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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第16章 虚蝉

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【16-13】異動命令 下

【第16章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n8102if/365/

挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)




 総司令官・ズフタフ=アトロン大将より、異動の内示を受けた先任参謀・セラ=レイス中佐は、新たな上官について思いを巡らせていた。


 ――コナリイ=オーラムか。

 

 金色の髪と白い肌――母親譲りだろうか。父親に似ても似つかないその少女の外見を、レイスは帝都で1度だけ見かけたことがある。


 戦場経験のない女児に、上官としての資質を求めることなど馬鹿げている。


 そもそも彼は、年齢や性別に関係なく、貴族子弟というものに期待などしない。レディ・アトロンのような存在は、類稀たぐいまれであり、不世出であり、絶滅危惧種なのだ。


 いずれにせよ、既成権力で凝り固まったアルイル陣営よりかは、新設のコナリイ陣営の方がいくぶんかくみしやすかろう。


 それにしても、田舎の農夫然とした老人から帝都の箱入り娘とは、上官が変わるにも程がある。


 彼は己の境遇に失笑を禁じえなかった。



***



 帝都ターラ郊外の森――。


「ファーディ、こっち、こっち」

 少女が小声で呼びかけている。


 七三分け――七分をやや掻き上げ流した黒髪に、縁なし眼鏡を掛けた青年が、困ったようにはにかむ。2ちょうの猟銃を持たされたまま。


 小柄な少女がハンチング帽を外すと、肩に届かない程度の淡くやわらかな金色の髪が揺れた。


 彼女は、猟装のままかごのなかに見入っている。そこには、ヒキガエルやトカゲが収まっていた。


「ダーモットをびっくりさせてあげましょ」

 少女は、白い歯を見せて、ニッと笑った。



***



 セラ=レイスと離別した翌日――ズフタフ=アトロンは、王都・中央礼拝堂前にて、旧ヴァナヘイム国の将校や為政者を引見した。


 先日のノーアトゥーン郊外の戦い及び宮殿占拠の折、捕縛された者たちだ。両手を後ろで拘禁され、礼拝堂広場に力なく座り込んでいる。


【16-11】宮殿陥落

https://ncode.syosetu.com/n8102if/378/



 東征軍総司令官が幕僚たちを連れて、広場の中央に進む。そのなかに紅毛の先任参謀はいない。


 白髪白髭の老将が現れるや、エーミル=ベルマン等捕虜たちは、歯をき噛みつかんばかりに吠えかかった。


「どうしてあんなに殺したッ」


「最初から反乱軍のみならず、我らも始末する腹積もりだったのだろうッ」


「この人殺しめ」



 軍人に対し「人殺し」とは……。


 リア=ルーカー中将やコナン=モアナ准将等、老将軍の背後に立つ者は、思わず口元を緩めた。


 あの小生意気な紅毛の若造がいたら、声を出してせせら笑ったことだろう。自信と愛嬌をないまぜた表情をくずしかけて。


 しかし、帝国軍の幕僚たちは、侮蔑ぶべつの感情を飲み込んだ。


 反乱軍とともに討伐軍も為政者も一網打尽という、セラ=レイスのやり方は、苛烈を極めた。


 力任せの荒業には血も涙もあったものではなく、帝国軍将校としても、捕虜たちに同情を念がわくのを禁じ得ないのだ。



 平時であれば、きらびやかだったはずのヴァナヘイム将校の軍服も、汗と泥にまみれ腐臭を放っている。


 かつては、博学多識と典雅さを称賛されたベルマンも、いまや獣のようにうずくまり、呪詛じゅそのような言葉を口ずさむばかりであった。


 一方で、審議会を最後まで捌いていた内務省次官・ヘズ=ブラントは、背筋を正し、帝国将官へこびを売るのに忙しい。



「……」

 罵声と唾を浴びながら、アトロンは黙然と見つめていた。盛衰物語る虜囚りょしゅうの様子を。




【作者からのお願い】

「航跡」第1部はあと少しだけ続いていきます。


金髪の美少女と黒髪眼鏡のイケメン……第2部に期待いただける方、是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「終」お楽しみに。


長らく「航跡」にお付き合いくださり、ありがとうございました。


次回エピローグをもって、第1部を完結とさせていただきます。


レイスとソル、2人の関係の行方をお確かめください。



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