その娘、探索
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ルディリアとイクリスが先へ進むと、また通路は左に緩やかに曲がっていた。やはりここは大きな円状に作られているのだろう。
暫く進むと目の前に一つの部屋が見えてくる。部屋の手前で立ち止まり中を観察すると、ここにもまた天井に大きな魔法陣が描かれていた。
壁には人々の暮らしが描かれており、中央には女神像と例の石壇である。その上には、やはり石版らしきものが乗ている。
部屋の奥には二方向へ続く通路が見える。どうやら一方は最初の分かれ道の反対側に繋がっているらしい。どちらの道を選んでも結局この場所へたどり着いたのだろう。
イクリスはちらりとルディリアへと目を向ける。それに気がついたルディリアは、天井に描かれた魔法陣を読み解く。この部屋には先程とは違い四つ角に魔石と石版がないらしい。となれば後はこの天井の魔法陣だけである。
「…先程と同じ守護系統の式だと思います。この建物、部屋を守る結界魔法でしょうか…。」
「入っても問題ないということだな。」
イクリスが一歩部屋へと進むが、魔法陣は反応しない。それを見たイクリスは、振り返るとルディリアへ頷いた。
この部屋も特に問題ないと言うことだろう。ルディリアもまた部屋へと足を進める。
「この像は見覚えがある。」
イクリスの言葉に、ルディリアが像を見上げた。イクリスよりも少し大きなその像は、女性の姿をしていた。背中からは翼のようなものが生えており、女性は胸の辺りで手を組んでいる。祈るようにそこに立っている姿はまるで女神のようだった。
「女神…」
ルディリアがつぶやいて、イクリスが頷く。
「あぁ、確かに。ディース島の聖堂にあった像と同じにみえる。」
「ということは、この方が聖神女でしょうか?」
「そういうことになるな。」と、イクリスは壁画を見渡す。人々が田畑を耕し、狩りに出掛け、聖堂で祈りを捧げる。そんな日常が描かれた壁画は部屋全体に描かれていた。
ルディリアが女神像の目の前に置かれた石版に手を伸ばし、今までと同じようにそれをめくろうとするも、それはぴくりとも動かない。
「開かない…。」
つぶやいてから石壇に窪みがあることに気がついた。何かをはめるのであろう窪みは3つあり、窪みの下には獣の形をした絵と神を模した絵、それから人の形の絵が刻まれていた。
「何かを填めないといけないみたいです。」
「この洞窟内にあるということだろうか。」
「分かりませんが、その可能性が高いかと。」
この謎が解けなければ帰る方法も分からないかもしれない。だとしたら、最初からこの場所へ何かを持ってこなければならないという可能性は低いだろう。まぁ、可能性が低いと言うだけで罠の可能性も確かにあるが、他の部屋を隈無く探す必要は出てくる。
時間を考えると手分けして探した方が効率は良いが、安全とも言い切れない。まだ見れていない部屋は恐らく二部屋残っている。
女神像のあるこの部屋には三方向の道が続いており、女神像を前にして右側の通路は先程ルディリア達が来た道だ。左側は恐らく最初の分かれ道を反対に進んだ先にある部屋だろう。そしてもう一方が女神像の真後ろにある通路である。この先には何があるのか分からない。
「調べるならば、左の通路が先かと思います。」
「あぁ、恐らく月と太陽だな。」
イクリスもやはりルディリアと同じ事を考えていたらしい。デイロス島は二人の神が誕生した地であるという噂があった。それはシロスの街でルディリアとイクリスが情報収集をしていた最初の日に、他の特務隊員が得た情報である。
太陽神と月の女神。この二人の神がこの地で誕生したのだという。
石壇に描かれていた獣が先程の部屋ならば、神はこの先の部屋となる。そして最後に人が残る。そう考えればやはりこの洞窟内に全てがあると考えられるだろう。
二人が左の通路を進むと、一つの部屋が見えてきた。
今度は躊躇うことなくイクリスがその部屋に入る。少しばかり緊張したルディリアだったが、特に何も起らなかったことに胸をなで下ろすと、自身もまたその部屋に足を踏み入れた。
部屋の中へ入るとまたもや景色が一変した。獣の像があった部屋と同じく、神殿の内部に迷い込んでしまったかのような作りである。見回せばやはり四つ角には同じ魔石と石版が壁に填め込まれている。
