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番外編~天然は重罪です~

 少年はイライラを隠し切れない様子で木で出来た窓枠を人差し指で弾いた。カタン、と小さな音を立てた後、乾いた空気が人気のない室内に広がった。テオは外の冷気を感じながらも、敢えて窓に寄り添って少し目を細める。視線の先には、自分の姉であるフィリーネと、イライラの原因であるある男が絶妙な距離感を保って歩いている。思わず舌打ちしそうになるのをすんでのところで堪えて窓から離れると、長くため息を吐いた。


 最初から期待してなかった。期待してはいなかったが、ここまで酷いとも思っていなかった。このままでは本人を目の前にして、悪態を吐いてしまいそうだ、と心を落ち着かせる。あんなボンクラでも、一応、テオよりは身分が上なのだ。今まで散々自身の身分の恩恵に与ってきて、好き放題してきたテオだったが、この時ばかりはこの国の絶体的な身分制度を呪った。


「………………教育が必要かな」


 到底、身分が上の者に対する口の聞き方とは思えない発言だが、テオの我慢も限界を迎えようとしていたので、この位は許して欲しい、いや、許されるべきだ、と開き直る。


 クリスマスパーティーに誘われた。そう嬉しそうに喋っていたフィリーネの顔が浮かんだ。パーティーでも仲良さそうに寄り添っていた。しかしその後に何も展開が無かったのは側から見ていても想像がついた。いつも微妙な距離感で会話をしているもどかしさといったらない。それもこれも全部アイツが悪いのだ、とテオは思った。


 再度ため息を吐くと、もうすぐここに戻って来るであろうあの男をどんな顔で迎えてやろうかと、ゆったりとしたソファに沈み込むように座った。そして表情を歪めてドアを見つめた。


***


「テオ…………すまない」


 顔が見えて開口一番そう言った彼には一応自責の念はあるらしい。しょんぼりと項垂れる様子を見てしまうと、流石のテオでも先ほどまでのイライラが半減する。しかしここで諦めてしまったら、自分の計画がダメになる。それだけはあってはならない。


 何のために長い時間をかけて努力したのか。何のためにこんな辺鄙な田舎の古臭い学校に編入したのか。何のためにこんなボンクラ坊ちゃんの相手をしているのか。その答えの先にあるのは、全部リエナだ。リエナが世界の中心で、いつも心はリエナに支配されている。昔からずっと。


 それなのに、物事は上手くいかないどころか最悪の始まり方だった。やっと手が届く場所まで来れたと思ったのに、リエナはあろう事かボンクラ坊ちゃんで王族であるカルヴィン・アルヴァレズに想いを寄せていた。リエナの恋愛偏差値の低さのお陰で強引に割って入る事が出来たが、リエナはまだ吹っ切れない様子で、少しカルヴィンを気にしている。その事実だけでも気に入らないのに、更にカルヴィンは姉であるフィリーネの事が好きだと言う。もうこの時点で、テオの頭痛の種は増え過ぎて収集がつかなくなっていた。


 なんとしてもリエナをカルヴィンから引き離し、自分だけを見ていさせたい。その為には、カルヴィンとフィリーネの仲を取り持つのが最善だ、とテオは思った。カルヴィンはフィリーネの事が好きで、フィリーネも悪い気はしていない。それなら話は簡単だ。そう楽天的に考えていた過去の自分に忠告してあげたい。


 常識では考えられないような思考と行動を起こすのが“天然”と呼ばれる人種なのだと。


「あ、……寒い中待たせてすまなかった…………そうだ! とっておきの紅茶を淹れようか!」


 沈黙に耐えかねたかのようにカルヴィンが声を発した。テオはにこやかに首を横に振りながら、カルヴィンを向かいのソファに座るように促した。


 カルヴィンはポットから手を離すと、いつもよりは少し小さく見えるような空気を纏って腰を下ろした。テオが言いたいことは分かるらしい。


 生徒会室であるこの部屋にはテオとカルヴィンの2人だけしか居ない。他に声を発する者が居ないと言うことは必然的に、室内には張り詰めたような空気が流れ始める。勿論、その冷たい空気の元凶はテオだ。一見、天使のような笑みを浮かべてカルヴィンの事を見ているが、目の奥が明らかに冷たい色をしている。


「で、どうでした?」


 目の奥だけではない。声色にも若干の鋭さを感じる。


「いや、あの」

「フィリーネはなんて?」

「それが、その」

「きっと喜んだでしょう」

「…………」


 段々と冷めていく自分の声に思わず渇いた笑いが出る。カルヴィンの気まずそうな顔で答えは分かっている。分かっているが、腹の虫が収まらず、結果冷めた声で尋問紛いの質問をしてしまう。


 しかし、こんなやり取りを続けていてもそれこそ時間の無駄だ。自分にもタイムリミットがある事を思い出すと、テオは切り替えたように表情を明るくして見せた。途端にカルヴィンの周りの空気が緩むのを感じて、彼の扱いやすさに呆れた。


「カルヴィン様には少し勇気が足りないように感じます」

「と、言うと?」


 テオは柔らかい口調で、フィリーネの様にのんびりと声を出した。姉とそっくりの顔で姉のような穏やかな口調で語りかければ、カルヴィンの気持ちはすぐに向上する。


「時には強引になることも必要です」

「そんな! 女の子に対して強引になんて……!」


 赤面しながら慌てるカルヴィンを見て、一体どんな想像をしているのだろうかと、一周回って興味深く思えてくる。

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