表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、特務隊長補佐になる
56/67

その娘、島からの帰還

次回で4章が終わります。

ベフィモスの封印に力を使いすぎたルディリアは魔力過小となり、三日ほどベッドから動けない状態が続いた。


保持している魔力量が元々多いとはいえ、十日分の魔力が保存されている魔法石を全て使い切り、クラウストの魔法石を半分ほど使用した反動はかなりのものだった。


ベッドから動けない三日間、暇を持て余したルディリアは、鞄に入れておいたメモ帳を取り出し魔法陣の解析を行った。

たまに来るクラウストやイクリスに気付かれない様十分に気を張りながら行っていた為か進みはよくない。それでも、何もせずに居るより余程充実した時間を過ごせていた。



その間、クラウストは現場の指揮を執り、報告書に目を通す。ベフィモスが封印されたからといって、この地に平和が訪れるわけではない。寧ろ、ここからだ。封印されたベフィモスをどうするか。封印の儀式について住民達にどこまで公開するべきか、またリール村の者達とアンリスをどうするか、遺跡の調査を今後どう進めていくのか。考える事は多く、イクリスとともにそれを進めた。




四日目の朝、ルディリアはベッドから立ち上がると身体が動くか、また魔法を問題なく発動、操作する事が出来るかを確認して受付へと降りる。

久々にルディリアの姿を見た特殊騎士隊の者達は、すぐさま敬礼を行うとイクリスとクラウストの居場所を教えてくれた。

どうやらクラウストはシーコス島で儀式関連を取り纏めているらしい。イクリスはというと、遺跡関係を進めてくれているそうだ。ルディリアが居ない分彼に相当の負荷をかけているだろうと思うと、ルディリアは申し訳無くなった。


さて、どちらに挨拶をしに行くべきか、と考えて真っ先に頭に思い浮かんだのはクラウストだった。騎士団長であり、現在彼がここで仕事をしている以上、この場での最高責任者は彼になる。しかし、封印後の彼とのやりとりを思い出すとどうにも気まずい。少し悩んだルディリアは、デイロス島へいくことに決めた。


「イクリス隊長、おはようございます。」


いつものテントで仕事をしているイクリスを見つけて、ルディリアが声をかけると、書類に目を落としていたクラウストはルディリアを見て首を傾げた。


「あぁ、もういいのか?」


「はい、問題ありません。本日からこちらの業務を再開致します。」


丁寧に頭を下げてそう伝えると、イクリスは困ったように笑う。その違和感にルディリアは首を傾げたが、イクリスは小さくため息をつくとルディリアに近くの椅子へ座るように促した。


「ルディリア嬢、君は二日後にここを発ち、城へ帰還することになった。」


「え?」


あまりにも唐突な話に、ルディリアは大きな瞳をぱちくりとさせると小さく眉間に皺を寄せた。

まだまだここで調べたいこと、研究したいことが山ほどある。それなのに、急に城に帰れと言われるとは微塵も思っていなかったルディリアは、訝しむ。それは何処からの命令で、何の目的があるのか、と。


「…遺跡調査の引き継ぎはどなたが行うのでしょう?」


今現在、この場にルディリアよりも古代遺跡に詳しい人間はいない。自分が研究を続けられないとなると、調査は一時休止になるのだろうか。いや、ベフィモスが封印されているこの場の研究は、何よりも急がねばならないはずだ。では、誰かが代わりにそれを進めないといけないことになる。


「別の者が来る予定と聞いている。その間、私がここの指揮を任された。」


「誰が来るのかまだ分からない状態なのですね。」


曖昧な返事から、それらを決定したのは城にいる人間だろうと予測がつく。そして、そんな事を迅速に執り行えるのは陛下か王太子殿下のどちらかだ。それならば、もはやどちらであっても同じ事だ。命令は絶対。覆ることはない。


ルディリアは抵抗を諦め、「承知しました。」と小さく頷いた。本当ならばやりたい事はまだまだある。やり残したことだらけで、このままこの地を後にしたくはない。しかし、ここの主導権がもはやこちらにない所を見ると、一度戻って体勢を立て直す必要がある。


「すまないな。昨夜、城から君とクラウストを戻すようにとの指示を受けた。」


「アルンベルン騎士団長もですか?」


「あぁ、あいつも向こうの仕事を放ってきている状態だからな。仕方無い。」


だからといってこのタイミングで二人同時に帰還させるだろうか。アルンベルン騎士団長のみ先に帰還させ、調査員の派遣が済んでから私が戻るというのが定石だろう。何をそんなに急ぐことが…。


「あー…なる程。」


「どうした?」


「いえ、問題ありません。」


小さく返すと、ルディリアはイクリスへ頭を下げた。そして自身のテントへ戻る事を伝えると、イクリスは訝かしげに目を細めながらも承諾してくれた。


テントに戻ると、してやられたことに気がつきルディリアは頭を抱える。


今からルディリアを城へ戻す理由は、幾つか頭に浮かんだ。

一つは、室長の仕事の進捗に関わる問題が起きていること。

二つ、ガーデンパーティを欠席する理由となったこと。

三つ、今回の古代魔法についての報告の為。しかし、これに関してはクラウストのみでも成立しそうだし、そもそもこちらの状況を知らないはずの彼らからその意見が出るとは思えない。


