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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、特務隊長補佐になる
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その娘、困惑する


デイロス島へ上陸してから四日 ――聖神女祭せいしんじょさいまで残り三日。


ルディリア毎日のように古代遺跡へと足を運んでいたが、「時間が足りない。」と、次第にシーコス島へ戻るのを止め、デイロス島で過ごすようになっていた。


元々、ヒースロッド辺境伯地にある古代遺跡の研究をしている時も邸に戻らず遺跡に籠もっていた為、ルディリアとしてはいつもの事である。しかし、一ご令嬢であるルディリアが宿に戻らないことをイクリスは心配していた。だが、時間が足りない事も事実である為、良くないと思いつつもルディリアの好きなようにさせている状況だ。その為、ルディリアの栄養補給などはイクリスの仕事となっていた。態々本人が届けに来るのだ。「部下に任せれば良いのに。」と思うが、食事を取っている際に進捗を聞くことも目的の一つらしい。


ルディリアは入れる部屋の、全ての詩を解読していた。ここまでして漸く解読ができたと言っても良いかもしれない。しかし、その成果は大きい。四つの離島と、祭事についてルディリアは少しだけ理解を深めることができたのだ。


「あとは、魔方陣の解析だけど。全てを行っていたら間に合わない…。」


ルディリアは独りごちた。そしてそれを遠巻きにしながらも心配そうに眺める特務隊員達は、己の出来る仕事を熟しながら、どうにかルディリアに休息を取ってもらおうと注力していた。


一息入れようとルディリアが徐に立ち上がると、当たり前の様に泉へと向う。そこで身体を清める為だ。幾ら研究に熱中していたとしても貴族女性であるルディリアにとって毎日湯浴みをするのは当たり前のことだ。周りの目を気にしてという事もあるが、自身が気持ち悪くて仕方無いのである。


泉の近くにルディリアが姿を見せると、特務隊員は逃げるように泉から距離を取る。ここへ何をしに来ているか彼らも理解していたし、彼らもまた夜中には交代で水浴びをしているらしかった。ルディリアは申し訳ないと思いつつ、内心感謝しながら泉まで歩く。


泉に到着すると、いつもの様に魔法で泉の水をすくい上げ、そこへ火の魔法で温度を上げる。適温になったら、泉の側にある石造りの囲いの中へと流し入れる。マリアナの魔道具おふろの応用だ。そこに身を沈め一息つくのがルディリアの今の一番の楽しみだった。


最初泉へ足を運んだときに、この囲いを見つけて、もしやと水魔法で綺麗に汚れを落とすと、丁度良い深さであることに気がついた。もしかしたら昔の人もこうしていたのかもしれないとルディリアは思った。なぜなら、この囲いの脇には水が流れ出しても良いように水路のようなものが引かれていた為だ。もしかしたら以前は泉からこの囲いへ流す為の装置もあったかものかも知れないと思うと、ルディリアは思考が止まらなくなる。



ルディリアが身を清め、古代遺跡へと戻るとイクリスの姿があった。どうやら食事を持ってきてくれたらしい。ルディリアは調査内容をいつも通り報告する。


「二つの部屋の解読が終わりました。残すはあの石像のある部屋と魔方陣ですが、どちらから手を付けようか迷っていまして。」


「…君の見立てではあの石像が動き出すのだったか。」


「はい。止め方については何処にも記載がありませんでしたので、実力行使するしかないようです。」


あの部屋に入っても仕掛けが分からない場合は、あの石像を破壊しなければならないだろう。もしかすると、起動した後に何かしらの条件で止まる可能性はあるし、そもそも動き出さないかもしれない。なんと言っても古代の文明である。しかし、ルディリアは必ず起動すると踏んでいた。古代魔法陣にはそれだけの力と精密さがあるのだ。この遺跡だけが原型を留めた状態で建っているのがその証だろう。


「であれば、私も同行しよう。」


「それは有り難いのですが…もしかしたら別の部屋や空間へ強制転移させられることも考えられるので、どちらかは残った方が良いかと。」


ヒースロッド辺境伯地にある古代遺跡では魔法陣を起動させると地下のダンジョンの様な所へ強制転移させられる。戻る為にはそこの攻略が必要だ。短時間で戻ることは不可能だろう。そうすると指揮する者がいなくなってしまう。ルディリアとイクリス、どちらかは残るべきだと主張する。


「それならば尚更私も同行すべきだ。危険だろう。」


眉間に皺を寄せ、イクリスはそう言い放つ。ルディリアがどれだけ問題ないと言おうが、彼の意志が曲がることはないだろうと思いつつも、言葉を返してみる。


「私は幾つかそういう体験をしていますし、一人で立ち入ったりもしていたので問題はないかと思いますが、ここはヒースロッド辺境伯地とは少し違いますので多少の不安があることは認めます。」


