その娘、身の振り方2
次話は、10日投稿予定です。
「夜会のことであれば、ご心配なく。」
ルディリアがそう呟けば、二人の視線がこちらへ向く。きっとこの話しだろうと予想を付けて吹っ掛けてみれば、どうやら正解らしい。二人の表情が少しだけ崩れたように見えた。
「ルディリアのパートナーはもういるのかい?」
落ち着いた声色で、いつもとの違いなんて見せないその口調にルディリアは頷いてみせる。そうすれば、少しだけ考えるように目を細めたサウスライドは、ちらりとクラウストに視線を向けた。
クラウストは意外だと言わんばかりに驚いた様子を見せるが、それに関して何か思うところがあるわけでもない様子だ。
「昔から私のパートナーは一人です。」
そう明言すれば、サウスライドもクラウストも特に気にする様子もなく「そうか」と頷いた。
きっとその相手が誰なのか彼らが予想することは難しいだろう。何しろ、その人物と共にパーティや茶会に参加したことなどないのだから。ただ、困った時はそう言えばいいと言われた。そして使い所はきっと今で間違いないだろう。
「分かった。その件に関しては問題ないということにしておこう。それで、陛下は表彰式についてはいつ頃開く予定だい?」
「三日後に。」
クラウストがそう言えば、明らかにサウスライドの表情が曇った。
帰還して四日目に表彰式を行うなど、前代未聞である。それこそ、掌で踊らされているかのような話しに、ルディリアも表情を曇らせた。しかし、そこで漸く疑問の一つが晴れた。
そんなにも早く情報が入ったのか。いや、ベフィモスを封印したのは七日ほど前の話。幾ら早くとも王族へ報告されたのは二、三日前だろう。そこから表彰の話しがトントン拍子で進んだとは思えない。普通、帰還して一月後に表彰される。では何故か。早める必要があったのだ。彼には。
「最初から、ご存じだったのですね。」
自分が思っていたよりも少しだけ低い声色になってしまったのも無理はない。それをもっと早く教えてくれていればあんなに苦しませずに済んだかもしれないと思えば、平常心ではいられなかった。
「あぁ。機密事項だそうだ。」
そう聞かされて、彼も全てを知っていたわけではないのだと考えを改めた。しかし、今思えば彼もまた順応力があまりに高すぎた。
神位の魔物がそんなに多く頻発するとも考えづらい筈なのに、疑うことをしなかった。別の視点から見直している様子も見られなかった。今思えば、確かに不自然だらけだ。
「だから、貴方が派遣された。」
「あぁ」と呟く彼の言葉に、思わず目を逸らす。
裏切られた気持ちになるのは何故だろうか。心を許し過ぎてしまったのかもしれない。そう思う事にして、表情を引き締め直す。この場で自分を守り切る事出来る者は自分だけだ。
イクリスには第二王子が、クラウストには王太子殿下が関わっている。しかし、イクリスもまた王太子側の人間ではないのだろうか。第二王子殿下も王太子殿下と仲の良い兄弟であり、彼を支えんとしている。
そんな二人の思惑がずれているように思えるのは、私だけなのだろうか。
「不自然、ですね。」
ぽつりと零した言葉に、サウスライドがクスリと笑んだ。驚いて顔を上げれば、満面の笑みを向けている。
「ルディリア、君考えられるようになってきたじゃないか?」
「…室長、どこまでご存じなんですか。」
目を細めれば、良い笑顔が返ってくる。「そうだな…。」と何か思案する表情を見せる所を見ると、答えを教えてくれる気はなさそうだが、ヒントはくれるらしい。ルディリアにとって難解なパズルを紐解くのに必要な情報は喉から手が出るほど欲しい。
「今王族は早急に片付けたい事が三つあるんだよ。一つ目は王太子妃の決定。二つ目は反乱分子の抑制。三つ目…最後は、何だと思うかね?」
反乱分子とは、カエサル家の事だろう。
初代国王の血を引くのは現国王と王太子殿下、第二王子殿下だけではない。彼らに野心があれば、現国王を退けようと画策する。
しかし、ルディリアは知っていた。そんな野心家はソウドルフ・カエサルとその親類数名のみであると。その子供であるクロヴィスにそんな意志はなく、彼らから家や民を守ろうと動いていることを。王族が彼と対話すればすぐに分かる事だ。しかし、それを避けている現状では、きっと知り得ないのだろう。
そして、最後の一つ。王族が早急に片付けたい事。
それを私に尋ねると言うことは私にも無関係ではない事?
「古代魔法、神位の魔物、古代遺跡について、でしょうか?」
「そうだね。それらの問題は深刻だ。何しろ王族が挙って隠す程だ。しかし、君はそれを紐解こうとしている。許可を得られる者はあまりに少ない為、それらについて深く知る者は殆どいない。でも、君は違うね?」
昔から特例として認められてきた。それは王太子殿下が特別に許可してくれていた為。でも、実際は、それすら自身の利としていたのならば。第二王子殿下はそれに協力していたとすれば。先程の疑問にも納得出来る答えが出るかもしれない。
「しかし、だからこそ陛下は両立が難しいと考えたのではありませんか?」
「陛下のお考えはそうだね。しかし、王太子殿下はどうだろうか?」
「殿下もその点については理解されているはずです。」
そう、彼は理解している。彼の弟である第二王子殿下も。古代魔法の危険さと難解さに関しては。
あぁ、だから早急に解決したいこと、か。
そこさえ解決できれば、私が拒めなくなる。
自由に研究は出来なくとも王宮内で時間の空いたときに好きに出来るよう今、手はずを整えているのだとすれば、確かに面倒なことになりそうだ。
こんなこと、室長はいつから気がついていたのだろう?
こんな面倒なこと、王太子殿下はいつから進めていたのだろう?
彼は、それを知っていたのだろうか?
「気がついたかい?それなら、身の振り方をもう一度考え直した方がいいね。」
「いえ、問題ないかと。」
だからこそ断言できる。ちょっと面倒な事になりそうではあるが、やはり最後の鍵はこちらが握っていそうだ。ゆるりと口角を上げて、サウスライドの様に笑みを作ってみせる。
彼の弟子らしく、格好だけは真似てみよう。そう思えたのは、室長を尊敬しているからと共に、あまりにも室長が優しいからだ。不出来な弟子に懇切丁寧に教えてくれるのだから、こちらも成長を見せなくてはならない。
「いいねぇ。」
一瞬、驚き目を見張ったサウスライドだったが、すぐに平静を取り戻すと、同じように笑みを返した。いつもの穏やかなものではなく、不敵な笑みに近いそれにルディリアは内心苦笑する。笑顔を武器にする彼にはまだまだ勝てないらしい。
「…はぁ」と大きなため息をつき、口を重く閉ざしていたクラウストが困った様に眉を下げる。
どうやら彼も何かしら思う所があるらしい。サウスライドが、身の振り方について考えるように言ったのは、ルディリアだけではなくクラウストにも向けていたのかもしれないと思わされる。
やはりまだまだ室長に勝てないと、今度は本当に苦笑した。
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