幕間3(リーシャ視点)
「よ、リーシャ久しぶり」
「クレハ?」
ある月夜の晩。
最早日課となっている、塔の窓から月を眺めようと窓際に向かえば。
閉じていたはずの窓は開いて、ひんやりとした風が部屋へと舞い込んでいて。
友人であるクレハが窓際にゆったりと座っていた。
「いい夜だ、本来なら酒でも酌み交わし、話に花を咲かせたい所だがタイミングが違うわな」
「そう、ね」
相変わらずの軽口に、私は戸惑いを隠せない。
神出鬼没のクレハが突然現れたこと、何よりも。
「ベアの事だろ・・・・・聞いたよ、クロエにな」
「あったのっ?」
思わず前のめりになってしまう。
「会った会った、だからま、事情は知ってる」
彼女の言葉は乱暴でも、仕草は何処までも優雅で、私の知っているクレハそのもの。
いつ会っても彼女は彼女のままだった。
「そう・・・・・・ねぇ、クロエは元気?」
「元気元気、今日も元気に・・・・・・あー毎日のたうちまわってるわ」
「のたうち? ――――あなた、真逆っ」
声音に若干の焦りと、目をそらすクレハに一つの単語が浮かぶ。
鬼喰らい、という恐ろしい禁術の名を
「そ、正解」
「なんてことをっ」
「まぁ、気持ちはわかる・・・・・・けど、それをお前がどうこう言う資格はないぞリーシャ」
ここで目つきを細めて私を見る。
その射貫くような視線に思わずびくりと肩を振るわせた。
「私が初めて会った時、クロエは死んでいた――――その意味わからないというわけじゃないだろ?」
その言葉に、息が止まり、心臓を掴まれた気分になった。
「私が出会ったとき、クロエは壊れた人形のようだった、無関心・・・・・・しかも自分すら、だ。そんな状態のヤツは何をしても駄目だ。言葉通り生きる屍ってやつになっちまってるからな」
「・・・・・・だから鬼喰らいを?」
「違う」
クレハはここで困ったように笑う。
「あれは私の一部をくれてやることでもある。そんなもんをたかが壊れた、だけでやるほどお人好しでも酔狂でもない」
「・・・・・・」
知っているわ、と返事をするつもりが、何も言えなかった。
色んな感情が私の中で渦巻いて、形にできなかったから。
「文句を言う筋合いはないと思うが、かといって、私に感謝しろともいわねーよ、ありゃ半分自殺行為だかんな。ただ力を求めるヤツがやっても大抵死ぬだけだ」
クレハが空を見る。つられて私も空を見る
半月が丸みを帯び始めていた。
「なら、どうして?」
「ヤツの願いに応えてやりたいと思って・・・・・・あとは乗り越えられると思ったからだな」
少し言葉をまとめるように、自分の気持ちを確認するかのようにクレハは言った。
「久しぶりにみたぜ、自分の願いのためなら、どんな困難をも噛み砕かんってするヤツは」
ここでクレハは豪快に笑う。
どうやら、クレハはクロエをとても気に入ったらしい。
「だからもうちょい待ってなリーシャ」
事も何気にいう。
「今私が助け出してやってもいいんだけどな、その役目はクロエに託すさ、あいつの覚悟が形になり、お前の元へ辿り着くまで」
ぽんと軽く私の肩を叩く。
「次の満月の晩だ」
それは予告。
「その日、クロエがお前を迎えにくる、それまで待っていろリーシャ」
そう言って窓から飛び降り去って行く。
黒い影は夜の闇に紛れ、次第に存在を見失う。
少しの間その空間をみつめ、やがて顔を上げる
そこには小さな星がいくつも瞬いて、ぽつんと月が浮かんでいた。
その月をじっと見つめ続ける。
そこに込められたのが、願い、祈り、思う事がたくさんありすぎて、一つにまとめ上げることができず、それでもただ愛する息子を思っていた。
そんな私を月光が包み込み、夜の静寂は続いていく――――。




