【6-5】ポイントD 中
【第6章 登場人物】
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ヴァナヘイム軍は、ケルムト渓谷という天然の堀の南北に、各部隊の敗残兵を無秩序に並べていただけである。そこかしこに、兵力のダマができ、全体的にムラが生じてばかりいた。
密をかわし、疎を衝けば、容易に突破できるであろう。
「そこで、我らが着目していたのが、この『ポイントD』なのです」
白手袋をはめた部下の指に合わせて、女上司も視線を動かす。
トリルハイム城の南東、帝国軍右翼が展開する先に、ケルムト渓谷の一部を遮るかのような小高い山が隆々と広がっている。
描かれた山々に楕円を2周描いたあと、レイスの人差し指は、まっすぐ北へ向けて進む。
「……この渓谷沿いには、一定数の部隊が通行できるだけの獣道があります」
それを北上していけば、王都への街道へ抜け、そのままノーアトゥーンを最短で抜けることができると、紅髪の部下は結ぶ。
「ここには、敵の厚い備えがあったはずだが」
自軍に最も近い区域である。エリウも敵の様子は把握していた。
獣道とやらの有無とは関係ないだろうが、ヴァ軍はかなりの数でこちらに圧力をかけてきている。
「もちろん、敵もこの地域に守備兵を充分に展開しておりましたが、それは『置いていた』という表現の方が的確でした」
ケルムト渓谷の南北に無秩序に並べられた他の戦力と、ここも同じなのだと紅髪の参謀は言う。
連戦に疲れ果てた彼らが、本来の力を発揮できるか否かなど、分析するまでもない、と。
「しかし、この区域を束ねるのは、アルヴァ=オーズだったはずだが――」
いましがた示された楕円の一端に、女大佐は長い指先を置く。
図上には、敵の猛将の名前が鉛筆で記されていた。
「はい、確かに。ここには、オーズ師団が布陣しています」
その名を耳にすれば、帝国軍の将校すら身構えるほどの豪傑である。
2年前、帝国大使館を襲い、自ら開戦の火蓋を切って落とすや、彼は麾下と共に、これまでの各戦役を戦い抜き、この区域に結集していた。
【5-18】梟
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それを、この紅髪の部下は、畑の案山子か何かにしかとらえていないかのような物言いである。
つまるところ、「ポイントD」とは、敵の勇将麾下、損害軽微な戦力の密集エリアであった。敵は疲労困憊とはいえ、数だけは潤沢である。軍事力としては、トリルハイム城塞に引けを取らないかもしれない。
すなわち、ここは兵力のだぶついた区域、濃淡でいえば「濃」……「特濃」のエリアにあたるはずだ。
それが、どうしたことか、情報収集・分析に秀でているはずのこのニワトリ頭は、そのような場所を衝けと主張するのだ。
帝国軍としては、密を避け、疎をうかがうのではなかったか。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ヴァナヘイム一の猛将軍を案山子扱いとか、レイスはビッグマウスだな、と思われた方、
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【予 告】
次回、「ポイントD 下」お楽しみに。
「山の中腹にいる敵など、怖くもありませんな。足元から、小山の形が変わるほど砲弾を送り込んでやればいいだけです」
レイスは、二次元の図上で、三次元の弾道を示すように指を動かした。
「いや、それよりもですね……」
何か名案を思いついたようだ。ニワトリ頭の笑みには、底意地悪い色合いまで浮かびはじめている。




