その娘、探索2
イクリスが部屋を出ると、ルディリアもそれに付いていく。
きっと獣の石像の部屋も像の近くに魔石があるのだろう。となれば、次に行くべきなのは女神像の後ろの道だろうとルディリアは考えた。そこさえ確認してしまえば、後は謎解きと捜索とで別れる事が出来る。それをする為には全ての部屋を確かめ安全かどうかを判断する必要がある。
ルディリアは二つの部屋にあった詩の内容を考え出す。
何を望むか、何を求めるか。これは自身への問いなのか、それとも答えがあるものなのか。
今まで調べてきたもののなかで当てはまりそうな事。
知恵を絞り、力を示す。思いが光の先現れん。
思いとは何か?知恵はそのまま知識だろうか?力とは、魔法?魔力だろうか。
では、思いとは何を指すのだろう?自身の思いに呼応するのか、決まった答えがあるのか。
悶々と考えるも点と点が繋がる気がしないと、小さくため息を付く。
「邪、知恵、力、思い、望み、求めるもの、光の先の叡智の扉…。」
ぶつぶつと独りごちるルディリアをみてイクリスは苦笑を零す。
「そう、考え込むな。まだ足りないものがあるかもしれない。」
そう言われて心の中で考えていた事が口に出ていたのだと知り、赤面する。しかし、辺りは篝火の明かりに照らされ同化しているだろうと少しだけ安堵した。
「ですが、少しでも早くここから出なくては…。」
「そう焦るな。こういう時こそ、落ち着いて考えるんだ。」
イクリスの足は止まることなく女神像の部屋を目指すが、身体や顔は半分ルディリアの方を向いており、表情が見える。そこから焦燥の感情は窺えず、とても落ち着いていた。声色も、表情も、いつもよりも落ち着いているように見えた。
それはルディリアを安心させる為か、彼が言うように「こういう時」だからなのかは、分からない。それでも、ルディリアは少しだけ冷静になれた。
「そう、ですよね。ありがとうございます。」
「いや、寧ろすまない。君に背負わせてばかりで。」
自傷めいたその言葉に、ルディリアは驚き彼を見上げる。
古代遺跡の調査に関する事はルディリアの本業ではないが、今回はそれを解析する為にここへ来ている。となれば、これはルディリアが任された仕事となる。それなのに、彼はそれを謝罪しているのだ。
戦闘が本業の特務隊長が遺跡の調査や魔法陣の解析など出来なくて当たり前なのに。普通の魔法陣ならばともかく、極秘として扱われている古代魔法陣なのだから分からなくて当然だ。それに、その他の所でとても助けられている。
「謝罪の必要はありません。ここに一人でないと言うだけでも、心強いというのに。イクリス隊長は私に様々な情報を共有してくれて、食生活まで面倒見て下さって。私が考えている事、やりたい事を推奨して下さいます。それがどんなに有り難いか。ですから、謝罪の必要はないんです。寧ろ、頑張れ、君なら出来るって応援して下さい。私は、その方がやる気出ますから。」
ルディリアは初めての魔物討伐の時の事を思い出していた。
あのとき、彼の言葉があったから最後まで頑張ることが出来た。「君なら問題ない」その確信めいた言葉は、ルディリアに自信をもたらした。そして勇気を振り絞ることが出来た。私なら大丈夫。だって、誰よりも強いあの人がそう言ってくれたから。そうやって踏ん張ったからこそ、思う。応援や信頼は、何よりも力になるのだと。
「…そうか。」
驚いた様な、虚を突かれた様な表情を見せたイクリスはクスリと笑うと、ルディリアへと声をかける。彼女の望みのままに。
「頑張ってくれ。ルディリア嬢ならば大丈夫だ。」
「はい、お任せ下さい。」
どうやら自分は、面倒事をも好む性格らしいと自覚した。そうでなければあの室長の面倒を見ることなんて出来ないだろうし、あの個性豊かな研究員達を纏めることもできないだろう。ここへきてようやく気がついた事に、内心苦笑する。
話しながら歩いていると、女神像の部屋にあっという間に付いた。警戒していると長く感じるこの道も実際はそんなに距離がないようだ。肩の力を抜いて、深呼吸する。
「さて、奥の部屋にいくか。」
「はい」
戦闘はないだろうが、あれば彼に任せればいい。私は、私にしか出来ない事をしなくては。
ルディリアとイクリスが奥の道へと歩き出す。その通路は大した長さもなく、あっという間に奥の部屋まで辿り着いた。部屋の手前で止まることなく、イクリスが進んでいく。それに続いてルディリアも部屋に足を踏み入れた。
部屋の中は螺旋状に石畳が引かれており、一段ずつ低くなっている。その中央に台座あった。その上には黄色に輝く魔石が置かれている。
壁には一面に聖障や聖画がはめられており、尖塔と柱を模した額縁が綺麗に並べられている。天井には、女神が色ガラスで綺麗に描かれていた。まるで聖堂の中の様に神秘的で神聖な場所の様だ。
「すごい…。」
今までのどの部屋よりも手が込んだ作りに、ルディリアは思わず感嘆の声を上げる。イクリスは辺りを見回すと、目の前の台座まで歩き、その魔石をつまみ上げる。そして、ルディリアのもとまで戻った。
その間、ルディリアは一つ一つの聖障や聖画をまじまじと眺めていた。そこにある絵は殆どが聖神女のものや神々のものだった。中には聖獣の姿を描いたものもあったが、ルディリアは目を輝かせながらそれらを見る。
イクリスは少し悩んだあと、ルディリアに「獣の像の部屋を探してくる。君はここを頼む。」と肩を叩くとそのまま部屋を出て行った。イクリスが立ち去った後も、ルディリアは暫くその場に立ちすくみただそれらを眺めて居たが、小さな違和感に気がつき辺りを見回す。
ここには自分しか居ないというのに、魔力を感じたのだ。その魔力が何処から発されており、何処へ流れているのかを確かめようと、部屋の中をぐるぐると回り始めた。何周かして、漸く発生場所を突き止めた。どうやら中央奥にある一番大きな聖神女の聖障から流れているらしい。
どこかに仕掛けがあるのか、とその聖障を調べる。すると、この聖障だけが外れる仕組みになっていた。流石に巨大な聖障をルディリア一人で持ち上げることは出来ない為、風魔法を駆使ししてゆっくりと持ち上げるとカチリと小さな音ともにその聖障が外れた。それを横へとそっと置く。視線を戻せば、目の前には膨大な量の石版が置かれていた。
「これ…。」
この量を今から読み解くのか、と思うと頬がひくつく。通常であれば瞳を輝かせ、喜んで取りかかっていただろう資料。しかしそれを見て苦笑が溢れるほど、今の状況は逼迫していた。
「大丈夫、焦る必要はない。…さらさらっと、読み解けばいいのよね。…うん。」
そんなに簡単にいかないと分かっていても「やるしかない」と意気込む。ルディリアは資料に手を伸ばすと、早速読み始めた。




