【5-5】異国かぶれ ④
【第5章 登場人物】
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ヴァーラス駅前には、労働者向けの酒場や宿屋が、そこかしこに連なっていた。
じっくりと時間をかけて駅の見学を終えると、友人の父親は娘たちを連れて安酒場の1つに入った。そこで、彼は麦酒と2つのトマトジュース、それに肴をいくつか注文した。
店内は、ひと仕事を終えた汽車乗務員や駅係員、隊商商人やその護衛たちでごった返している。
早くも酔いが回っているのだろう、大声と曖気で談笑する者、肩を組んで放歌や放屁する者、その賑やかさは窓ガラスを振動させるほどである。
友人の父親が乗務員や商人に声をかけると、誰も彼もが帝国領から積み荷を運んできたという。そのなかには、東都ダンダアクからはもちろんのこと、大海アロードを渡り、はるばる帝国本土から来た者もいた。
テーブルの上に、豪快に並べられた白身魚とポテトのフライについても、材料は彼らが帝国から運んできたものだそうだ。
ソルが手にしているジュースも、その臭いに思わず鼻を摘まんでしまったニシンの塩漬けも、すべて材料は帝国産である。
店内にさらに運び屋たちが入ってきた。久々の再開なのだろうか、同僚を見つけては快哉を叫び、抱き合っている。
こうした酒場から安宿、土産物屋まで、ヴァーラス駅を中心にした宿場町は、彼ら運び屋たちが落とす金で成り立っていた。そこからの税収で、いま少女たちは食事にありついている。
友人の父は、木製の杯をひと口煽るや、口を開いた。
彼は若かりし頃に帝国の壮大な武力・工業力を目の当たりにしてから、今日まで同国の国力分析を怠らなかったという。
帝国は、この国の為政者や民衆が思い描いているものよりも、桁違いにスケールが大きいのだ。
昼間見たように、帝国で造られたおびただしい量の物資が、毎日この時間もヴァナヘイム国内に流れ込んでいる。
そして、その関係者だけで、郊外の宿場町とはいえ、経済が成り立っている。
帝国からの物資抜きでは、この国は機能しなくなりつつあるのだ。
日進月歩の勢いで工業化が進む帝国ならば、銃火器の製造量などヴァナヘイム国のゆうに100倍は下らぬ。
まして、従来兵器の改良・新兵器の開発にいたっては、ヴァ国はもはや比較するレベルにすら到達していない。
兵馬についても同じである。
北のグラナダや南のイフリキアなど、多方面に軍事展開を続けている帝国軍だが、同時にこのイーストコノート大陸においても、十分に軍事行動は可能だろう。
その規模も、ヴァナヘイム軍における動員兵力を凌駕するに違いない。
物資と兵馬から見積もるに、帝国と砲火を交わせば、「この国は必ず亡びます」と、友人の父親は結論付けた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
宿場町の酒場は楽しそうだな、と思われた方、
帝国の国力に圧倒された方、
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【予 告】
次回、「異国かぶれ ⑤」お楽しみに。
物語が動きはじめます。
最低限の着替えや本などを革の旅行鞄に押し込んだ友人は、あわただしく馬車に飛び乗った。
「また、遊ぼうね」
「手紙、書くよ」
せわしない雰囲気にのまれ、少女たちは気の利いた言葉を交わすこともできなかった。




