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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第4章 若き総司令

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【4-7】消し方 上

【第4章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n8102if/32/


 ヴァナヘイム国王都・ノーアトゥーンの宮殿内、謁見の大広間――そこでは、2人の会話が続いている。


【4-4】任命式 下

https://ncode.syosetu.com/n8102if/36/



「……ブレギアには『貴婦人』がおり、この国にはいなかったわけだ」

 楊枝ようじを床に吐き捨てると、軍務省次官ケント=クヴァシルはそうつぶやいた。


「確かにこの国にラヴァーダ宰相はおりませんが、だからといっていきなり私はないでしょう」

 事実、アルベルト=ミーミル元大佐の言うとおり、階級も戦歴も彼よりずっと上の将軍は、まだヴァナヘイム軍にたくさんいる。


 とくにアルヴァ=オーズ中将は、帝国との開戦前、制服組のナンバー5に位置していた。


 それだけに、

ヴィスブール将軍、

ドマルディ将軍、

ディッグヴィル将軍、

そしてドーマル将軍と、


ナンバー1が敗死し、

ナンバー2が重傷を負い、

ナンバー3が捕縛され、

そしてナンバー4が消息不明のいま、


次の総司令官には彼・オーズ将軍が就任するものと、自他共に認められていた。


 それが、こんな若造にその地位を奪われていたのでは、廊下で大声を上げたくもなるだろう。


 そもそも、4階級特進など聞いたこともない。2度戦死しなければ成しえない、離れ業である。



「オーズはなぁ、前進しか知らん男だ。全軍などとても任せられん」


 ひと回り年上の将軍を猪か何かのように一言で斬って捨てると、軍務次官はうす汚れた制服の胸ポケットから煙草を取り出して続けた。


「この1年、うちの戦いぶりを見てきて、お前は何も思わなかったのか」


「それは……」


「20万を超す将兵の死傷をかえりみて、お前は何とも思わなかったのか」


 言葉を吐きだすごとに、次官のこぶしには力が込められていった。


「『……自分ならもっと状況を楽にできる』と、そうは思わなかったのか」


 胸元から出したばかりの煙草は、白手袋ごと次官の手で握りつぶされていた。


「……」


 上層部に意見具申するも、聞き入れられなかったこと。


 上官から煙たがられ、前線から外されたこと。


 危惧したとおりの絶望的な戦況に陥ったこと。


 少しでも味方を楽にすべく、必死に立ち回ったこと。


 戦友が還ってこなかったこと――。



 この1年の戦場がミーミルの脳裏をかすめる。


「『はじめっからやらせてくれれば、こんな苦労することもなかっただろう』と、そう思うことはなかったか?」


「……」

 ミーミルは押し黙る。それはおごりというものではないのか。


「……お前の戦いぶりは、ずっと見てきたよ」


 若い次官は、若すぎる新司令官に顔を向けてほほ笑んだ。後輩が自重と自戒に押し黙ったことを見透かしたように。


「確かに、帝国と喧嘩を始めたのは失敗だった」


 彼は、ひょろりと伸びた背中を壁に預けた。そして、折れた煙草へマッチで器用に火をつける。


 だるそうに、それでいて旨そうに肺腑に煙を染み込ませていく。じわじわと音を立てながら、ひしゃげた紙巻は灰になっていく。


「だが、火を付けた以上、誰かが消さにゃならねぇ」


 クヴァシルはミーミルの方を見ずに、そのまま白い息を深く吐きだした。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


軍務次官の想いに胸打たれた方、是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「消し方 中」お楽しみに。


謁見の間での、クヴァシル・ミーミルの会話は続きます。

「こんな状況になってからお願いするんだ。勝ってくれとはいわねぇ。ちっとでもマシな……そうだな、なんとか引き分け手前までもっていってくれねぇか」

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