【5-4】異国かぶれ ③
【第5章 登場人物】
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帝国暦380年、ヴァナヘイム国は、帝国による直接的な領土併呑と間接的な産業支配という二重苦にさらされ続けている。
皮肉なことに、奪われた土地で採掘され、帝国国内で精製・加工された金属製品が、ヴァ国内に運び込まれ、同国の市場から地産の製品を駆逐していく。
ヴァ国の民衆は、帝国によって住まう土地、生業を奪われた上に、人身拐かしにさらされるなど、生命・財産を脅かされていた。
この国は、どうすればよいのか。
ヴァナヘイムの民を守るには、どうすべきか。
「銃をもって挑み、剣をもって払え」といった類の力強い言葉を求めて、少女は友人の父親に尋ねた。すがったという方が当時の少女の様子をより正確に表していたのかもしれない。
それだけ、帝国のやり口にソルは義憤を覚えていた。
見知らぬ土地に売り飛ばされる恐怖から逃れたかった。
開明的な彼ならば、事態打開について的確な対処方法をきっと啓示してくれるものに違いないと期待した。
ところが、帝国による横暴圧制を解説してきた彼の口からは、意外にもそうした軽挙を戒める言葉が発せられたのである。
少女はまるで冷水をかけられたかのように、驚きと戸惑いに支配された。
「説明するよりも、ご覧いただいた方が早いでしょう」
社会見学だと言いながら、友人の父親は、己の娘と領主の令嬢を再び郊外に連れ出した。
また旅芝居を観れるのかしらと少女たちは胸を躍らせた。だが、彼が馬車を乗り付けたのは、ヴァーラス駅であった。
南の城塞都市ストレンドからは鉄道で、南東の城塞都市ドリスからは街道で結ばれた駅である。
少女たちが驚いたのは、石炭の臭いが充満したホームに汽車がひっきりなしにやってくることであった。小ぶりな機関車がたくさんの貨車を重たそうに引いている。
蒸気と煤煙と熱気に包まれた線路とは反対側の広場でも、荷物を満載した馬車が次々とやってくる。土埃の舞うなか、停車場所を指示する男たちの大声が飛び交っている。
まるで、エーシル神へ向けて、新年の祝いと収穫祭を同時に開催しているような賑やかさであった。
運ばれてきた荷物は、鍋や皿といった食器から時計やカメラといった精密機器、それにトウモロコシやジャガイモといった野菜から小麦粉や砂糖といった加工食材まで、暮らしに馴染みのある品物が多岐にわたった。
しかし、そうした品も積荷全体からすればほんの一握りであった。大半は何らかの機械の部品など少女たちが理解できない物ばかりであり、それらが息継ぐ間もなく押し寄せてくる。
すべては帝国からの輸入品だという。
それらは簡単な検品を受けると、ヴァーラス領内で必要とされるものが除かれる。そして、国内諸都市に向けて詰め替えられ、線路・陸路に分けられては、再び運ばれていく。
それは、陽が暮れても続いた。
圧倒的な物量だった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
友人の父親が、ソルの「帝国打ち払い」について戒めたことに、
おやと思われた方、
その後、合点がいった方、
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【予 告】
次回、「異国かぶれ ④」お楽しみに。
帝国で造られたおびただしい量の物資が、毎日この時間もヴァナヘイム国内に流れ込んでいる。
この国は帝国からの物資抜きでは、成り立たなくなりつつあるのだ。
物資と兵馬から見積もるに、帝国と砲火を交わせば、「この国は必ず亡びます」と友人の父親は結論付けた――。




