その娘、従兄と話す
次話明日投稿予定です。
クロヴィス・カエサル。
カエサル公爵家の嫡子であり、次期公爵当主である。従兄のアルフォンス・マイセンが幼い頃から仲良くしていた友人であり、友達の少ないルディリアも気兼ねなく話す事の出来る幼なじみ。
彼は初代国王の子、ジゼル王女と第二王子カールの血を引くソウドルフを父に持ち、ジゼル王女の血筋である母、イーダとの間に生まれたまさしく正当な王族の血を受け継ぐ人物である。
それはその瞳と髪にも現われており、紫色の瞳と髪を持っていた初代国王に一番近い、濃色の持ち主である。
現国王と王子達は青色に近い色が受け継がれており、クロヴィスの濃色こそ王に相応しいのだと周りが担ぎ上げようと画策していた。
そのため、クロヴィスは王族から良く思われておらず、苦しい状況を幼い頃から堪え忍んできた。しかし、頭脳も剣術も魔術にも優れた希有な存在であるクロヴィスは、誰よりも平和な世界を望んでいた。
ルディリアとアルフォンスは幼い頃から彼の夢を何度も聞いた。幼いながらにも利口な彼は父と母が自身を王に据えるべく画策している事に気がついていた。それをなんとかしようとしたが、思うようにも進まない。
彼の周りには、幼いクロヴィスの言葉を信じる者も、彼を思う者も少なかった。だから、少ない味方と共に領民を守ろうと忙しなく動き回る日々を過ごした。
彼の行っている事は、両親からも親族からも黙認された。上手く運べば彼の支持者や慕う者が増えるかもしれないと思われていたのだ。そうすれば王座が近づくという考えからである。
それでも、クロヴィスは領民を守る為に奔走した。自身の幸せや、生活など顧みることなく、ただ只管に動き回った。そんな彼を支えたのは従兄のアルフォンスだった。
アルフォンスは、このままではクロヴィスの身体と心が保たないことを危惧してマイセン領へと呼び、数ヶ月ほど穏やかな時間を過ごさせた。その時にヒースロッド家も彼と少なくない時間を共にした。
だから、この城は彼に取って戦地と同様。それなのに、何故彼がここにいるのかと、眉を顰める。
思わず魔法研究室に連れてきてしまった為、応接室のソファにクロヴィスを座らせると、二人だけの空間で問い詰めた。
「クロゥ、どうしてここにいるの?」
「アルから聞いていないか?」
堂々とした声色で、口元を釣り上げ話す様子を見て呆れる。
どうしてそんなに暢気にしていられるのか。戦地と言って良い場所で、何やらクラウストと揉めていたように見えた。そんな危ない橋を渡るとはどういう了見なのか。
「聞いてないし、手紙が届いたのは今日だし。」
ふて腐れたように唇を尖らせれば、クロヴィスは「そうか」と楽しそうに笑う。
アルフォンスから来た手紙にはそちらに向った様だとあった。それなのに、その人物が何故ここにいるのか。マイセン領から王都までは早馬で三日。カエサル領からは五日ほどかかる。どんな手品を使ったのか。
「それは上手くいったな。」
「何をしたの?」
「王都に着く手前でアルに手紙を出し、ゆっくり向って王都に付いたのは一昨日。情報収集と市場観光をして、登城したのが今日の事だ。」
要するにわざとアルフォンスから手紙が届くであろう日を狙って登城したわけである。理由は一つ。ルディリアを驚かせる為だろう。そうでなければ、そんな面倒な事誰がするのか。
「どうだ?」
ふっと偉そうに笑う目の前の男に「馬鹿じゃないの…」と小さく零せば心外だと言わんばかりの顔が向けられた。
「ルディの為に来たんだぞ?もっと喜んだらどうだ?」
そう言う彼は心底真面目そうな瞳をしていた。口元には小さな笑みを作っている辺り、色々と情報を掴んでいそうだ。
「夜会の話し?」