イクリスの眉間にさらに皺が寄る。ここ数日共に時間をする中で気がついたことが二つある。彼は根っからの騎士なのだ。自身よりも力が劣っていようが勝っていようが、できる限りその身を盾に誰かを守る人物であり、とても心配性であるということだ。

だからこそルディリアの発言に対して思う所があるのだろう。貴族令嬢が一人でダンジョンに挑むなど危険すぎる、と思っていそうだ。実際危険ではあるのだが、ルディリアはそこら辺の騎士に負けないくらいには魔法の腕に自信がある。


「私も同行する。これは決定事項だ。それに、もうすぐユーグ達が戻る。こちらの指揮は問題ないだろう。」


「…分かりました。では、午後から中へ入りましょう。準備をお願いします。」


「分かった。」


ルディリアはイクリスに持ってきてもらった食事を取ったあと、仮眠を取ることにした。解析していたら、いつの間にか朝だったのだ。遺跡の中は日の光を殆ど通さない。その為、長時間この場に居続けると、時間感覚が狂ってくる。しかし、普通の人であれば空腹感や疲労から外へ出るので狂ってしまうことはないだろう。だが、ルディリアはそうではない。好きなことにはとことん時間を使って体力を使って、倒れるまで研究する人間である。


仮眠は遺跡の外に作られた、仮設テントでとる。ルディリアとしては遺跡内で寝ても良いのだが、そうすると他の隊員達が立ち入れなくなってしまう。だからこそ、渋々とそこへ向った。


仮設テントは大きなものが四つ、小さいテントが三つあった。大きなテントの二つは調査結果や、調査中の事柄の書類が大量に置かれており、イクリスが指示を行う際にも使用されていた。

残りの大きなテントの二つは、集団の荷物置きとして使用されている。小さなテントは騎士達の休息として二つが使用されており、その小さいテントに騎士達が交代で雑魚寝する。

そして、残る最後の小さいテントはルディリア用として設置された。一応赤ローブのルディリアは特別対応らしい。本来ならば宿場へ戻り休む筈が、この島に居着くようになってしまったため、急遽用意された。



__


三時間ほど仮眠をとったルディリアは、大きな仮説テントへ足を運ぶ前に、再び泉へとやってきた。寝ぼけた頭を起こす為でもあるが、それとは別に目的があった。



キラキラと美しく水面が日の光を反射する。

太陽の熱に晒され水面から靄が立っているのはそれだけ泉の水が冷たいからだろう。ルディリアは泉の中に一つの細長い容器を静めると水を汲む。この容器は魔法具の一つであり、ルディリアが即席で作製したものだ。


遺跡内の調査をしていてこの水が聖水であることを知った。大昔、女神が自身の子を清める為に作ったのだと遺跡の壁に記されていた。そして人が扱うときにはとある方法で汲み上げなければその効力は発揮されないらしい。

本来は、各部屋に一つずつ聖水を汲み上げる為の聖杯が設置されていたようだが、何処にも見当たらなかった。この島に住んでいた当時の人間が持ち去ったのか、今もどこかで使われているのかは分からないが、見当たらないことには仕方がない。だから、ルディリアは聖杯について調べ、そこに記されていた筈の魔法陣を見つけた。それを、持ってきた筒の内部に魔法で彫り込み作成した簡易の聖杯である。


泉の水は普通に汲めば、ただの透明な水。しかし、ルディリアが作製した筒に入った水は泉と同様にキラキラと輝き、靄が立っていた。成功とともに、どうやらこの泉の靄は日の光や温度に関係無いらしいことが、汲み上げて初めて分かった。


ルディリアは満足げに頷くと、筒を仕舞い泉に手を入れて今度は顔を洗う。冷たい水が心地よく、頭が冴えていくのがよく分かる。風魔法を駆使して顔の水気を飛ばすと、イクリスの待つテントへと向うことにした。



「…そうか…そ…助か…。…あぁ…、…だ…」


ルディリアがテントの前に立つと何やら話し声が漏れ聞こえる。中には数名の手練れがいる事も気配から感じ取れた。誰だろうと思いつつ静かにテントの中へ入る。


そこに居たのはイクリス、ユーグ、ローベル、アメディオ、ベランジ、エーバハルトの六名だった。

驚きつつ、入り口で立ちすくんでいると、イクリスの視線がルディリアへと向く。それに気がついた五人もまたルディリアの方へ振り返った。


「お疲れ様です。」


ルディリアが声をかけると、五名は騎士の敬礼と共に頭を下げた。イクリスはこちらへ来いと、手招いている。それに従いイクリスの隣へ行くと彼らが持ってきた調査書類に目が留る。それをイクリスが手渡し読むように促した。

