【7-2】欠乏 中
【第7章 登場人物】
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セラ=レイスの小さな部隊でも、食糧不足は人ごとではなかった。
師団司令部ですらアルコールに事欠く有り様である。まして、大隊に毛が生えた程度のレイス隊では、葡萄酒の配給などとうになくなり、この日の夕食では、付け合わせの野菜すら、人数分揃わなくなった。
食後、軍支給のコーヒーで我慢する彼らの話題も、自然と補給部隊のものになった。
「先週はイエリン近郊で襲撃を受けたと聞いている」
「その前は、ヨータとグンボリ同時だったぞ」
「グンボリ!?ここから一体何キロ先だ?」
グンボリの街は、限りなく帝国領に近い。そのような遠方にまで、ヴァ軍が出没したという事実に、アレン=カムハル少尉ほかレイスの部下たちは、驚きの表情に支配された。
たまらず、アシイン=ゴウラ少尉が、意外性に富んだ推測を口にする。
「まさか、敵の連中は、山賊どもと手を組んだのではあるまいな」
「さんぞく……」
ニアム=レクレナ少尉が、驚きと納得をブレンドさせた声で復唱する。
考えられなくもない。
ヴァナヘイム軍は、王都まで突破されぬよう、現状の守りを固めることで精一杯のはずだ。
よしんば、彼らが陣営のいずこからか部隊を送り出し、帝国軍の後方を扼しているとしても、数百キロ離れた国境付近まで走破しているとは考えにくい。
国境近くを縄張りとする山賊と手を結び、その界隈を襲撃させているとすれば、筋が通る話であろう。
部下たちは、一様に静まりかえった。
彼らは誰とはなしに、上官へ視線を集めていく。
レイスは、ワインの空瓶を両手でもてあそびつつ、ラベルに書かれた文字をぼんやりと眺めていた。
この紅毛の少佐は下戸であり、食後のワインが無くても不自由はない。
一方で、目の前の黒い液体に口をつけた様子は見られない。彼にとって、アルコールよりも、砂糖と脱脂粉乳の不達の方が一大事なのだろう。
「……山賊の線はないだろうな」
思考の整理が終わったのだろうか、空瓶を脇に置き、レイスは口を開いた。
「いかに補給部隊とはいえ、帝国正規軍の護衛がやられているんだ。山賊ふぜいが出来る芸当じゃない」
確かに、襲撃現場に居合わせて、生き残った護衛隊将兵の証言をまとめていくと、帝国軍輸送隊への急襲は実に鮮やかだった。
すなわち、手始めに一連の砲撃によって隊列を乱すと、銃騎兵を中心にした一軍が襲いかかり、護衛兵・輜重兵ともども撃滅させる。
その後、置き去りにされた物資を丸ごと奪っていくようだ。
帝国軍も相次ぐ被害により、護衛を増強し続けているが、先日ドリス郊外では200名もの輸送隊が殲滅させられている。
こうした状況から、レイスはヴァナヘイム軍の襲撃部隊について、次のとおり推測した。
整った装備と高い戦闘能力から考えて、訓練を重ねた正規兵でなければ、できない芸当だろう。
しかも、数百キロの距離を自由に動き回ることができていることから、歩兵でなく総騎兵部隊を遊弋させていることになるだろう――。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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【予 告】
次回、「欠乏 下」お楽しみに。
「敵の狙いは、我らを飢えさせることにあるのだろう」
紅毛の上官の推察は、結びの言葉まで異論を差しはさむところがなさそうだ。
部下たちが一斉に深いため息をついたのと、無電受信機がけたたましく動き出したのは同時だった――。




