【2-11】天翔ける汽車
「航跡」続編――ブレギア国編 の執筆を始めました。
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
宜しくお願い致します。
物語の流れや話数配分が整えたのち、こちらにも投稿して参ります。
2023年12月15日追記
【第2章 登場人物】
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ヴァナヘイム軍は、名もなき村落において混乱の極みにあった。
雷が数本まとめて落ちたかのような轟音が鳴り響くと同時に、丘上という丘上から無数の砲弾が降り注いだのである。
地面をめくり上げる爆風が、人馬もろとも上空に舞いあがった。土砂とともに人間の腕や足が、吹き荒れる風に翻弄されながら落ちてくる。
砲弾をやり過ごそうにも、周辺には頼りない家屋や古びた納屋以外、身を隠せるような場所はない。砲弾が山上という山上、山腹という山腹から雨霰と飛んでくる。
「う、撃てッ撃ち返せ」
「どこに向かって撃てと!?」
ヴァナヘイム軍総司令官・ヤンネ=ドーマルが弱々しく命じるも、幕僚たちは上ずった声で、命令不承知とばかりに反論する。
ヴァ軍の砲兵たちも必死に反撃を試みたが、狙いを定めることもできないうちに、圧倒的な数の砲弾が降り注ぎ、砲架ごと四散した。
「俺たちがいるのに砲撃をはじめるとは」
帝国東征軍・イブラ=マグノマン准将とその幕僚たちは、降りそそぐ砲弾のなかを逃げ回っていた。
彼らはヴァ軍の銃撃に押され、村落の奥へ奥へと後退していた矢先に、周囲からの砲撃を浴びることになったのである。
ヴァ軍が砲撃を受けていることから、発砲主は帝国軍なのだろう。だが、そのなかに味方が紛れていることに斟酌する様子は見られない。
この村落の周辺に、帝国東征軍の火力がすべて集められていたことを、マグノマン一味は知らされていなかった。
馬は狂奔し、部下たちは次々と馬上から振り落とされていく。
村落は阿鼻叫喚の巷と化した。
その上空を切り裂くように、轟音を引っ提げて砲弾が飛来してくる。まるで汽車が上空を走っているようだと、マグノマンが思った時であった。
一弾が、目の前の帝国紋章入り木箱の山に落下したのである。
次の瞬間、閃光と熱風によって、マグノマンたちは馬ごとなぎ倒された。引きちぎられ四散した彼らの肢体は、数十メートル先の土壁に叩きつけられた。
***
食器の奏でるヒステリックな音が部屋中に響き、美女5人から成る音楽小隊は、思わず演奏の手を止めた。
対面に座るアルイル=オーラムは、怪訝そうな視線を上げる。
ターン=ブリクリウは、本人も気が付かぬうちに、ナイフを取りこぼしていた。枯れ木のような手を滑り落ちたカトラリーが、純白のテーブルクロスに、赤い染みをつくっている。
帝国東岸領の最大都市ダンダアク――。
統帥府付きの伝令官が、緊急事態を告げるべく貴賓室に飛び込んだ。そこでは、生演奏が響くなか、上級大将とその傅役が果実ソースのふんだんにかかった肉料理に、舌鼓を打っているところだった。
「……まことか」
緊急事態を耳打ちした伝令官に、ブリクリウは狐のような目を大きく見張り、2度3度、事実の確認をする。
しかし、報告内容が覆らぬことを察すると、この初老の傅役が落ち着きを取り戻すまで、さして時間を要さなかった。口元をナプキンで拭き終えると、いつもの喜怒哀楽に乏しい表情に戻している。
「……お見苦しいところをお目にかけました」
「何があった」
アルイルは、食事のペースが異常に速い。
ろくに咀嚼せず、皿に乗った食物をそのまま呑み込むからだろう。先ほど提供されたばかりの肉料理も、既に胃袋に収めてしまったようだ。
ブリクリウは、伝令官からの報告を整理して主人に告げた。
昨日、東征軍は68門もの火砲を1点に集中するという、大掛かりな作戦を発動させたそうだ。
「ほう」
脂光りするアルイルの口からは、感嘆詞と曖気が同時に吐きだされ、後者が前者を圧倒した。その下品な旋律は、再開された演奏をかき消すほど部屋中に響きわたった。
帝国軍による砲火の集中運用は成功した。
しかし、その作戦遂行上に齟齬があり、イブラ=マグノマン准将が敵部隊とともに一命を落とすことになったという。
「それは、気の毒なことをしたな」
傍らの女給仕に葡萄酒を注がせながら、肥えた上級大将は、関心がなさそうにつぶやいた。アルイルの視線は、給仕の白い腕、その付け根、そして胸元と舐めるように移動している。
「閣下、私は前線へ調査団を派遣する必要があると考えます」
「戦場に事故はつきものだ。そこまでする必要はあるまい」
たかがいち中級貴族の死因がどうであろうと、アルイルはさしたる興味もわかないようだった。
ブリクリウは俯き、数瞬の思考に沈む。整髪油で固められた黒々とした頭髪からは、前髪が数本垂れる。
彼は、情に訴える手を採用することにした。「面倒くさいから、お前にすべて任せる」流れに持ち込むのだ。永年、傅役を務めてきたからこそ分かる、定石であり最善手だ。
「……マグノマンは、私の大切な部下……いえ、家族でした」
音楽小隊の奏でる曲調は、切なげで物静かなものになっていた。事前に打ち合わせしたかのような演出に、ブリクリウは内心、失笑を禁じ得ない。
「私が調査団団長として、明日にでも前線へ立ちます」
運ばれてきたババロアに手を付けず、傅役は主人に告げた。
「……まぁ、良いだろう」
アルイルの前に置かれたデザートは、既に影も形もない。
食欲が満たされた帝国宰相嫡男は、音楽小隊の奏者へ好色な視線を向けることに夢中であった。彼にとっての関心事は、硝煙臭い遠くの戦場よりも、甘い今宵の寝所にあるのだろう。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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【予 告】
次回、「機関砲」お楽しみに。
発射、排莢、給弾、装填、発射……ガトリング砲が火を噴きます。