書類に目を通しつつ、再開した彼らの報告を聞く。


「ユーグ、報告を。」


「はい、まずディース島についてですが、聖堂の他にめぼしい物は見つかりませんでしたが、聖神女祭について少し詳しく調べることは出来ました。聖神女祭とは聖神女の永眠を祝福する祭りのようです。天から来たとされる神女が天へと帰る事が出来た事を祝い人々が魔石を通じて天にいる神女へ魔力を捧げるのだそうです。魔力の扱えない者や魔力を持たない者でも参加することができるらしいです。そして魔石が光り輝くと、その土地が僅かに揺れるのだそうです。それも神のみ業だと信仰者たちが熱く語ってくれました。」


「…永眠を祝福か。死んで天に昇るというのはよく聞くお伽噺だろう?しかし、天から来た神女か…。ルディリア嬢が言っていたアンナの子供が死んだ日が十一月の十五日ということか。」


「ええ、そう考えられます。そして祭壇には輝く聖杯が飾られているのだとか。」


エーバハルトの言葉に、ルディリアは書類へと落としていた顔を上げる。それに気がついたイクリスが首を傾げ「どうした?」とつぶやくもルディリアはじっとエーバハルトを見つめた。


「…聖杯。」


戸惑うエーバハルトは「えぇ。」と小さく返事をするも、どうすれば良いのか分からずイクリスへと視線を流す。そして彼もまた、訳が分からずルディリアを見ている。


「その聖杯とは、金色に輝くゴブレットのことでしょうか?」


エーバハルトの目が見開かれ、彼の口から「はい…。」という言葉だけがこぼれ落ちた。そこでルディリアは仕舞っていた筒をイクリスの目の前のテーブルへコトリと小さな音を立てて置いた。


「これは?」


「聖杯擬きです。」


ルディリアの言葉に皆が不思議そうにその筒を見つめる。「開けてみて下さい。」とイクリスへ言うと、彼は躊躇なくその蓋を回して開ける。すると、もわりと靄が立ち、その下から輝く水が姿を現す。


「これは、泉の。」


どうやったんだ?とこちらを見るイクリスにルディリアは自身のメモを見せる。


「この魔法陣を筒の内部に刻みました。これは保存の効果のある古代魔法陣です。」


古代魔法陣。それは、今は失われてしまった魔法陣を指す言葉である。大昔から、今現在も使われている魔法陣は、殆どが改良され“簡易魔法陣”と別称がついている。改良されていない数少ない魔法陣は“神級魔法陣”といわれる。それは普通の者では扱いが扱えない程、難易度の高い魔法陣である。そして、プライダル王国ではそれらの魔法陣の行使を厳重に管理している。違反すれば重い罰が下される。しかし、それらはルディリアには当てはまらない。王太子であるエルスベルトとその弟のエルジェードの両名から許可を得ている為だ。


「古代魔法陣を、刻んだ…?」


ルディリアの言葉に驚きが隠せないのは、つい言葉が溢れてしまったエーバハルトだけではない。その場に居たルディリア以外の者は驚愕していた。

古代魔法陣を読み解くだけでなく、数日で扱えるようになるものは極めて希である。この世界の何処を探しても見つからないかもしれない。そんな人物が目の前でさも当たり前の様に、自分で作ったと言っている。騎士隊でもよく見かける既製品の筒の内部に刻み込んだと。刻んだ方法は魔法であることは理解出来るし、きっと彼らもそうするだろう。しかし、古代魔法陣は緻密であり繊細な作りだ。それを魔法で刻むなど常人ではない。どれだけ魔力操作、魔法操作に長けていようとも出来る事ではないというのが一般常識である。


暫く、止まっていた思考を最初に稼働させたイクリスが、「そうか、それで?」と続きを促す。ルディリアは全員が固まってしまった状況に困惑しながらも、それにどうにか答える。


「あ…えっと。これは、というか。あの泉は聖水なんです。そして、この魔法陣が刻まれた杯だけが聖水の効果を保存出来ると書かれていました。また、聖水の使い方は様々あるようですが、大きく分けると二つですね。浄化と祈り。後者については私もまだ詳しくは分かりませんが、とある特定の場所、特定の日時に聖杯に聖水を置き祈ることで力を発揮する…みたいですね。」


