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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第6章 囮作戦

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【6-4】ポイントD 上

【第6章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n8102if/78/

挿絵(By みてみん)


 セラ=レイスとその部下たちは、右翼・エリウ=アトロン麾下に回された後も、自前の斥候を四方に走らせ、敵の情報収集を怠っていなかった。


 上層部から命じられたわけでもないのに、彼らが熱心に集めた情報は膨大な量にのぼり、現・総司令部がつかんでいるそれよりも、正確さにおいて上回っているように思われた。


 そこで、レディ・アトロンことエリウは、自らの連隊における斥候の差配も彼らに任せてしまうことにした。


 隊の命運を左右する情報担当を新参者に委ねるのは、この女指揮官らしい思い切った担務変更である。



 日が暮れると、前日より放っていた斥候たちが、「大砲に金貨を添えて」という風変わりな戦旗の下――レイス隊幕舎に次々と戻って来た。


 幕舎内の多くを占めるは、ヴァナヘイム軍の展開位置をしるした大きな作戦図だ。斥候兵からの報告をもとに、紅毛の将校たちが一心不乱にそれを描き直している。


 エリウは、彼らの邪魔をしないよう、珈琲の香りかぐわしいカップを片手に、背後からその様子を見つめていた。


 昼間、丘上で見たとおり、どの斥候兵もヴァナヘイム軍の陣容再編の妙を伝えてくるばかりであった。


 薄く頼りないまくに過ぎなかったヴァ軍布陣は、次々と強弱が付けられ、いつの間にか魚のうろこのようなまとまりと秩序が生まれていった。


「『ポイントD』においても、敵の布陣が改められつつある」

との報告に、レイスは思わずうなり、斥候にその詳細な説明を促したほどであった。


「どうした?」

 紅い頭髪を右手で掻き乱した部下に、エリウは思わず問いただした。


 事情を呑み込めていない上官に対し、レイスは図面をもとに解説を始める。

「『ポイントD』とは、次の戦闘再開と同時に、真っ先に仕掛けるべきだと考えていた地区です」



 エリウはカップを置いて立ち上がると、改めて図面を俯瞰ふかんした。


 イエロヴェリル平原北端では、帝国軍が翼を広げた鳥のように布陣している。


 そのほぼ中央に立ちふさがるヴァ国の城塞都市には、「トリルハイム」と記されていた。


 平原を酒瓶に、帝国軍を葡萄酒に例えるならば、トリルハイム城はコルク栓に位置する。


「敵は、王都直前のトリルハイム城に兵力の大部分を割き、防衛に徹していました」


 レイスは、図面に指を乗せる。


 城の東西は、数十キロにわたり大地が穿うがたれていた。いわゆるケルムト渓谷である。


 ここから北は、王都まで山林が続いている。その足元では、細流が山々の間をはしり、複雑な地形を生みだしていた。それらは渓谷を経て1つの流れとなり、ヴィムル河として平原を潤すことになる。


 トリルハイム城塞から王都ノーアトゥーンまでの合間は、自然の造形物だけでなく、人工の造形物もわずかながら存在した。


「この城の後背には山林や渓谷こそ続きますが、王都までの山間を、街道に加え鉄道までが延びており、それらを遮るものはありません。城塞を死守しようとするのも当然のことでしょう」


 レイスは、コーヒーを一口含み、喉をうるおしてから続ける。


「この城の守りをそこまで固められてしまうと、圧倒的な兵力と火力を擁する我が軍をもってしても、攻め落とすことは容易ではなくなります」


 レディ・アトロンはうなずき、説明の続きを促す。


「城塞そのものは固く閉ざされましたが、その周辺はそうはいきませんでした」


 この2年間、ヴァナヘイム軍は負け続け、先日のヴィムル河流域会戦では、総司令官までもが戦死した。


 手持ちの兵馬はいよいよ少なくなり、傷を負っていない将兵すら希少になりつつある。周辺区域の守りを万全にするには、絶対的に兵力が不足していた。


 しかも、総司令官が不在だったためか、その貴重な戦力を、彼らはまるで有効に配置できていなかった。


 ケルムト渓谷という天然の堀の南北に、各部隊の敗残兵を無秩序に並べていただけである。


 そこかしこに、兵力のダマができ、全体的にムラが生じてばかりいたのであった。


 ただでさえ少ない兵馬に、諸所で生じた配置の偏り――帝国軍の前に広げられたヴァナヘイム守備陣は、風が吹けば舞い上がりそうな薄い膜となっていた。


 密をかわし、けば、容易に突破できるであろう。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ヴァナヘイム軍は着実に陣形を整えつつあるな、と思われた方、是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「ポイントD 中」お楽しみに。


ヴァナヘイム軍は、ケルムト渓谷という天然の堀の南北に、各部隊の敗残兵を無秩序に並べていただけである。そこかしこに、兵力のダマができ、全体的にムラが生じてばかりいた。


密をかわし、疎を衝けば、容易に突破できるであろう。


「そこで、我らが着目していたのが、この『ポイントD』なのです」


白手袋をはめた部下の指に合わせて、女上司も視線を動かす――。

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