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告白

***


 リエナは何回も鏡の前を行ったりきたりしては落ち着かなさそうに視線を動かしていた。父親が送ってくれた赤いドレスは自分には派手すぎだと思っていたが、着てみると案外落ち着いていてリエナにぴったりだった。襟ぐりが少し広めで落ち着かないが、夜会のドレスならこのくらいが丁度良いのだろう。ただでさえ背が高いのにヒールのせいで他の女の子たちより頭一つ分くらい飛び出てしまっている。お陰で視界は開けているが、もう少し低いヒールのものを履いてくればよかった、と目立たないように壁際まで移動する。


 早く着き過ぎた玄関ホールには段々と人が集まり始めてきた。みなが楽しそうに談笑し、パートナーを見つけてはクリスマスパーティー会場へと向かっていった。時折、盗み見られているような気がしたが、それどころではないくらいに緊張していた。


 テオに招待状を貰ってからというもの、なんとなくテオを避けて過ごしてきた。勿論、介抱してくれたことに対するお礼もまだで、さすがに失礼だな、と思っていたが今日まできてしまった。フィリーネとは普通に接するように努力していたが、結局クリスマスパーティーに参加することを伝えずに出てきてしまった。あの仲の良い姉弟のことだからもしかしたらもう伝わっているかもしれないが、できれば自分の口で伝えたかった。前に進もうと決めたのに、どうしても勇気が出ないでいる。


 リエナは薄手の白いレースの手袋をした両手を胸の前で組んだ。室内パーティーだからと防寒を怠ったせいで先程から鳥肌が止まらない。このままでは体調にまで影響が出てしまいかねないと思ったリエナは上着を取りに部屋に戻ろうとした。


「え、リエナ?」


 突然背後から声を掛けられ、飛び上がりたい気持ちで振り向く。そこには驚いたような顔のテオがいた。いつもよりもかっちりとした服装にサイドの髪をかき上げていて思わず目が離せなくなる。


「テ、オ……」

「まだ約束の時間よりだいぶ早いはずだけど……いつから待ってたの?」


 ふ、と可笑しそうに微笑まれると少し緊張がほぐれた気がした。


「い、今、来たところよ!」


 変に甘噛みしてしまい思わず喧嘩を売っているような態度になってしまう。


「そっか」


 テオは気にするでもなく、自然に近寄ってきた。そしておもむろに自身の上着を脱ぎだすとリエナの肩にかけた。


「?」

「ここ、少し寒いよね」


 言われて、鳥肌が立っていることに気がつかれたのだと察して恥ずかしくなる。きっと、随分前から待っていたこともばれているのだろう。


「…………小さいわ」


 まだまだリエナよりも小柄なテオの上着はリエナが袖を通せるようなサイズではなかった。しかし気持ちが嬉しくて、肩に掛けなおして照れ隠しをする。


「えー? そこはさぁ、可愛い笑顔でありがとうって言うところじゃない?」

「わたしには無理だわ」


 可愛い笑顔なんて、そんなの出来るわけない。


 リエナは赤くなっている自身の顔を遮るように両手で覆った。


「まぁ、今の顔も可愛いからいっか」


 テオはさらりと言ってのけると、リエナの方に手を差し出した。


「リエナ、行こう」


 リエナは一瞬、躊躇したものの、意を決してテオの手にそっと手を重ねた。


***


 すぐに見つかると思っていたフィリーネとカルヴィンはパーティーが終盤に差し掛かっても姿が見えなかった。あれだけ目立つ二人なのだ、人だかりが出来ていてもおかしくないはずなのに、それらしい人物は見当たらなかった。


「おかしいなぁー。フィリーネどこ行ったんだろう?」


 テオも一緒になって探すが、一向に見つかる気配がない。途中、テオの同級生の女の子たちがテオに話しかけてきたが生返事で追い返していた。同級生にぞんざいな態度をとっているテオを見て、今後のテオの学園生活が心配になって、つい姉であるかのように注意してしまった。しかしテオはその注意すらも不快そうに聞き流していた。


