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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、特務隊長補佐になる
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その娘、聖神女祭

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クラウストがルディリアのテントに入ったことで、反省したルディリアは、数時間に一度テントから出るようにしていた。


また急に来られても困るし、何より心臓に悪い為イクリスに顔を出しに行く。イクリスは最初こそ、安堵の表情を見せていたが、ルディリアが頑なにクラウストへ直接報告しに行かない様子をみて、困った表情を浮かべることが増えた。


現状、ルディリアはイクリスの補佐としてこの場に居る為、報告する経路としては間違っていない。しかし、どうせなら二人居るときに話せば良い。なんといってもクラウストとイクリスは大体同じ所で仕事をしているのだから。あえてクラウストの居ないタイミングを見計らって報告するルディリアに、苦笑が溢れるのも無理はない。その後、イクリスはクラウストにそれを伝えるという手間をかけるのだ。

しかし、イクリスは友人が彼女に何かやらかしたらしいとすぐに気がついた。そして原因は心配した自分がクラウストに零した言葉だろうと、そこまで考えて「ならば仕方がない」とあっけなく受け入れる。


そうしてイクリスの気遣いにより、ルディリアはクラウストと顔を見合わせることなく仕事を行っていた。そんな事をしていてもいなくても、時間が足りない。



資料を読み更ければ、もう朝。

小鳥がチチチと可愛らしい鳴き声を繰り返し、特務隊の隊員達の足音や、ガタゴトと何かを引いているような音が聞こえてくる。そんな中でルディリアは一つの資料に目を落としながら驚愕していた。


「…こ、これ…ほ、報告っ!」


やっと見つけた、手がかり。二、三日探し続けていた内容を、ここに来てやっと見つけて、歓喜と戸惑いで上手く言葉にならない。転がるようにテントを出ると、大事に資料を腕の中にしまい込み、全力で駆ける。中央の大きなテントに飛び込むと、二人の男と目が合った。


「み、み、み、みつ…見つけました!!!」


絞り出した声に驚いたのか、その成果に驚いたのか、イクリスとクラウストは立ち上がると足早にルディリアの元へ駆けつける。一歩早くルディリアの元に辿り着いたイクリスが、ルディリアの背に手を当てると椅子へ座るようにと促した。こんな時でもエスコートを忘れないイクリスを見て、「紳士だな」なんて暢気な事を考えながらも資料を目の前の机へと置いた。


「これです。」


二人が資料を覗くも、内容が古すぎて、言葉回しも難しいその文章を読み解くことが出来なかった。早々に読み解くことを諦めたイクリスが、ルディリアに視線を向ける。


「内容は?」


「封印されている魔物についてと、その封印方法についてです。」


クラウストが資料から顔を上げ、ルディリアをじっと見つめる。咄嗟に目を逸らしてしまったルディリアは「しまった」と思いつつも、そのまま資料へ視線を落とすと、指でなぞりながら読み上げる。


「温厚だったベフィモスは、“ある夜突然凶暴な魔物になった”とあります。そして“川を氾濫させ、木をなぎ倒し、地を砂漠に変えた。”幸いにも犠牲者は出なかった様ですが、災害と同等以上の厄を振りまくベフィモスを封印することに決めた、と。」


イクリスは呆然としたまま、ルディリアを見ると頭を抱える。ルディリアとしても彼の気持ちが痛いほど分かる。


ベフィモスとは、プライダル王国だけでなく近隣の国にも伝わるほどの魔物である。本物を見かけたことがなくても想像絵は多く存在している。像にも、河馬にも見えるその姿は一説によると犀であるともされている。巨大な身体を持ち、それは年を経る毎に未だ成長し続けているとも言われるベフィモスは、神の最高傑作であるとされている。その力は神位の魔物と断定できる。


そんな魔物の封印が今日解けるかもしれないというのだから、頭を抱えたくなるのも頷けるし、ルディリア自身も最初はそうした。そんな中でもクラウストは酷く冷静だった。


「それで?」


「…クラウスト、お前は知っていたのか?」


あまりの冷静さにイクリスが眉をひそめる。しかし、彼はその問いに首を振り否定を表す。では、何故そこまで冷静なのか、とイクリスが再び口を開こうとした時、クラウストが口角を上げた。


「君は、封印についても調べ、可能であると判断したんだろう?」


「そうでなければ、ここへそんな表情で来る筈もない」と、自信たっぷりに言い切る。楽しげな表情を見たイクリスは苦笑を零した。そして、ルディリアもまた困った様に眉を下げる。


「簡単ではありません。私一人でも出来ません。」


「あぁ、だが不可能ではない。と言うことだな。」


ゆっくりとルディリアがクラウストへ視線を向ければ、彼は不敵に笑む。そんな表情を見たからか、彼の態度や冷静さがそうさせるのかは分からなかったが、ルディリアは不思議と力が湧いてくるような気がした。


