【3-3】査問 ③
【第3章 登場人物】
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眠りの世界に数瞬滞在したレイスは、現実世界に戻り辟易した。眼鏡大尉による調査団員の紹介が、まだ続いていたからだ。
左端に座る包帯少佐が、推測どおりの境遇だったことを知り、彼は失笑した。
紅毛の若造の不謹慎な態度に、黒狐の左隣に座る禿げ頭が、苛立ちを隠しきれない口調で質問を始めた。肩章は佐官最上位である。
「レイス少佐、今作戦のあらましは聞かせてもらったが……」
――はいはい、そいつはお疲れさま。
「……あまりにも杜撰だったと言えないかね」
「ずさん?」
レイスは、眉間に深い皺をつくり、わざとオウム返しに応じた。
「戦場に味方が残ったまま、砲撃を開始するなど、作戦そのものが行き当たりばったりのものだったのではないかと、聞いておるんだ」
レイスは立ち上がると、禿頭大佐の前まで進むや、手にしていた書類の束を2つ放り投げた。
突然のことに驚き固まった剥げの中年将校に、紅毛の青年将校は自らの席に戻りながら説明を加える。
「今作戦の要綱と、戦闘推移記録です」
中央の狐は、黒革の手袋の上に尖った顎を乗せる。
禿頭大佐は、火傷をしないよう熱いものに触るがごとく、慎重に2つの書類の束に目を通し始める。
そこには、事前に組まれた作戦案と、実際に推移した戦闘の経緯、それぞれが記されていた。
4月22日、ヴァナヘイム軍、ヴィムル河を渡河開始。
4月25日、ヴァナヘイム軍、A地点に到達。
4月26日――。
いつの間にか、禿げ頭が眼で追っていた書類の記述に、紅毛のぞんざいな声が重なっていく。
レイスは、2つの資料に記載されている、
生じるであろうと予測した事態
実際に生じた事態
図上で当たりをつけた敵味方の動き
戦場での敵味方の動き
を、日時とともに、すべてそらんじていた。
「……」
これには、たまらず禿頭大佐も黙り込んだ。
膨大な資料の内容をすべて暗唱していることもさることながら、
「我らの読筋と実戦の手順は……」
そのほとんどが合致していたからだ。
作戦要綱には、アトロン大将以下、幕僚たちによる稟議用サインと日付がそれぞれ直筆で記されている。後から作られたものでないことは明白である。
両の資料を見比べる禿げ頭に、レイスはとどめを刺した。
「万事、計画どおりに推移した作戦を『杜撰』などとおっしゃるのであれば、帝国戦史を紐解かれ、これ以上の事例を示していただかないと、私はもちろん、共に作戦を練り上げた部下たちが、納得しないでしょう」
禿頭大佐は完全に窮した。
「レイス少佐、そう感情的になってしまっては、査問も進まぬ」
今度は、黒狐の右隣に座る初老の将校が、口を開いた。
居並ぶ査問官のなかで、この将校の装飾軍服が最も華美であった。片眼鏡から下げられたチェーンはまぶしく黄金色に輝いている。
レイスは居眠りしたので聞きそびれたが、どこぞの部隊の参謀監督職なのだろう、左胸に踊る太いモールも金色だった。
さらに両胸には、大小色鮮やかな勲章がべたべたと張り付けられている。華やかさはセンターの狐面を上回ったが、襟章は将官最下位であった。
この装飾まみれの将校を、レイスは「キンピカ少将」と呼ぶことに決めた。
「現場における、二重三重の確認体制を敷いていれば、今回のような事態は避けられたのではないかね」
斥候兵を戦場のあちこちに配置し、敵味方の動向を逐一確認すべきではなかったか。
さらにキンピカ少将の発言は続く。
伝騎・無電・信号弾・鳩など、通信手段も複数整え、臨機応変に総司令部との交信をしておけば良かった。さるステンカ王国軍との会戦の際、この私が設けた伝騎のリレー形式は知っておるかね。あれは実に有効だった――。
提案のようでいて、説教の色合いを帯びた自慢話は、くどくど続く。
鷹揚さを繕うためだろうか。わざとらしく抑えられたキンピカの声が、レイスにはいちいち癇に障った。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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【予 告】
次回、「査問 ④」お楽しみに。
「……作戦命令違反に続いて、兵糧弾薬の横領。そのような者たちが、我らを批判するとは、お門違いも甚だしい!」
いよいよ大詰めの査問会――査問官とレイスの論戦――をお見逃しなく!




