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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第6章 囮作戦

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【6-9】慰安所 下

【第6章 登場人物】

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「ここから少し下ったところに、慰安所が設けられたようですよ」

 力強く耳打ちした後も、ゴウラは鼻息が荒いままである。


 ――なるほど、上長のトラフや後輩のレクレナ等女性陣が不在なのを確認していたのか。 

 レイスは部下の様子に合点がいった。


 本日、彼女たちは非番である。2人で帝国軍向けのマーケットをひやかしてみると言っていた気がする。


「……ほう、久しぶりにお世話になろうか」

 レイスは、部下からの提案に乗る様子を見せようとしたが、言葉とは裏腹に、口調は意気込みに欠けるものになってしまった。



 ヴァナヘイム国商人は、存外図太い。ここ最近、帝国将兵を相手に商売をはじめる者が急増していた。


 連戦連敗を喫したヴァナヘイム軍は、兵卒の戦死・戦傷に逃亡が重なり、総勢は6万に満たないところまで数を減らしていた。


 ここにきて、自軍の守りを固めることに精一杯で、各陣営は葬式のように静まりかえっている。


 一方で、帝国軍は、総勢20万以上にもおよぶ。戦線は50キロにも連なり、それは大都市が引っ越してきたのも同じ賑やかさである。


 ヴァ国の商人としては、戦後を見据えて、既存の支配者に見切りをつけ、新たな商売相手を贔屓ひいきにするのも当然であろう。



 当初は、ちょっとした食料品を取り扱う露店が点在するだけだったが、帝国兵が喜んで購入するため、店数や品数はたちまち増えていった。


 最近では屋台が立ち並び、1週間遅れではあるものの、帝国東岸領の新聞まで手に入るようになっていた。


 そして、部下の報告によれば、簡易な慰安所まで軒を連ねはじめたという。


 もちろん、どの店舗でもヴァナヘイム国の通貨・ラウプニルだけではなく、2段表記の値札のとおり、帝国の通貨・クランで支払うこともできるそうだ。むしろ、クランの方が喜ぶ店主が増えているとも聞く。



「……やはり、明日は砲兵の再配備を検討しておきたい。お前たち、先に休みをとっていいぞ」


「そうですか。でも、なぁ……」


「ええ、少佐を差し置いて……」


 上官よりも先に休暇を取得することに、ゴウラのみならず、カムハルほか部下たちは、罪悪感を抱いているようだ。


 ――可愛いヤツらめ、たまには殊勝なことを言ってくれるではないか。

 レイスは口角を少しだけ上げた。


「そう言っておいて、自分たちに慰安所の偵察に行かせたいんでしょう」


「斥候はレイス隊のお家芸ですからね」


 ――前言撤回だ。

 レイスは鼻息を勢いよく放つと、への字にした口を開く。


「……おそらく、今回の休暇は長期になるだろうから気にしなくていい。俺もおいおい休むから」

 言いながら、レイスは傍らのコーヒーを再び手に取った。


「休暇命令は、この3日だけですが……」

 ゴウラたちが、怪訝けげんそうな表情を浮かべているのは、休みが延びると上官が予言したためだろうか。


「もっと長くなる。いまごろ総司令部の連中は、戦後の論功行賞ろんこうこうしょうでもめているだろうよ」


「論功行賞……分かる気がします」


 誰がノーアトゥーンへ一番乗りをし、手つかずの王都で略奪をほしいままにするのか。


 これまで手に入れた、これから手に入れるであろうヴァナヘイム国諸都市を、誰が治めるのか。


「それが、明後日までに決着がつくなんてことは、ないな」


 ヴァナヘイム軍の様子がこれまでどおりであり、かつ戦況がここまで一方的であれば、3日や4日、帝国軍が動きを停止しても問題ないだろう。


 しかし、ヴァ軍の布陣は帝国側の想定を覆しつつある。はたして、いまの戦況がいつまでも約束されたものになるだろうか――。


 己の思考を振り払うかのうに、レイスは頭を軽く左右に振ると、カップに口をつけた。何か声掛けしようとするゴウラやカムハルを構わずに。








 ――にがい。


 彼は、珈琲を口に含んでから、砂糖とミルクを入れ忘れていたことに気が付いた。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


野郎どもはどーしようもないな、と思われた方、是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「弛緩しかん 上」お楽しみに。


4か月以上にわたる際限なき停滞に、下士官や兵士たちは退廃的な空気に包まれはじめていた。


帝国兵の間に飲酒や出歩きなどがそこかしこに見られはじめたのは、6月に入って間もない頃である。


軍紀の緩みは、末端の兵士たちに顕著に見られた。

彼らの間では、酒に酔った戯れに「度胸試し」が流行りだしたのである――。

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