真っ直ぐにクラウストを見て、「はい。」と頷く。

一人では出来ない。それでもここに居る人達の力があれば、なんとかならない事もない。可能性はゼロではない。しかし高くもない。賭けのような作戦を彼が何処まで認めてくれるか、緊張しながらもゆっくりと口を開いた。


「まず、ベフィモスが復活する前に強力な結界を張ります。そしてお二人にそれを維持してもらいます。その間に魔法陣を描き、ユーグさんとエーバハルトさんの力をお借りして、封印の魔法陣を起動させることが出来れば、ベフィモスを封印することが可能です。」


短い沈黙の後、低い声が落ちる。


「分かった。」


ルディリアは大きく瞳を開かせ彼を見つめた。イクリスは苦笑しながらも小さな息をつき、確認を取る。


「できると?」


「やるしかない。」


無謀すぎる作戦だ。ベフィモスの力を二人で抑えるだけでも一苦労。封印されているとはいえ、相手は神位の魔物だ。到底敵わない魔力の量と質で対抗されるだろう。それを無理矢理に押さえ込む。数分維持できれば奇跡という中で、初めて見る古代魔法を描き、発動させなければならない。


古代魔法を発動させ封印式を展開させるというのは、ベフィモスを結界内に閉じ込めておくよりも遥に難易度が高い。


だが、現状これしか策はない。クラウストの言う通りやるしかない。やり通すことが出来なければこの周囲の者と共に滅ぶだけである。


「私達で結界を維持させる、と言うことはルディリア嬢が結界魔法を発動させると言うことだな?」


「はい。」


イクリスの問いにルディリアが頷く。ベフィモス程の魔物を閉じ込めておく結界魔法を展開させるというだけでも驚く話しだが、その維持を他人に任せるというのは並大抵にできることではない。その後に封印の古代魔法を発動させるというのだから、魔力が幾つあっても足りないだろう。


しかし、ルディリアには専用の魔法石がある。元々常人よりも遥に多い魔力をもつルディリア。そこに、ルディリアの魔力の十日分が保存されている魔法石を使い切って、どうにか封印出来るという目算だ。


イクリスは無言でクラウストを見遣る。しかしクラウストは平然とした態度でルディリアに目を落とす。それはまるで「できるんだろ?」と尋ねるようでもあった。ルディリアは小さく息を吸い込むと、深く頷いた。


「問題ありません。ただ、これにはユーグさんとエーバハルトさんにとても負担をかけてしまう作戦です。彼ら次第で状況は大きく変わるでしょう。」


彼らにそんな負荷を強いてもいいのか。自分はどうとでもなる。しかし、三人といえども発動するのは古代魔法。基本的には使用が認められていない。難易度が高すぎるその魔法は、強大なものだ。使い方を間違えれば国を脅かす。


今回、この魔法を使用することに問題はないだろう。もし何かあっても直談判できる材料をルディリアは揃えていた。問題となるのは、難易度が高すぎると言う点だ。周りと魔力の波形をあわせ、出力をあわせた状態を維持し、展開作業をルディリアが行う。魔力を注ぐだけとはいえ、かなりの魔力量と精神力を削るだろう。


だが、ルディリアは彼らなら出来ると踏んでいた。


ユーグは状況判断能力に長けている。魔法の使い方も無駄がなく丁寧である。

エーバハルトは、魔力を多く保有しており、魔法操作にも、魔力操作にも長けている。若くして特務隊の配属になっただけはある。


他にもっと優れた魔法の使い手がいるかもしれない。それでも、共にリール村へ行き、短くとも時間を共有した彼らだからこそ、信じる事が出来る。だから、彼らを指名した。


「それならば問題ない。彼らならやり遂げる。」


強く言い切るイクリスをみて、そんな風に言ってもらえる彼らが羨ましくなった。そして、同時に嬉しくもなった。緩みそうになる頬と下がる目尻を引き締めて、ルディリアは振り返る。


「お願い、出来ますか?」


『勿論です』


二人の男性の声が重なる。

ベフィモスの話しをしてからどんどんと増えてきた人の気配の中に、知っているものがいくつかあった。見なくともルディリアはそれを感じ取る。緊張と困惑はとても分かりやすい。気配がよく立つ為だ。しかし、彼らの表情を見るに、どうやらそれだけではないらしい。


緊張の中に、やる気が見える。瞳は闘志を燃やして、熱く輝く。口元は震えながらも弧を描いている。何とも心強い返事とその表情に、ルディリアも小さく口角を上げた。


「では、本格的に作戦を練ろう。魔法に関してもルディリア嬢に聞きたいことがいくつかある。」



冷静につぶやくクラウストの声で、その場の全員の表情が引き締まった。


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