そして、年の瀬に行われる夜会である。

恐らく王族はこれにルディリアを出席させる為に、今のうちに帰還させ、王都に留まるよう命じるつもりなのだろう。王太子殿下もそろそろ本格的に王太子妃を決めなければならない。そこに白羽の矢が立てられたと考えるのが妥当だ。


「逃げ道が…ない。」


いつかこうなるかもしれないと予想はしていた。しかし、心のどこかできっと諦めてくれるだろうと暢気な考えを持っていたことも事実だ。


本来ならば王太子妃としての教養を幼い頃から身につけた令嬢が抜擢されるもの。しかし、昔から王太子殿下の目が自身に向いていることもまた現実。そして特例として古代魔法に関する知識を学ぶ機会も与えられてきた。全て特殊な環境下で育ってきた自覚はある。


何の為に今まで無表情を貫き通してきたのか。何の為に、王妃教育から逃げ回ってきたのか。やるせなさと、どうしようもない現実に胸が潰れる。そして同時に彼の顔が浮かび、苦笑と共に首を振ってそれを見ないふりした。


「取敢えず、片付けなくちゃ。」


テント内には机の上に書類が積み上がっている。床には石版がそこら中に置かれている。魔法陣を解析する為に殴り書きしたメモもかなり溜まっていた。

メモは圧縮の魔法がかけられた袋へ流し込み、書類は分類してイクリスに渡す。渡す前にリストを作った方が良いだろうかと考えて、出来るだけ彼の負担にならないよう工夫した。


石版は、欲を言えば城に持ち帰りたい。しかし、重要な資料を持ち出す許可を得る為には時間が絶対的に足りない。小さなため息をつき、これらの保管場所に目星を付けてクラウストに相談しようと、書類を作製した。



そうして二日間、引き継ぎ作業をしてルディリアとクラウストは城へ帰還する事となった。


シーコス島を出立する時間、島には多くの隊員達の姿があった。どうやら見送りの為に時間を割いてくれたらしい。


「ルディリアちゃん、こっちは任せて」


ニコリと微笑みを浮かべるローベルにルディリアは頭を下げる。彼らとも短くない時間を共に過ごした。いざこの地を離れるとなると、寂しいものがある。彼らがこの地での仕事を別の者に引き継げば、また城で再会すると分かっていても寂しいのが不思議だ。


「ありがとうございます。不明な点などなにかお困りのことがあれば、いつでもご連絡下さいね。」


ローベルは困ったように眉を下げると、ユーグとエーバハルトが呆れた様に口を開く。


「ルディリア様は、いつも無理をなされる。どうかゆっくりして下さい。」


「うんうん。ルディリアさんは働き過ぎですから、城ではもっとゆっくりしてくださいねー。」


実際ここにいるよりも城にいるときのほうが何かと忙しくしている気がしないでもないが、彼らにそれを伝えればきっと心配させてしまうと思い、黙っていることにした。


「そんなことはありませんが、本当に、困ったらご連絡下さいね。」


今度はイクリスに向けてそう伝えれば、彼は困った様に笑いながらも確かに頷いた。

きっと彼は、古代魔法の研究を城でも行うつもりでいる事に気が付いているだろう。そして、それを言葉にすればユーグ達に心配をかけるかもしれないと理解した上で、頷くに留めてくれたのかもしれない。


「クラウストがいる分安全性は高いが、道中気を付けてくれ。」


「ありがとうございます。」


そういって頭を下げれば、イクリスの視線はルディリアからクラウストへと移る。

彼らは何も言わず、小さく口角を引き上げるとお互いが何かを察したように頷き合った。それほどまで彼らの信頼力や理解力が高いのだと思わされ少しだけその関係性を羨ましく思いつつ、ルディリアは横に立つ彼を見上げた。


風が吹き、青い髪がさらさらと揺れる。

騎士服に身を包んだ姿はもう見慣れたものだ。しかし、彼の顔がこちらを向けばドキリと心臓が音を立てる。

彼の口角が吊り上がり、低い音を発した。


「そろそろ行くぞ。」


「はい」と小さく呟けば満足げに頷き、クラウストは船へと足を向けた。ルディリアはもう一度特殊騎士隊の顔ぶれを見回すと、騎士の礼をとってマントを翻す。


帆船の船首からシーコス島を見下ろせば、集まった隊員達が騎士の最敬礼をとり見送ってくれた。ルディリアが小さく頭を下げると、船笛が鳴り響く。

出港の合図である。



「充実した時間を過ごすことが出来たようだな。」


穏やかな声に目を向ければ、暖かな眼差しが降り注ぐ。

ルディリアは小さく目を見張るも、大きく頷いた。この地での仕事は、予想外な事ばかりで忙しく、大変な事が多かった。それでも、彼らとだから乗り切れたのだとルディリアは自信を持って言える。