「フィリーネは……何か言ってなかった……?」

「いや、特には……あ!」


 言いかけたテオは急にリエナの腕を掴むと、壁際へ連れて行った。


「なに、どうしたの……?」

「ほら、あれ」


 テオが指差す先には肩を寄せ合い並んで歩くフィリーネとカルヴィンの姿があった。二人で寄り添いあい、壁際に設置された椅子に腰を下ろし、何やら楽しそうに喋りだした。


 そんな光景に途端に胸が痛み出す。


「あ……」

「リエナ……」


 テオの気遣うような声に弱気になりかけた心に意思が戻る。ここで逃げたら一生後悔するに違いない。


 リエナはぎゅっと拳を握ると背筋を伸ばした。そして真っ直ぐにフィリーネとカルヴィンの方に向かっていく。横には見守るようにテオがいてくれている。


「フィリーネ!」


 リエナが声を掛けると、フィリーネは驚いたような顔をした後、立ち上がり、リエナに抱きついた。


「リエナ! 来ていたの!? すごい綺麗だからびっくりしちゃった!」


 フィリーネははしゃぎながらリエナの格好をまじまじと見た。リエナもフィリーネを見る。淡いピンクのレースがふんだんにあしらわれた可愛らしいドレスを着ていた。ふわふわと可愛らしいフィリーネにぴったりでなんだか眩しい。


「あの、フィリーネ」

「なぁに?」


 フィリーネは屈託のない笑顔で真っ直ぐにリエナを見てくる。この笑顔を見られるのも最後かもしれないと思うと先程感じたよりも鈍い痛みが胸の中に広がる。


「今から言うことで、フィリーネのことを傷付けてしまうかもしれないの。…………それでも聞いて欲しくて……」


 フィリーネはいまいち状況を把握できていないらしく、小首を傾げたが、小さく頷いた。


 リエナは意を決してカルヴィンの方を向いた。


「カルヴィン様……わたしはカルヴィン様をお慕いしておりました」


 告げられたカルヴィンは勿論、フィリーネも驚いたような顔で固まった。


「始めて会った時からずっと、大好きでした……」


 最後の方はほとんど声も出なくなっていた。それでも伝えられたことに胸がいっぱいになった。


「リエナ!」


 固まっていたフィリーネが急にリエナを抱きしめた。突然のことで体勢を崩しかけるが、なんとか持ちこたえる。フィリーネはリエナの胸に顔を埋めていて表情が分からない。


「そんな、わたし、ずっとリエナのこと傷付けていたなんて……!」


 フィリーネは顔を上げると、大きな瞳いっぱいに涙を溜めてリエナを見た。


「ごめんなさい……」


 何故フィリーネが謝る事態になってしまっているのか、リエナは混乱した。


「なんでフィリーネが謝るの……? 悪いのはわたしの方なのに……」

「リエナは悪くない!」


 普段語気を荒げることがないフィリーネが大きな声を出す。


「リエナは絶対に悪くなんかない!」


 フィリーネは殆どわめいている様な口調で一生懸命に抗議する。普段とは違いすぎるフィリーネの様子にちらちらと視線を向けてくる生徒がいたが、近づいて来ようとはしなかった。


 リエナはフィリーネの髪の毛を優しく撫でると、少し落ち着いたのか声を落とした。


「ありがとう」


 リエナは最後に手でフィリーネの涙を拭うとカルヴィンの方へ向き直らせた。


「カルヴィン様、この通りフィリーネは友達思いのいい子です。自慢の親友なので……これからも末永く親しくしていただけますか……?」


 リエナの発言にフィリーネはすばやくリエナの方を向き、カルヴィンは神妙な顔をした後、笑顔で頷いた。


「ありがとうございます」


 リエナはなんとか笑顔を作って二人を音楽が流れ始めたホールの中心へと送り出す。ホールではクリスマスパーティー最後のダンスタイムが始まるところだった。


 見守られていると気まずいだろうから、とリエナは喧騒から離れるように一人、外へと抜け出した。

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