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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、特務隊長補佐になる
55/67

その娘、労い

4章もうすぐ終わります。

5章は現在執筆中です!


ゆらゆらと、日照りの良い揺り籠の中にいるかのような感覚が心地良い。

どこか知っている香りを感じて、安心する。


とても疲れていて、起き上がれそうにない。身体に力が入らない。それでも、その心地よさの正体を確かめたくて、薄らと瞳を開けてみれば、思った通りの展開に苦笑した。


「よくやった、休んでいろ。」


ルディリアの意識が戻ったことに気がついたクラウストは、優しい声色でそう呟くと、クスリと笑みを零した。

褒められた事が嬉しかったのか、やり遂げたことが誇らしかったのか、彼の腕の中に自分が収まっていることを可笑しく思ったのかは分からない。ただ、自然と溢れてしまった。

普段は気を付けているというのに、今日は本当に気が緩んでいるらしい。


身体に上手く力が入らないから、前みたいに自分で歩くとも言い出せなくて、ぎゅっとしがみついた。

それに気がついたクラウストがふわりと笑う。柔らかな表情と、優しい瞳が向けられて、急に恥ずかしくなったルディリアは両手で顔を覆う。

さっきまで腕を上げる力さえ入らないと思っていたのに、羞恥心には勝てなかった。無意識に動いた身体には、まだ気怠さがあり、腕が重い。


「ベフィモスは…?」


「問題なく封印出来ている。安心しろ。儀式で集めた魔法石も聖杯も奉納済みだ。」


「そう、ですか。」


欲しい情報を全てくれたクラウストに内心感謝しつつ、ほっと胸をなで下ろす。


よかった。

まだ全部終わった訳ではないけど、それでも一先ず邪の暴走を抑えることが出来た。


ベフィモスの姿を見ても恐ろしく感じなかった。それは、彼の気持ちが流れ込んできていた為なのか、それとも邪に犯されているとはいえ、守り神だからなのかは分からなかった。ただ、助けたいと、そう思った。


「ベフィモスは、守り神なんです。人を、とても大切に想っていて。自分が辛い筈なのに、ずっと心配をしていたんです。」


ぽつりぽつりと零すルディリアの言葉に、クラウストは「あぁ」と穏やかに返事をする。


「それなのに、助けられなかった…。」


眉間に力を入れて、涙がこぼれてしまわないようにすれば、表情が崩れる。そんなルディリアを見て、クラウストの腕に少しだけ力が入り、抱き寄せられた気がした。

彼なりに慰めようとしてくれているのかもしれないと思うと、少しだけ心が温かくなる。


「確かに、助け出すことは出来なかった。だが、最後に見たベフィモスの表情は穏やかなものに見えた。…心くらいは、救うことができたのかもしれない。それに、どうせここで諦めたりはしないだろう?」


口元に綺麗な弧を描きながら、ルディリアを見下ろす。その言葉はルディリアに問うているようで、断定しているかのような力強さがあった。彼にはやはりルディリアの考えはお見通しらしい。


「はい。必ず。」


「ならばまずは休め。君は良くやった。大勢の命を救ったんだ。少し位自分を褒めてやれ。」


クラウストの言葉に、ルディリアは困った様に眉を下げた。自分を褒めるなんてどこか気恥ずかしくて、むず痒い。それに、それ以上に嬉しい言葉を今し方もらったばかりだ。ルディリアはそれで満足だった。


「いえ、今のお言葉で十分です。」


ぽつりと零す。見上げれば、一瞬だけクラウストの瞳が見開かれた様な気がした。しかし、その透き通る青い瞳はすぐ細まり、優しげな色を取り戻す。小さく首を傾げれば、その瞳は前方へと向けられた。


「もうすぐ宿に着く。」


そう聞いて周りを見れば、確かにシーコス島の宿屋の近くであることが分かる。どうやらかなり長い時間気を失っていたらしい。騎士として恥ずかしく思いながらも、ハッとして胸の内ポケットを探る。


――、ない…。


きゅっと眉を下げてクラウストを見上げれば、それに気がついたクラウストが足を止める。見下ろされたルディリアはそっと視線を外した。


「どうした?」


「アルンベルン騎士団長から頂いた魔法石が見当たらず…。」


なんだそんな事か。と呆れた表情を向けると、再び歩き出した。


ルディリアにとってお守りに近いその魔法石の所在がとても気になる所だが。しかし、彼にとってそれは大したことではないらしい。

それもそうだろう。自分の魔法石なんて公爵家の生まれである彼にとってそんなに高価なものでもなければ、作ろうと思えばいつだって作ることの出来るものなのだから。

ルディリアであっても自身の魔法石を無くしたくらいで嘆いたりはしない。どうせ誰かが拾ったとしても、波形が合わないと上手く使いこなすこともできないのだから。


「必要か?」


そう問われれば、言葉が詰まる。欲しくはある。なんとなく、あれを持っているだけで力が湧いてくるような気がするから。それでも、そう伝えるのも気恥ずかしい。


「…い、え。」


お守りを失ったことを悲しく思いつつも、仕方が無いと諦めるしかなかった。そもそも、封印が終われば返そうと思っていたのだから、手元になくとも何も問題ない。…問題はないのだが…。