「ふむ、それが祭壇か?」


「分かりません。」


あの祭壇には聖杯らしきものはおいていなかったし、置く場所すらないように見えた。ただ魔石だけがそこにあったのだ。だから、聖神女祭の時にだけ使われているのかもしれない。しかし、だとしたら可笑しい。聖杯は四つあった筈なのだ。遺跡内の部屋の全てに供えてあった筈なのに、それがディース島の聖堂にしかないとは考え難い。


「聖杯は全部で四つあるはずです。」


「四つ。あと三つはどこにあるか…いや、考えなくとも一つはあそこだろうな。」


「リール村、ですか。」


イクリスの言葉に、ユーグが眉間に皺を寄せながら答える。あるとすれば村の中央にあった祭壇ではない。もしかしたら、あそここそ祭壇なのかもしれない。


「村の外れにあった、建物こそ本命だったかもしれないな。」


ベランジが零した言葉に、ローベルとエーバハルトがハッとする。彼らもまたルディリアとともに村外れにあるあの建物を見たからこそ思い当たることがあったのだろう。


「シーコス島にも同じ様な祭壇を見つけました。」


緊張した面持ちでエーバハルトと、それに頷くローベルを見て確信する。やはりデイロス島を囲む三つの島のそれぞれに聖杯があり、デイロス島にあった聖杯はリール村の者達が村に持ち帰ったのだろう。イクリスは言っていた、泉の輝きはルディリアの浄化の魔法と酷似していたと。そして、遺跡の中でも、魔を祓うと記載されていた。


「リール村の近くや、シロスの街の近くに、どうして魔物が出ないのか。…毎年、聖水を使って土地を浄化しているのでしょう。」


「だろうな。しかし、それはいつでも行えそうな話しではないか?」


そう、浄化については場所や日時の指定はない。どうして、その日に行われているのか。ルディリアは悩んだ結果、こう告げた。


「多分、知らないのだと思います。ただ、毎年ディース島の聖堂で祭りと際して聖杯が飾られる。そして多くの人が祝福する。だから、その日に合わせているだけだと思います。いつの間にか、それが当たり前になりいつしかその日に行わなければならない儀式のようになった。」


「なるほどな。そう考えればしっくりくる。となれば、エルムポース島にあると予測される聖杯を探さねばならないな。」


「はい。」とルディリアが頷くと、ユーグが報告を再開する。


「あとはリール村の事ですが、数名が毎日ディース島へ渡っています。デイロス島へ来るのも時間の問題でしょう。その儀式を三日後に行うとすると、今日明日にこちらへ来ても可笑しくはありませんね。」


「いえ、それは無いかと。」


ユーグの言葉をルディリアは否定する。数日前から用意しても良いと考えているならば、彼らは毎年同じ日付でデイロス島に渡っていないはずだ。数日前から用意した方が、確実に儀式が行えるのだから。それでも、天候を気にしつつ強引にその日に渡っていたのであれば、彼らは今年もそうするはずだ。


「必ず、当日にやってきます。それまでは警戒を強めるだけで良いかと思います。」


「分かった。そうしよう。ユーグ、ベランジ、指揮はお前達に任せる。私とルディリア嬢はこの後遺跡の調査のため一時的に外れる可能性がある。」


ルディリアを信じ、その案を受け入れたイクリスもまた、同じように考えていたのかもしれない。航海日誌の話しは彼にしかしていない。


「一時的に外れる可能性…とは?」


怪訝な表情でユーグがイクリスへ問う。こんな状況下で何処へ行くつもりなのか、というのは確かに正しい疑問である。しかし、ルディリアはその場所こそ今回の謎を解く鍵であると考えている。


「遺跡の奥に像の置かれた部屋が二つある。ルディリア嬢の予測では、そこへ入ればダンジョンに飛ばされるだろうとの事だ。」


「すぐにでも調べた方がいいとお考えなのですね。」


納得するユーグとは対照的に、ベランジが声を荒げる。


「…もしや、お二人で入られるおつもりか!」


危険だと言いたいのだろう。しかし、だからこその少数精鋭である。その二人が指揮官であることを除けば当然の人選だろう。


「心配か?」


フッと笑うイクリスに、ベランジは言葉が詰まる。誰が見てもこの場にいる中で一番強いのはイクリスだ。そして魔法に特化しており、古代魔法について誰より詳しいのは言わずもがなルディリアである。その二人以外に選択肢があるだろうか。

ベランジは眉間に皺を寄せながら「いいえ」と小さく答えた。


それから暫く情報共有を行うと、イクリスが指示を出す。そうして準備の整ったルディリア達は全員で遺跡内部へと向った。


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