第3話 戦術指南
バイパーが尋ねた。
「ところで、いったい、どうして怪我をするような戦い方になってしまったのだ」
すると、若者が語り始めた。
「実は、思っていたより相手の数が多かったのが原因です。数で不利な状況になり、しかし、無謀にも戦闘を始めてしまいました。俺は、複数の魔物に追い詰められ、崖から落ちてしまい、このありさまです。」
じっと若者の話を聞いていたバイパーは、そうかと納得しワッツへ言った。
「なるほどな。まず情報戦での負けだな。相手の数を把握できずに、戦うのは愚策だ。必ず先に偵察をすること。そして、もし今回のように予想外に敵の数が多いと分かった場合は退却だ。逃げることは恥ずかしくも何ともない。一旦、退却し、体勢を整え、それから策を練ってから再度、攻撃だ。」
若者はバイパーの話をごくりと唾を飲み込み聞き入った。
「気づかれずに引くことが出来れば良いが、そうとばかりとは限らん。だから退却での最も大事なことをよく覚えておくように。退却で最も難しいのは、最後尾。つまり、しんがりの務めだ。もっとも危険で、退き方が難しい。相手は、こちらが逃げ出したことに気づいた途端に一斉に追いかけてくる。しんがりは、戦う。退く。戦う。退く。の繰り返しになる。とても不利で危険な役割だ。」
バイパーの話を、一言たりとも聞き逃すまいとワッツは聞き入っている。
「だが、策はある。ここで伏兵を残しておくんだ。戦い退く。これを数回やる。そこで、調子づいた敵に横から一撃を加える。これが敵に恐怖を与える役目を果たす。これを繰り返すと、敵はむやみやたらと後を追いかけられなくなる。いいか、どんな場面でも戦い方がある。もっと戦術を学ぶのだ。」
バイパーは、かつて自分が同じような戦いの場面に遭遇したこと。そして仲間を失いかけたことを思い出しつつ、若者に戦い方を教えた。
「はい。バイパーさん。ありがとうございます。俺、もっと戦い方を勉強します!」若者は勉強不足であることと、いろんな戦い方があることを知り、目が輝いてきた。
「ところで、この高価な聖剣は役に立ったのか?」
唐突に剣の話を振られ若者は、あたふたしてしまったが、少し間を置き答えた。
「はい。・・・まあ、役に立ったというか、知らせてくれました。『危険です!危険です!大変、危険です!』と、無機質な女性の声とともに、馬鹿でかい音が鳴り始め、緊急事態であることを知らせてくれましたよ。まあ、崖っぷちで敵に囲まれ逃げ場が無くなった時に、その音が鳴ったため、敵がびっくりしたのは助かりましたが・・・。」
「ははははっ。そうか、危険な状況で、もはや逃げ道すらないと知らせてくれたのか。んー、伝説の聖剣らしいといえば、そうだが・・・。もう少し早くに教えてくれればいいがな。他には無いのか?」
若者は、ここで急に得意げになりバイパーに伝えた。「はい。あります!」
「この聖剣。月額利用が上限に達すると、今度もまた女性の声で『今月のご利用ありがとうございました。』と、そのことを知らせてくれます。そしてここが大切なんです。お金を追加すればさらに利用時間が伸びるんです。どうです?便利でしょ。」
その話を聞いて、「やれやれ・・・」と、ため息交じりに、「そ、そうか。便利な剣だな。」と答えるしかなかったバイパー。
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バイパーは宿への帰り道、行きつけのバーに寄った。そして、酒を飲みながら考えた。
「戦術は戦いながら覚えてきたが、剣道場はあっても、戦術や戦略を知る学べる場所はないな・・・。んー。」
そんな風に考えているとき、店主が声を掛けて来た。
「先生。なんだか悩みながら、でも楽しそうな感じですね。腰を痛めてから魔物退治には出かけてないんでしょ。」
店主の声にハッとしたバイパーは、答えた。
「そうなんですよ。俺は思っている以上に歳を取っていた。若い頃から魔物退治で走り回っていたので体力はあった。しかし、現役は無理な歳になっていたと、今頃になって気づいて、これからはどうするか。考えているところですよ。」
「ふふふ。先生も歳には勝てないですか・・・。そうだ。この店でちょっと働いてみませんか?毎日でなくてもいい。酒場っていう場所は、いろんな情報が行き交いますからね。面白い話も聞けますよ。」
店主からの急な誘いに驚きはしたものの、酒場で働く・・・。情報が飛び交う・・・。ほーぉ、何かちょっと気になるな。
バイバーは、決意とも、未練ともつかぬ酒をぐびっと飲んだ。