「なくしてしまって、すみません。」


なんとなくこの感情を知られたくなくて、誤魔化すように言葉を続けた。クラウストはこちらに目を向けることなく「構わない」と返すと、宿屋の受付を通り過ぎた。どうやら部屋の前まで送ってくれるらしい。正直階段を上がれる気がしなかった為とても有り難い。


部屋の扉まで付くと、ルディリアは「ありがとうございました。」と声をかけた。しかし、クラウストは一向に下ろそうとしない。困惑しながらルディリアはクラウストを見上げた。


「あの…アルンベルン騎士団長…?」


「鍵を出せ。」


「え…はいっ。」


命令口調で放たれた言葉に、無意識に身体が動く。鞄の中に入れていた鍵を取り出すと、クラウストは器用に片手で受け取りドアに指した。くるりと回せば鍵の外れる音が響き、扉が開く。


断りもなく、スタスタと中へ入ると、クラウストはゆっくりとルディリアをベッドへ下ろした。

困惑するルディリアを見て口元を緩めると、彼もまたベッドの縁に座った。


「え、っと。あ、ありがとうございます…。」


「ほら。」


差し出されたのは、青い輝きの残る魔法石。いつの間にか、どこからか取り出したらしい。混乱していたルディリアは差し出されるまで全く気がつかなかった。


「え、これ…」


くれるんですか?と見上げれば、クラウストは穏やかな表情のまま頷いた。

恐る恐る手を伸ばせば、何の障害もなくそれに触れることが出来た。つまみ上げ、目の近くまで持ってくれば確かに先程までルディリアが持っていた魔法石であることが分かる。

何度も目にしたそれを見間違えるはずもない。それに、魔力がかなり減っているところを見ると、はやり同じものだと確信出来た。


胸の前でぎゅっと握りしめると、自然と頬が緩む。


「そんなに気に入ったか?」


不思議そうな顔で見つめられ、言葉に詰まる。それでも、不自然にならないように口を開いた。


「お守り、だったので。」


「そうか。ならば持っていろ。あとでまた魔力を溜めてやる。」


ゆるりと上がった口角と、細めた青い瞳が彼の魅力を引き立てていて、顔に熱が集まった。クラウストは楽しげにルディリアへ手を伸ばし、ぱちくりと見開く金色の瞳を覗き込む。その近さに、ルディリアは少しでも距離を取ろうと身を引いた。


ふっと零された声に、いよいよルディリアの瞳が宙を泳ぎ、頭が沸騰しそうになる。クラウストがルディリアの頬に片手を添えると、額に唇を落とした。一瞬何をされたのか分からなくて、固まるが、頭よりも先に心臓が大きな音を立てて騒ぎ出し、遅れて気がついた。


「あ、あ、あたま…にっ」


ぎゅっと目を瞑り、クラウストの胸を強く押す。しかし、上手く力の入らないルディリアの抵抗は、クラウストにとって困るほど弱々しい。


「あぁ。嫌か?」


甘い声色に、瞳が潤む。嫌ではないから困っている。なんて言えるはずもなく、口をぱくぱくと開くことしか出来ない。潤む瞳で彼を睨め付ければ先程よりも更に表情が柔らかくなったような気がして、むっと唇を突き出した。


「か、からかわないで下さい!!」


クツクツと喉を鳴らしながら「そんなつもりはない」と言われても全くそうは思えず、またギロリと睨み付けた。

クラウストが苦笑しながらルディリアの頭へと手を伸ばせば、ポンポンと撫でられる。それが何故か心地よくて、文句が言えず、ぎゅっと口を閉じると瞳を逸らした。


「よく頑張ったな。」


不意に優しい言葉をかけられて、思わず見上げれば頭を掻き回されて髪がぐしゃぐしゃになる。楽しげにこちらを見つめるクラウストは満足そうに頷くと立ち上がり、ベッドを指さした。


「今日はゆっくり休んでいるように。」


「…はい。」


小さく返事をすれば、また満足そうに頷いてそのまま部屋を出て行った。クラウストの居なくなった部屋の中、ルディリアは一人考え、身悶える。さっきのはなんだったのかと、煩く騒ぐ心音を宥めようとぎゅっと身を抱いた。


ドキドキと一向に静まらない心音に小さなため息をつくと、ベッドの中に潜り込む。身を小さく丸めて、目を閉じればさっきの事を鮮明に思い出し、小さく唸った。



「うぅ…。これじゃ、眠れないよぅ。」


4章残り1話。(1/2を明日投稿予定です。)

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