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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第4章 若き総司令

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【4-4】任命式 下

【第4章 登場人物】

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「どうして私なのです。各所で帝国軍に敗れたとはいえ、まだほかにも先輩の将軍が――」


「お前で駄目なら、もうこの国はおしまいだよ」

 寝癖の軍務次官の言葉には、聞き手に二の句を継がせぬ重みがあった。



 ヴァナヘイム国は、帝国相手に連戦連敗を重ねた。


 それも、戦死、戦傷、次いで帝国側に捕縛など、わずか1年間で総司令官を3回も入れ替えざるをえない有様であった。


 4人目・ヤンネ=ドーマルも2週間前、前線の総司令部ごと消息が途絶えている。



 ヴァ軍は累計20万人を超える将兵の死傷者を出していた。


 また、各領主による横流しが跋扈ばっこするという食糧事情がたたり、下士官・兵卒15万人が病に倒れていた。


 郷里で傷病を癒やしている者たちは、とてつもない数に及んでいたが、行方知れずの逃亡兵も敗北の度に増え続け、その数は10万人を超えている。


 もはや、各部隊は戦線を維持することすらおぼつかなくなりつつあった。



「帝国軍は70門近い大砲を一挙に集中させ、村ごと我が軍を粉砕しちまったんだとさ」


「村ごと……」

 ミーミルは、固唾かたずとともに言葉を飲み込んだ。


 ――脇役に過ぎなかった砲兵をまとめて運用することで、主役の騎兵、歩兵を屠ったというのか。


 それにしても、70門もの火砲を一戦場に集中させるとは、なんというスケールの大きさだろう。帝国の国力を、いまさらながらミーミルは思い知らされた。


 彼は先のヴィムル河流域会戦に参加していたものの、ドーマル総司令官の不興を買い、最後尾に置かれていた。


 そのため、最前線の様子を把握できないまま、退却戦に奔走させられることになったのである。


 戦場経験によって培った勘だろうか。渡河後ずっと抱いていた彼の懸念は、的中する結果となった。


 一番最悪の形で。


 独自の判断で、進軍とは真逆の方向に測量チームを走らせ、ヴィムル河の渡渉ポイントを把握しておいたことは、彼の麾下だけでなく、オリアン隊など多くのヴァナヘイム将兵を救った。



 ――総司令官閣下は、かように無残なご最期を迎えられていたとは。

 ミーミルは、思わず瞑目した。


 村ごと粉砕されたわけである。村落の中央に居たドーマル大将は、肉片程度しか残らなかったことだろう。


 強くおいさめしたのは、味方の士気を阻喪そそうしたいがためではなかった。だが、誤解を解く機会は永遠に失われたわけである。



 この戦闘のあと、ヴァナヘイム国では、領民に対してはもちろんのこと、軍部においても緘口令かんこうれいが敷かれたとのことだった。


 佐官以下の前線指揮官にすら、事実を秘匿ひとくしなければならない、厳しい情報統制であった。


 1万6,000人もの死傷者を出した上に総司令官が行方不明など、将兵の士気にかかわる――理屈は分かるが、文官や代議士が幅を利かせる審議会主導の統制に、クヴァシルは心底気に入らない様子であった。


「ハナッから、帝国と喧嘩して勝てるわけがなかったのだが……」

 寝癖の次官が言うとおり、この国の民衆はもちろん、指導者たちまでも、帝国の力を見誤った。


 隣国のブレギアが――この国より歴史ははるかに浅く、馬以外ろくな産物のなかった弱小国が、帝国軍相手に1度だけでなく、2度3度と立て続けに勝ちを収めたことは、大陸中の国々を刮目かつもくさせた。


「斜陽の帝国」


「帝国の残光、かつての輝きなし」


 各国の新聞記者たちは、約400年という長きにわたって5つの大陸と7つの海を支配してきた帝国の弱体ぶりを嘆き、薄れゆく帝国秩序を懐かしむようになった。


 それに呼応するかのように、北のステンカ王国など、帝国に抑圧されてきた地域では、各所で反旗を翻した。


 ヴァナヘイム国も、そうした時流に乗り遅れまいとした。


 100年以上にわたって、王都ノーアトゥーンに存在を許してきた帝国大使館を襲い、大使以下その関係者を殺害することで、反帝国の旗を揚げたのである。


 ヴァナヘイム最強と評され、激発しやすい民族性を最も併せ持った部隊――アルヴァ=オーズ隊――の暴走であった。


「この国の指導者たちが判断を誤った最大の点は、隣国にあって、この国にないもの――ブレギア宰相・キアン=ラヴァーダ――の存在を忘れていたことだな」


 そう言いながら、軍務次官はぼさぼさの後頭部を片手でひとなでした。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ヴィムル河流域会戦でのミーミルの奮戦を思い出された方、

ブレギア宰相が気になる方、


是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「産を殖やし業を興す 上」お楽しみに。


ヴァナヘイム国フェイズではありますが、かの国に影響を与えた東隣……草原の国・ブレギアの成り立ちを、少しのぞいてみたいと思います。


航跡一のイケメン️が登場します!

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