部屋の中央には月と太陽の石像がありその間には例の石壇と石版である。壁には神々の姿が描かれており、一人の女神がオリーブの木の下で二人の赤子を産んでいる様子。様々な神がそれを手助けしている様子が描かれていた。天井には他と同じように守護系統の魔法陣。
「この地に伝わる噂話と似ていますね。」
「あぁ。一人の女神が彷徨いながらこの島を見つけ、月の女神を産んだが、もう一人の赤子である太陽神が中々生まれず、月の女神の力を借りて漸く産み落としたという話しだったな。どこかにその神殿があるらしいと報告があったが、デイロス島の何処を調べても見当たらなかった。」
「…ここがその神殿という事でしょうか。」
「ここはそれらを模した場所に思えるが、どうだろうな。」
誰が描いたのか、誰がこんなに手の込んだ場所を作ったのかは分からないが、確かに噂通りの話しが壁画として残っているところを見ると、実話なのかもしれない。
ルディリアが石版に触れると、こちらは中を見る事が出来そうだった。一枚ずつめくっていくと、やはりそこには詩が綴られている。
“汝、知恵をしぼり”
“汝、力を示す”
“汝の思いが光の先に現れん”
詩が綴られた石版の次のページには、三つの「×」がかかれていた。それ以外は何もなく、ただ「×」だけが書かれている事を不思議に思ったルディリアが首を傾げる。
何かの暗号?
何かを示しているみたいだけど何を…
「あ!」
思わず上げた声に、イクリスが振り返る。
「どうした?」
「す、すみません。あの、これを見て下さい。」
大きな声を上げてしまった事を恥じつつもイクリスにその石版を見せると、イクリスは眉間に皺を寄せる。しかし、すぐにそれが何を示しているのか理解したようだ。
「先程の地図とあわせると、ここはディース島、シーコス島、エルムポース島だな。」
一つずつ×を指さし、イクリスがつぶやく。その×はディース島の聖堂の位置と、ユーグ達が調査してきたシーコス島祭壇の位置である事が分かる。そして、最後の一つは位置からしてエルムポース島だ。位置は、エルムポース島の南の海岸付近である。そこにお目当てのものがありそうだ。
「かなり良い収穫がありましたね」
「あぁ、あとはここから出るだけだ。」
ここからはルディリアがどうにかするしかない。まずはあの石壇に填め込める何かを探す必要があるのだが、それが見当たらない。
「イクリス隊長は、あの石壇に填め込むことが出来そうなものを探して頂けますか?私は、この魔法陣を書き写したいので。」
そういって次の石版をめくると、やはりそこには魔法陣が描かれていた。イクリスは頷くと部屋中を調べはじめる。
さらさらと自身のメモ帳に書き写したルディリアは、改めて部屋を見回した。色ガラスが埋め込まれてキラキラと輝く床に、石壇に光が集まる様に作られた天井。神々の様子が描かれた壁画。全てが調和しており、神々しくある。そこに違和感などなく、不自然なものといえば石像くらいなものである。
石像は全て同じ材質で作られているためか、この部屋の材質と異なる。もともとこの部屋に幻覚の魔法がかけられているからそう思うだけだろう。
ん?
「…なんで幻覚の魔法?」
独りごちる。この場所が神聖なものに見える様に態々そんな手間をかけたのだろうか?それとも、この違和感に気がつかせる為?
ルディリアは不思議に思い、石像へと近づき徐に太陽の像へ手を伸ばす。ひんやりとした石像の感触に首を傾げる。僅かにだが魔力が吸われている感覚があった為だ。
太陽の石像から手を離し、今度は月の石像に触れる。しかし、特に違和感はなく、魔力が吸われる感覚もしない。ということはやはり太陽の石像に何かありそうだ。
ルディリアは、再度太陽の石像へ近づく。全方位からその石像を観察すると、太陽の石像の裏の台座部分に赤く光る魔法石を見つけた。
「イクリス隊長!」
ルディリアの声で壁画を調べていたイクリスがこちらへやってくる。
「ありました。」
ルディリアが指さす先をみたイクリスは、その魔法石に手を伸ばす。魔法石をつまむと、力を入れずとも取り出すことが出来た。イクリスとルディリアは、それを見つめる。角の残る丸い魔石は、確かにあの窪みにぴたりと填まりそうな形をしていた。
「一度女神像の部屋へ戻ろう。」
「はい。」




