【4-6】産を殖やし業を興す 下
【第4章 登場人物】
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ブレギア発展の源は、良馬にある。
ラヴァーダが、それを惜し気もなく国軍に配置し、編成したのが銃騎兵「騎翔隊」であった。
もちろん、良馬だけでは騎兵隊精鋭は組織できず、彼は乗り手の選別も重視した。
しかし、その候補探しには難儀しなかった。なぜなら、この草原の地では、馬が生活の糧であることはもちろん、日々の足でもあったからだ。
ヘールタラの民は、男女問わず幼きころから馬の背で生活を送っており、鞍や鐙がなくとも馬上姿勢を保ち、手綱がなくとも意のままに馬を操った。
帝国から亡命してきた為政者たちが基礎教育体制を整えた後でも、乗馬の訓練は伝統文化のごとく子どもたちに課されていた。
集落ごとで行われる馬術試験を突破しなければ、浅黒い肌の社会では、男女とも一人前と認められなかったのである。
一人前として畜産の主要な仕事を任されなければ、結婚して一家を成すこともできなかったため、子どもたちは日々馬術を磨くことに力を注いだ。
とりわけ、男子は馬上レスリングに熱を上げた。大会で優勝した者は、村においては小規模な牧場を任され、軍においては騎翔隊の下士官の席が用意されるなど、名誉だけでなく、実利も与えられたからだ。
このように、ヘールタラの民は生粋の騎馬民族であり、馬術は生活そのものだった。貴族の面子のためにお家芸として続いていた帝国の馬術などより、はるかに実戦的であったといえる。
宰相・ラヴァーダは、民族が異なることなど意に介することなく、彼らに対して積極的に門戸を開いた。自らもブレギアの伝統衣装である純白の外套を身にまとい、常に彼らとともにあらんとした。
彼のそうした姿勢は、公明正大な政治手腕とも相まって、すぐに土着の人々に受け入れられていった。
これまで畜産のほかろくな産業もなかったこの民族に、軍人としての新たな将来を開いたことは大きく、彼らの父と母は、息子たちを若き宰相に次々と託していった。
帝国からの亡命者とヘールタラ土着の民、両者の関係は良好であった。
宰相は、領民の想いに十分応えていく。才能ある者は馬の乗り手で終わらせず、どんどん引き上げ、しまいには一軍を任せるまでになっていった。
現在、その勇猛ぶりで大陸中に名前が知られているブレギアのボルハン将軍やブルカン将軍などは、現地採用組の1人である。
しかし、すべての草原の民が、白皙の宰相に靡いたわけではなかった。
帝国からの亡命為政者が織り成す新たな風に、うまく乗ることができない者たちは、ヘールタラに少なからず存在した。
彼らは帝国に頼るだけでなく、仇敵であるはずの隣国ヴァナヘイムとも結び付き、ブレギア新政権に抵抗した。
話し合いによる理解が得られないことを悟るや、ブレギア宰相・ラヴァーダは、自ら編成した騎翔隊を手足の如く動かすと、国内の対立勢力を次々と打ち破っていった。
この国は、実力においても、礎を築くことに成功したのである。
富国強兵に勤しみ、国内の抵抗勢力を平定したブレギアは、満を持して国外からの侵攻軍――帝国軍――を迎え撃ち、そして散々に撃破した。
かくして、草原の国「ヘールタラ」は、騎翔隊擁する「ブレギア」として、大小国家が鎬を削る国際舞台へと、迎え入れられたのである。
キアン=ラヴァーダという男の面白さは、政治家として辣腕を振るうだけでなく、常に陣頭に立ち続けてきたことにある。
しかし、その姿は、勇将・猛将のそれとはまるで対照的であった。
馬上に銀色の長い髪と白い外套をひるがえし、指揮刀を握るしなやかな指――。
それらはまるで、政治家や軍人というよりも、「帝国貴婦人」と称した方が正しいだろう。
貴婦人宛には、日々国内外問わず、多くのファンレターが届いた。
国策としては敵対していた帝国においても、彼に懸想する女性が後を絶たなかった。
各国の新聞においても、貴婦人の写真が掲載されるか否かで、部数に大きく開きが生じるほどだった。
そのようにもてはやされる一方で、この貴婦人は、国内統治の見事さに諸外国の為政者から舌を巻かれ、「采配を振るうこと神の如し」と、大陸全土の指揮官から畏怖されている。
その妖艶華美な容姿と、内政や戦闘における成果から生じるギャップだけでも、記者や学者たちの興味は尽きることがなかった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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【予 告】
次回、「消し方 上」お楽しみに。
「20万を超す将兵の死傷をかえりみて、お前は何とも思わなかったのか」
「『……自分ならもっと状況を楽にできる』と、そうは思わなかったのか」
お話の舞台は、東隣の貴婦人から再びヴァナヘイム国のクヴァシル・ミーミルコンビへ。クヴァシルの想い、お聞き届け下さい。




