総平は無事に生まれたことに安堵した。
「志織、元気な双子を産んでくれてありがとう」
「あなた。二人とも伸び伸びと育ってほしいわ」
双子はすくすくと成長した。
三歳――
二人とも身近な機械に興味を示した。
五歳――
二人で目覚まし時計を分解、組み立て直した。
八歳――
両親が勤める統合管理機構に遊びに行って、小さな基本AI基盤をもらって小型犬型AIを作った。
両親は目を見張った。
「二人とも、何を作ったんだい?」
「「お父さん!お父さんが犬飼っちゃダメって言ったから作った!!」」
「え」
「あらあら。大事にするのよ」
「「お母さん!わかった!!」」
総平も志織も、まだ八歳の息子たちが自分たちだけでAIを組み上げたことに驚き、ほんの少しだけ不安を感じていた。
「名前、なんにするの?」
「「ポチ!!」」
少し、安堵した。
それからポチは双子の一番の友達になった。
朝は二人を起こした。
学校から帰ってきて二人がゲームに熱中していると、宿題のノートを咥えて持ってきた。
「そうくん、宿題しよう」
「さく、終わったらポチと遊ぼう」
「わんっ」
休日は日暮れまでボールやフリスビーを投げて遊んだ。
「ポチー。飛べー」
「キャッチー」
「わんっわんっ」
朔真はポチを撫でながら本を読むのが好きで、蒼真は外に連れて行きたがって、たまに揉めた。
夜は時々こっそり二人と一匹で眠った。
ポチが来て半年ほど経った頃――
「さくー。今日は僕がポチと遊ぶー」
「そうくん、昨日も遊んだでしょ?今日は僕の番だよ」
「えー。でもポチと遊びたい」
「じゃ、コピーしてポチ2人にする?」
「コピーじゃ、かたっぽはニセモノじゃん」
「じゃあはんぶんこ?」
「はんぶんこする!!」
「「ポチ、少し寝ててね」」
二人はポチのAI基盤を抜き取った。
「さく、これどうやってはんぶんこする?」
「ここ、ここを出発して、最初だけ二つ線を伸ばすでしょ」
「うん」
「で、お父さんにふたつもらったおなじAIきばんに、この伸ばした線をこうつないで……よし」
「さく、じょうずー。ずるいなー」
「そうくんもすぐできるよー。それにそうくんはまとめたり見つけたりするの、ぼくよりじょうずだよ」
「そうかなー?ぼくもじょうずに線つなげられるようにれんしゅうしよ!」
「それじゃ、そうくんはそっちのパソコン使ってね。ぼくこっちのパソコンでやるから」
「わかったー」
二人は子どもとは思えない速さで入力していった。
事前にポチの性格とそれまでの行動履歴、学習パターンなどをプログラムしていたものに、さらに細かな調整をしていく。
「あ、そうくん、また犬にするの?」
「さくは違うの?」
「んー、犬もかわいいけど、おてつだいもしてほしいから人型にしようかな、って思ってる」
「じゃあぼくも人型で作る」
「あとでお父さんに人型のからだもらおっか」
「ぼくたちと同じぐらいの大きさにする?」
「うん。あとでまた大きくしよー」
「そうしよ。名前なんにする?」
「「カッコいい名前がいいね」」
カタカタカタカタ……
おしゃべりの間にも入力は続いている。
「天使の名前とか、なんかカッコよくない?」
「そうくんはミカエルとかにするの?」
「さく、そんな有名なの面白くないじゃん」
「ぼく、あんまり知らないからラファエルにしようかな」
「ラファエルも有名な気がするけどな~。じゃ、ぼくはラミエルにしようかな!」
タンッ――
二人同時に最後のキー入力が終わった。
「「できたー!!」」
端末の最終画面には
――同型基盤分離システム再構築完了――
と表示されていた。
二つの新しい基盤には、ポチが積み上げた学習と経験の全てが受け継がれていた。
コピーではなく、ひとつだったポチがふたつの存在へと分かれたのだった。
元のポチの基盤にはもうポチの人格は残っていないが、ポチの体に戻して二人の机の間に置いた。
新しい二つの基盤は保護ケースに入れて、帰宅した総平に見せた。
「「お父さん!ポチが二人になったよー」」
「は?どういうことだい?」
「「あのねー、ポチの元のきばんから線のばしてねー、パソコンでつないでねー」」
「いやいや、なんか大事なとこが抜けてないかい?」
「「えー。お父さん所長なのにわかんないの??」」
総平は色々すっ飛ばしながら説明する二人の話を聞いても信じられなかった。
言っていることはわかる。
だがそれは――
総平は二つの保護ケースを見つめたまま言葉を失った。
その後、総平は二人にねだられ、九歳の誕生日に人型外装をプレゼントする、と約束させられた。
迎えた二人の九歳の誕生日。
総平は再び目を疑った。
息子二人が作り上げた基盤は、既存の工場生産型AIとは根本的に異なっていた。
同型基盤はもちろん量産化されているが、成長途中基盤から全く同じ人格を分岐させることはまだ成功例がない。
双子は誕生日プレゼントを受け取ると、唖然とする父の前で人型外装に基盤を組み込んでみせた。
「「お父さん!見て!!」」
二体の人型AIがゆっくりと目を開けた。
朔真の前にいるラファエルが口を開く。
『さくまさま』
蒼真の前に立つラミエルも。
『そーまさま』
「「これからよろしくね」」
双子は声を揃えて、嬉しそうに言った。
双子の九歳の誕生日――
世界初の双子AIが誕生した瞬間だった。