「はい。楽しい事も多くありました。」


「そうか、戻れば面倒事がそこら中から湧いて出てくるだろうが…困ったときにはいつでも話しを聞こう。」


彼もどうやらルディリアと同じように、夜会の事を考えているのだろう。うんざりしたような表情を一瞬見せた。

女性嫌いの彼にとって、夜会ほど面倒なこともないのだろう。しかし、今回は彼よりも自分の方がより面倒なことになるだろうと思っている為、同意せずにいられない。


「やはり、年の瀬の夜会ですよね…。」


「だろうな。私にも、去年から幾度も話しが回ってきている。」


彼もまた、公爵家の人間として早急に妻を娶るように陛下からお言葉を頂いているようだ。

あまりうかうかしていれば王女殿下が降嫁しかねない。しかし、そうなれば彼もまた兄同様、公爵位の人間となる。そうなった場合は王女殿下が女公爵となり、クラウストはそれを支える婿として歓迎されるわけだ。

割と向いているのではないかとふと考え、彼の顔を横目で見ると不満そうな目とかち合った。どうやら考えが漏れていたらしい。


「私は公爵位などに興味はないぞ。」


「しかし、有能な方にその位について欲しいと願う下位貴族があるのもまた然り、ではありませんか?」


目を細め、大きなため息をつくと目の前で指差された。「君が言うか?」と呆れた声つきで。それに内心苦笑したルディリアはそっと目を逸らす。


有能なつもりはないし、剰え社交界での地位の低い自分が王太子妃など、荷が重い。重すぎる。

自由な時間が欲しいからと領地に籠もって居たというのに、たった数回幼い頃に顔を出したお茶会のせいでとんだ厄介な立ち位置になってしまった。


相手が王族でなければ逃げ回ることも出来たというのに、お互い運がない。いや、彼はまだ王女殿下から想われているわけではない分、逃げる道は確かに残っている。そう考えれば、やはり自分の方が不運だと思い直し、不満げに彼を見上げた。


「何か言いたげだな?」


呆れた声色とは違い、彼の表情は酷く穏やかだ。何を考えてそんな表情をしているのか、ルディリアには分からなかった。


「逃げ道がある分、アルンベルン騎士団長の方がまだましではありませんか。」


「…君にもあるぞ。」


思っていたよりも不満げな声色でそう呟いてしまった言葉に、予想外な言葉が返され、驚きで目を見張る。

彼の顔は嘘を言っているものでもない。真剣な表情でこちらに向く、澄んだ青い瞳が小さく揺れたような気がした。首を傾げれば、彼は苦笑する。


「言ったろ。私にも話しが回ってきている、と。」


「まさか…」


まさか…それは婚約者を探せ、という意味ではなく…

私を娶る気があるか、という話し!?


混乱と同様で、口元が引きつる。きっと、恐らく、多分。…いや、確実に陛下のお考えだろう。王太子殿下のお気持ちを優先するつもりのない陛下が、ルディリアの婚約者候補を探していたということになる。

ルディリアの自由を守る為か、古代魔法に関する研究が行える者を妃としておけば、仕事が滞ると考えたのか。ルディリアには予想を立てることしか出来ない。


「あぁ、君の話は去年から来ていたが、今年君と関わるようになってからはその頻度が増えた。」


「…申し訳、ございません。」


「いや。君はどうしたい?私は公爵の位から外れ、自身の持つ伯爵位まで下がる。君の立場を守る為には少々心許ない。」


「君自ら伯爵位を賜ることが出来れば別だが」と続けてルディリアを見つめる。その視線から逃げるように逸らして水平線へと向ければ、日に照らされキラキラと輝いた水面が目に入る。眩しいくらいの光に瞳を閉じれば、彼とのやりとりを思い出す。


嫌なわけではないし、寧ろ人として好意的に見ている。

でも、迷惑をかけるつもりもない。

アルンベルン騎士団長と、王太子殿下は友人で、その関係を壊すつもりもない。

彼以外に当てがないわけでもない。


「そういったことは、兄に任せするつもりです。家の為に、兄がどう判断するのか、父がどう判断するのかに委ねようと思っています。幸いなことに、二人とも私をとても思ってくれていますから、悪いようにはならないでしょう。」


「…そうか。」


はい、と返せばこの話はもう終わりだと、ルディリアはクラウストへふり返り、別の話題を口にする。彼の表情が何とも言えない表情をしているものだから、心臓の辺りがズキリと痛んだような気がしたが、それに気付かない振りをした。


「そういえば、室長の様子は如何でしたか?」


一瞬、何か言いたげに口を開いたがそれを閉ざすと、彼は視線をルディリアの先にある水平線へと投げた。


「あぁ、兄上はきちんと仕事を片付けていたように思うぞ。大方ソフィアに聞かされた話が尾を引いているのだろう。」


「ソフィア様は本当に素晴らしいご婦人ですね。尊敬します。」


「あぁ、きっと君もソフィアの様な夫人になれるさ。」


そうだといいですが、と返し内心苦笑する。

少しばかり困った話題にも触れたが、穏やかな時間が続き、その後もクラウストと談笑を続けた。


思っていたよりも投稿ペースが早くなり、ストックがなくなってきました。

その為、現在執筆中の5章は投稿が12月1日となりますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