【3-5】懲罰人事 上
【第3章 登場人物】
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「マグノマン隊A地点から退避完了」
受信記録と、復号された電文用紙が東征軍総司令部にて調査団に押収されている。
4月25日の昼過ぎ12時18分と砲撃開始直前14時55分――同じ担当番号を冠した無電は、2度にわたり現地から発信されていた。
それらは、現場の斥候兵による「状況誤認」の確たる証拠とされた。当時、マグノマン隊の一部は村落Aに残っていたのである。
そして、総司令部に届けられたこの情報を参謀部は誤認とは知らず、作戦発動に至ったという――。
しかし、マグノマン爆死について、作戦全般を主導した参謀部がきな臭いと、ターン=ブリクリウは、はじめから当たりをつけている。そこで、斥候兵の線とは別に、参謀部の綻びを求め、彼は調査に注力した。
ところが、査問官の執拗な手が、総司令部から出されたゴミや各部屋の暖炉の燃えカスにまで及んだにも関わらず、綻びを裏付ける――参謀部はマグノマン隊未退避を把握しながら作戦を強行した――資料は、遂に見つからなかった。
押収資料以上の事情を聴き出すため、レイス麾下の参謀たちには、金銭供与や所領加増、おまけに立身出世の約束など、査問官からあらゆる誘惑が差し向けられた。
だが、キイルタ=トラフ・アシイン=ゴウラ・アレン=カムハル・ニアム=レクレナ以下、1人としてそれに靡くことはなかった。
一方で、調査を進めるほどマグノマン准将が、総司令部の命令を無視し、A村落に留まり続けたという事実は、揺るがしようもなくなっていく。
あろうことか、そこで軍需物資の横領まで行われていたことも明らかになってくると、査問官による追及の勢いは鈍化していった。准将への罪状が、派閥元の自分たちに降りかかってくるのを厭忌したのである。
結果として、ブリクリウ派の査問官は、アトロン派の東征軍首脳部に対する粛清について、決定打に欠いたのであった。
現場確認から当事者の聴き取りまで、一通りの調査を済ませると、「査問会議」は「懲罰人事会議」に名を改めた。
遠征軍の人事については、職制上、総司令官が握っている。そのため、懲罰人事委員には、形の上で、ズフタフ=アトロン大将も組み込まれることになった。
ブリクリウ派閥によるアトロン派閥への絞め上げの場に、両者の領袖が顔を揃えることになったのである。双方釈然としない状況ではあるが、法規は法規である。
A地点からマグノマン隊が退避を終えたものと2度にわたって誤認した斥候兵は、即日、銃殺刑に処された。
聴取の段階から、一貫して事実無根を訴えていたこの斥候兵は哀れだった。右目を覆っていた眼帯をかきむしり、半狂乱に近い様子で、調査団衛兵によって刑場へ引っ立てられて行ったのである。
斥候兵による聞くに堪えぬ金切り声を前に、査問官の1人、キンピカもといリア=ルーカー少将は、つぶやく。
「……あの者は、白ではないのでしょうか」
傍らに立つターン=ブリクリウは、斥候兵への同情など欠片も示さず、振る舞いにおいてもいつもと何ら変わるところはなかった。
ところが、部下からの問いを受けて、その光のない口内から吐き出された言葉は、冷たく重く、湿気に満ちたものになる。
「無電の受信記録をはじめとする押収資料はもちろんのこと、当事者への聞き込みからも、黒だ」
「はっ、出すぎたことを申しました」
ルーカーは、うかつな質問を口にしてしまったことに気が付き、全身に冷や汗が噴き出した。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
レイス麾下参謀たちの結束は、さすがだなと思われた方、
斥候兵は気の毒だな……と思われた方、
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【予 告】
次回、「懲罰人事 中」お楽しみに。
査問会では、セラ=レイスにやり込められたとはいえ、キンピカ少将…リア=ルーカーは、ブリクリウ傘下において頭脳派の部類に入る。
彼は、ざっと本件の顛末を振り返った――。
キンピカ少将の独白!?




