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航跡 ヴァナヘイム国興亡記  作者: 秋山 文里
第3章 査問と懲罰

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【3-4】査問 ④

【第3章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n8102if/24/

挿絵(By みてみん)


「机上の空論ですな」

 レイスは、キンピカ少将からの質問を彼の()()()もろとも一蹴した。


 厚化粧――ゴテゴテとした飾り物――の先にある表情が不愉快そうに歪む。


 ゆったりとした鷹揚さはたちまち影を潜め、せわしなく狭量そうな様相が見え隠れする。これがキンピカの素顔なのだろう。


 今作戦の要諦ようていは、いかにブレギア軍に警戒されず、自然にA村落に導くことであった。


 敵司令官・ヤンネ=ドーマルの性質は、非常に慎重で、事あるごとに斥候を派遣していた。


【2-8】庭師将軍 下

https://ncode.syosetu.com/n8102if/15/



 そのようななか、A村落に多数の所属不明の部隊が潜み、無電が飛び交っていたら、ヴァナヘイム軍は警戒し、足を止めてしまったことだろう。


 まして、競馬場のように伝騎が行き来し、博覧会のように伝書鳩が飛び立っていては、ヴァ軍は指揮官がドーマルでなくとも回れ右したに違いない。


「……」

 押し黙ったキンピカ少将は、その装飾物も輝きが鈍ったように感じられる。


「過度に飾り立てた衣服を、店頭のショーケースに展示したところで、袖を通そうとする客はなかなか現れんでしょうな」

 レイスによる駄目押しの一言には、侮蔑の成分が多量に含まれていた。


 キンピカの()()()()()()出で立ちと、同少将が理想とする馬駆け鳩舞う()()()()()通信体制を同時に皮肉ったこの表現には、査問委員のなかからも苦笑が漏れたのだった。




「総司令部は、我らが撤退を終えていないことを知りながら、砲撃開始を命じたんではないかッ」

 突然、キンピカと入れ替わるようにして、左端の包帯少佐が噛みついてきた。


「総司令部は、斥候部隊から『マグノマン准将の部隊、撤退完了』との報告を受けている」

 レイスは泰然と受け流す。


「そのような話はでたらめだ!我らはしばらくのあいだ、A村落に逗留していたのだ」


「とうりゅう……」


 つぶやきながらレイスはそのあおい瞳に光を宿らせる。


 中央に鎮座するブリクリウの口元が、わずかに曲がる。


「……逆に問うが、我らが立てた作戦では、A村落に敵部隊を誘導したあとは、ただちに同村落を放棄するよう、貴隊に指示していたはずだが」


「そ、それは……」

 たちまち包帯に動揺が走る。


「貴官らは、我らの指示に反して、A地点でいったい何をやっておられたのかな」


 ――黒狐よ、包帯をこの席に置いたのは失敗だったな。


 紅毛の先任参謀は、底意地悪い笑みを浮かべながら続ける。

「貴官らは、村落に残された軍需物資の運び出しに、専念されていたとの報告を聞いているが」


 帝国軍紀では、自国軍の物資の横領は重罪を課される。


「そ、そんなことはしていない……」


 出撃前にオーナーより下賜された物資に対する貴族将軍たちによる独占や、戦場での他国民に対する兵士たちによる略奪――それらを黙認していながら、自国の物資についての着服を禁じているのであった。


 阿呆らしいかぎりだが、軍紀は軍紀である。


「A村落から50キロ先の田舎町で、帝国軍が降ろしていったとされる軍需物資が回収されているが、貴官には心当たりがおありなのでは」


「し、輜重隊しちょうたい(輸送隊)が、つ、積み降ろしたのだろう」


 沈黙した禿頭大佐の前まで闊歩かっぽすると、レイスは作戦要綱を取り戻す。その書類の束をわざとらしく繰りながら、彼は口を開く。

「おかしいな、輜重隊がその町に立ち寄るような輸送計画にはなってない……」


「……」


 目を見開いたままうつむく包帯に、レイスは追い打ちをかける。


「……作戦命令違反に続いて、兵糧弾薬の横領。そのような者たちが、我らを批判するとは、お門違いも甚だしい!」


 包帯少佐はうなだれたまま停止した。



 ――この男、角度によって顔つきがころころ変わるのか。


 レイスは処置済みとなった包帯男など、もはや見ていない。


 中央の席では、黒狐が苦々しげな表情を浮かべている。不思議なもので、それは一見、笑みを噛み殺しているようにも見えるのだった。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスの弁舌による大立ち回りに、天晴あっぱれと思われた方、

是非、ブックマークや評価をお願い致します。


このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。



【予 告】

次回、「懲罰人事 上」お楽しみに。


現場確認から当事者の聴き取りまで、一通りの調査を済ませると、「査問会議」は「懲罰人事会議」に名を改めた――。


査問会を終えて、いよいよ帝国東征軍の新体制へ……。

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