「それ以外にも色々とあるが、今回はそれが主な理由だな。」
確かに、クロヴィスと参加すれば王族はルディリアを妃候補から外して考えるだろう。何せ、彼とやり合うことに旨味はない。
しかし、サウスライドが言う二つ目の話しには、カエサル家の反乱対策についてだった。クロヴィスにそんな意志はないが、父親には野心がある。現当主であるソウドルフが未だにその座を明け渡さない以上、クロヴィスは何も手が出せない。
その点に関して、ルディリアはなんとか蟠りが解けるように助力したいと考えてはいるが、そんなに簡単な話でもない。しかし、もしかしたらクロヴィスは今回その件についても裏から手を回すつもりでここへ来たのかもしれないと思うと少しだけ不安になった。
「ねぇ、クロゥ。私も力になるから。あまり無茶はしないで。これでも、少しは力を付けたのよ?」
自嘲気味に笑えば、クロヴィスは穏やかに笑んだ。変わらない暖かさのある表情に、ルディリアの心も少しだけ解れた。
「ルディがここで頑張っていること、俺が知らないはずないだろう?」
「それじゃ…」
「今回は、ルディの意志を聞きに来た。お前はどうしたい?未だに王妃になりたくないからこうして研究室に齧り付き、アルンベルン公爵家の力まで借りて現状維持を保っているんだろう?」
ルディリアの言葉を遮り、話し出した内容に苦笑する。全てお見通しらしい。耳聡いだけでなく、彼は何処までも腕を伸ばすつもりらしい。身内に甘いのは室長だけで無く、クロヴィスもだったようだ。
「うん。私は国母となれるとは思っていないし、昔から夢は変わらない。私の夢は――、」
『大魔法使いになる事。』…だよな。」
揃った声に、ルディリアはクスリと笑う。クロヴィスもまた、変わらない笑顔を向けていた。離れていた時間は長くとも、信頼は揺るがない。
「それなら、やはりここは俺の出番だろう。俺のパートナーであれば簡単に手出しはできない。こういう時はありがたくその立場を使わせて貰わないと割に合わないだろう?」
クロヴィスは自身の髪を指でくるくると絡めながら、何か悪巧みをしようと考えているらしい。その悪い表情からよく読み取れる。
「さっき、アルンベルン騎士団長と何を話していたの?」
「んー、まぁ少しな。」
「少しって何?」
全く教える気のなさそうなクロヴィスの態度に口を尖らせれば、クロヴィスは目を少し細めて笑う。昔からあまり考えを口にしない人で、こうやってあしらわれることも少なくなかったと思い出し、苦笑を零した。
「それより、ドレスの話しだが。俺の方で適当に作って良いか?希望があれば聞くが。」
「お願いします…。」
そっと目をそらして全て任せることにした。なんせ彼は趣味が良い。クロヴィスに任せておけば何の心配も無いと断言できるほどだ。
「あ、でも今からで間に合うの?」
「あぁ、向こうで作ってきたから問題ない。」
しれっと言い放つクロヴィスに、ルディリアは苦笑する。
希望があれば聞くなんて言って、既に完成品を持ち込んでいるらしい。今回の話しをルディリアが断る可能性も、ドレスの希望もないのだと読まれている。
内心むっとする。しかし、今まで一度だってこういう事で勝てたことのないルディリアは口を噤むしかない。
「さて、それで?王宮魔法研究室 室長さんは?」
「…室長に用事?」
「あぁ、今日ここに挨拶に向うと伝えてあった筈だが?もうそろそろ言い時間だろう?」
クロヴィスに倣って時計に目を遣れば、もうお昼も終わる時間だ。そう、午後である。
『あぁ、そうだ。ルディリア。今日の午後に来客があるから、対応を頼むよ。』
今朝の室長の言葉を思い出し、来客がクロヴィスなのだとようやく気がついた。そう言えば、慌てていてお茶も何も後回しにしていたなと思い立ち上がると、クロヴィスに手を引かれた。
