【6-7】臭気
【第6章 登場人物】
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――この男、序盤戦において、我が軍に次々と勝利をもたらしただけのことはある。
セラ=レイスの流れるような解説は、心地よさを感じるほどであり、エリウ=アトロンは、もう少し聞いていたいとの思いすら抱いてしまうのだった。
総司令部を追いだされた彼らを、どの部隊も引き受けようとしなかった。
ところが、彼らの有能さと働きぶりは脱帽ものであり、東征軍随一と言っても間違いなかろう。
右翼の外れに左遷された後も、戦場を俯瞰して偵察を重ねていた紅毛の若者の姿勢に、この女連隊長は舌を巻く思いであった。
かような者たちを手放さなければならなかった父の想いが、いまさらながら伝わってくるようである。
同時に、総司令部や東都ダンダアクに漂う人事の臭気が、彼女の鼻腔にまとわりつくのであった。
***
事態を重く見たエリウは、「ポイントD」への即時攻撃をうながすべく、動き出した。
彼女は、直属の上官である右翼第1師団長・ゲイル=ミレド少将を介し、右翼第1軍団司令部へ意見書を送りつけようとしたのである。
意見書の提出は複数回に渡ったが、セラ=レイスによる戦況分析も添えることを忘れなかった。
しかし、それらは、父であり、帝国東征軍総司令でもあるズフタフ=アトロン大将のもとには1通も届かなかった。
「最前線に飛ばされた『味方殺し』の元・先任参謀が、未練がましく何か言ってきておるわ」
と、第1軍団長・エイグン=ビレー中将麾下、ミレド少将をはじめとする右翼各師団の将校たちは、鼻で笑うだけだった。
分析書などろくに目を通さず、ゴミ箱へ放り込んでいたのである。
彼らは、王都ノーアトゥーンへ乗り込んだ後の略奪の順番と、戦後の昇進、自領の加増のことしか頭になかった。
何よりいまは、ビレー中将陣営の一員として、慎重を期さねばならない。
なまじ作戦行動を展開し、失態など犯した場合、敵対するブレゴン中将陣営に対し、後れを取ることになるからである。
さらに、ヴァナヘイム軍は、布陣替えにひと月も要しており、そのような緩やかかつ静かな動きも、帝国軍主脳部に危機感を想起させない要因となった。
ヴァ軍は、この日ものんびりと布陣改めを進めている。
敵の総司令官は、知っているのだ。
内輪もめに忙しい帝国軍が、襲ってこないことを。
自分たちには、時間がたっぷりあることを。
「……なかなかやるじゃねぇか」
レイスは丘の上で一人舌打ちした。
それは、自らの迂闊さ――アルベルト=ミーミルが司令官就任した折、その人物・経歴を調べなかったこと――を罵るものだった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
意見書と分析書、ゴミ箱から拾ってアトロン総司令官に届けたいと思われた方、是非、ブックマークや評価をお願い致します。
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【予 告】
次回、「慰安所 上」お楽しみに。
ゴウラは周囲を見回し、アレン=カムハル少尉や従卒に何やら確認してからひとつうなずいた。
そして、こちらに1歩近づくと、力強く耳打ちしてくる。
「ここから少し下ったところに、慰安所が設けられたようですよ」




