表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第16章 虚蝉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

379/381

【16-12】異動命令 上

【第16章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n8102if/365/

挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)




「失礼します」


 ノーアトゥーンに帰還して数日後、セラ=レイスは、再び総司令官の宿所――旧ブリリオート少将邸宅――に呼び出されていた。


 建物の造りの豪華さと、室内の調度品の地味さが相変わらず不釣り合いなままである。


 前者が建物の前所有者の嗜好しこうであり、後者が現所有者のそれであることによる乖離かいり現象であることは、先述のとおりである。


【15-9】父娘

https://ncode.syosetu.com/n8102if/353/



 総司令官は、簡素なデスクに着席し、瞑目めいもくしたままであった。紅毛の先任参謀は、その前に進む。


 しかし、アトロンは微動だにしない。


 ――怒られるようなことは、もうしていないはずだけどな。


 レイスが己の日頃の行いを振り返っていると、突然、白く豊かなひげが動いた。



「貴官は、来月から本土勤務になった」

 

 老将から発せられた言葉に、不遜が服を着て歩いているような青年も、さすがに面食らった。

「……これは、唐突な異動命令ですな」


 部下の様子に関心を示すこともなく、総司令官のぼそぼそとした声は続く。

「帝都では、オーラム宰相閣下の御子を中心として、新たな軍が編成されることになった。君はその新設軍に籍を置くことになる」



「宰相閣下の御子……アルイル大将閣下でございますか」



 紅毛の部下の質問に、白髭の上官は内示書をもって応じた。






「コナリイ様……ですか」

 再び、レイスはきょかれた。


 「宰相の子」とは、東征軍のオーナーであり、肥え太った嫡男・アルイル=オーラムではなく、御年10歳になるかならぬかの末娘・コナリイ=オーラムであった。



 新設部隊の目的までは、内示書に記されてはいない。


 しかし、受け取った書類を読み進めていくほど、レイスのあおい瞳に野心の炎がともっていった。


 後任のモアナ大佐へ引継ぎを終え次第、荷物をまとめ、直下の者たちとともに大海・アロードを渡るように――老将からの指示に対しても、レイスはしばらくの間、曖昧あいまいにうなずくことしかできなかった。



「……いままで、本当にご苦労であった。東征軍をここまで立て直してくれたこと、礼を言いたい」

 言葉とは裏腹に、アトロンの声は精気に欠け、その視線はやや強張っている。


 この朴訥ぼくとつとした老将らしい謝意の表し方だと、レイスは思う。こうした表現も含めて、総司令官のことが彼は好きなのだった。



「いえ、こちらこそ、いままでご指導いただきまして、ありがとうございました」

 レイスは、いつも以上に快活に応じた。


「……体に気をつけてな」


「はい、閣下も。本当にお世話になりました」


 これもまた、いかにもこの老将らしいねぎらいの物言いだ。レイスは愛嬌ある笑みを浮かべて敬礼をすると、きびすを返した。


 この笑みを見た者には、それが作り物のような印象をどうしても与えてしまう。


 だが、アトロンの草食動物のような瞳に、それがどのように映ろうと、彼はもう関心がなくなっていた。


 回れ右をした瞬間、レイスの愛嬌ある笑みには、自信の色が加わっていた。彼の紅色の頭のなかでは、背後に座る老人は過去の存在となった。



「……娘のあだを打てたこと、感謝する」

 老将の白い口髭の合間から、最後の一言が投げかけられたが、青年将校の耳がそれを拾うことはなかった。


 扉が閉まり、若者の靴音が部屋を遠ざかるなか、アトロンは1人深いため息をついていた。




【作者からのお願い】

「航跡」はあと少しだけ続いていきます。


え、レイス異動!?帝都って栄転じゃん!

作者と同じくビックリされた方、是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「異動命令 下」お楽しみに。


戦場経験のない女児に上官としての資質を求めることなど馬鹿げている。そもそもレイスは、年齢や性別に関係なく、貴族子弟というものに期待などしない。


それにしても、田舎の農夫然とした老人から帝都の箱入り娘とは、上官が変わるにも程がある。


彼は己の境遇に失笑を禁じえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