「今更良いから、座っていろ。どうせもうすぐ来るんだろう?」
「うーん、どうだろう。午後までには必ず戻るって言っていたけど、もう午後だし陛下とのお話が長引いているんじゃないかな。」
「陛下との?」
しまったと思うがもう遅い。どうにも彼には嘘も誤魔化しもできない性格らしく、ルディリアは苦い顔を見せる。
「問題ない。理由が陛下であれば、こちらが責める理由もなくなるからな。」
全て分かった上で、こちらのフォローまでしてくれるのだから、出来た人だ。自分の事で一杯一杯だった数日前の自分とは大違いで、嫌になる。
「ルディ、古代魔法の研究楽しいか?」
「…ん?うん、それは、楽しいけど??」
「そうか、お前は凄いな。幼い頃から魔法ばかりだったが、今では本当にその道の一任者となっている。お前は、お前の出来る事をすれば良い。今は出来なくとも、少しずつ諦めずに立ち向かえば、何だって出来る様になるだろう。それについては、俺が保証する。」
優しげな表情を向けるクロヴィスに驚きつつも、きっとまた心配させて気を遣わせてしまったのだと苦笑する。
クロヴィスは本当に周りをよく見ている。昔から困った事や悩んでいることなど、無表情が定着した後も彼はすぐに気がつき手を差し伸べてくれた。まるで第三の兄のような人だ。いや、従兄のアルフォンスもまた兄として接してくれる為、第四の兄なのかもしれないと暢気な事を考えていた。
「彼が来るまでに少しばかり打ち合わせといこうか?」
「打ち合わせ?」
「あぁ、ルディが俺のパートナーとなるためのな。」
逆である。
クロヴィスがルディリアのパートナーとして参加するのであって、ルディリアが彼のパートナーとなるためにパーティに参加するのでは決してない。それでは、意味合いがまるで違ってくる。
むすりと口を尖らせれば、またクスクスと楽しそうにクロヴィスが笑う。室長が帰ってくるまでに打ち合わせとやらをするならば、すんなりと話しをはじめれば良いのに。
「逆でしょ。私はクロゥのお嫁さんになる気はないよ。」
「分かっている。」
未だクスクスと楽しげに笑むクロゥに風魔法をぶつけてやろうと手を振れば、彼の右手に遮られ、放った弱々しい魔法は霧散した。
「全く油断も隙も無いな?」
「早く本題に入って。」
「分かった、分かった」と今度こそクロヴィスはルディリアに話し始めた。
まず、どこで出会ったのか。これはアルフォンスを通じて出会った話しをそのまますれば良いと言われた。変に嘘をつくよりも事実を述べた方が真実みが増すからだ。
そして、いつからパートナーとしての話しが進んでいたのか。これもまた幼い頃に出会ってからすぐに気が合ったためと濁せばいいと言われた。多少恥じらいながら話せばそれ以上は突っ込まれないと言われたが、どうにも恥じらう演技は向いていなさそうだと思いながら、目を逸らす。
「ほら、恥じらった演技してみろ。」
無理難題を押しつけられ、ルディリアは小さくため息を零す。
「ク、クロゥとは、お、幼い時にあった時からすぐに打ち解けて…て、これ本当にあの兄弟を騙せると思う?」
「無理だな。」
そっと目を逸らされ、断言される。その言動にイラッとして先程よりも威力のある風魔法を放てば、やれやれと言わんばかりの顔であっさり止められた。
「そうやって当たるのは良くないな?もう良いから、聞かれたら目をそらして俯けば良い。それだけでも恥じらっているようにみえなくもないだろう。」
「それ位ならルディにもできるだろう?」と付け加えられて、先程よりも大きな魔法を放ったのは言うまでもない。勿論クロヴィスもそれをしれっと打ち消して、次の話へと切り替えた。




