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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、特務隊長補佐になる
33/67

その娘、情報収集

予定通り、ルディリアは10日後である今日、デイロス島へと渡るため波止場のある村まで来ていた。

村の外は見渡す限りの海と草原。少し遠くに森のような影は見えるが実際はかなり遠くにあることが窺える。イクリスは海の向こう側を指さし、特務隊員へと確認を取っている。どうやらこの先に目的地があるらしい。


「そうか、分かった。では明日朝から向う。それまでは各自情報収集に努めること。以上だ。」


特殊隊員達は、敬礼と共に周辺の村や町へと散らばっていく。それを見届けると、ルディリアはどうしようかと持ってきていた地図に目を落とした。

ルディリアとしては数カ所回っておきたい場所があったが今は「特殊隊 隊長補佐」としてこの場に来ているため、勝手に行動するわけにもいかない。どちらにしても判断を仰ぐほか無いだろうとイクリスを見上げると、丁度彼と目が合った。じっとこちらを見ているイクリスにどう声を掛けるべきかと悩んでいたが、彼がこちらへ歩を進める。


「どうした?」


「…本日のご予定はお決まりでしょうか?」


「まずここへ行く。」


ルディリアの持っていた地図に記載されている、大きめの街を指さした。海からは少しばかり離れた位置にあるが、この辺りで一番大きな街であり、一番波止場に近い街なため、本日の拠点とする予定なのだろう。


「シロスの街ですか。分かりました。」


ルディリアとイクリスはここまで乗ってきた魔馬車へ乗り込む。数人の特務隊員は来た時と同様に魔馬車の周りを囲うように魔馬で併走する。


魔馬は「ポクシラージ」という普通の馬よりも大きな身体に大きな翼を持つ生き物である。魔物に近い性質を持っている生き物な為、保有魔力も高く長時間の飛行も可能である。しかし、それにもかかわらず地上を駆ける生き物の中で一番の早さを誇るという生き物だ。魔馬は比較的大人しく、人懐っこい性格の個体が多い為、騎士団では重宝していた。そして、魔法を付与させた馬車は通常よりも耐久性や安定性、乗り心地を追求した作りとなっており、魔馬が引いても安心して乗ることの出来る設計となっている。



海岸から数時間、目的地であるシロスの街へと到着した。

ここではやはり海が近いということもあり海産物が特産なようだ。市場は野菜や肉類だけでなく魚や貝、海藻も多くの種類が並んでいた。街の人々からは活気が見られ、ここが如何に賑わっているかが窺える。


「すごい賑わいですね。王都並みです。」


「あぁ、そうだな。この辺りは王都からは遠いというのに平和そのものだ。」


王都から遠いということは、それだけ魔物の被害が大きくなりやすい事を指す。騎士団の派遣が遅れてしまうからだ。だが、この街は平和そのもの。近くに海があるため魔物がやってこないのだろうか?と考えるも、ルディリアは本日の宿探し問題を先に片付ける事にした。


「イクリス特殊隊長、あちらは如何でしょうか?」


比較的綺麗で、大きな宿場を指さす。それを見てイクリスも「あぁ」と頷くと歩を進めた。

中へ入ると、見た目通り綺麗な宿で、部屋が開いているか少しばかり心配になった。受付で開いている部屋があるか尋ねると、三部屋開いているという。そこでルディリアとイクリスは一部屋ずつ借りることにした。共に来ていた数名の特務隊員達は他の宿に泊まるらしい。


そうして、宿が確保できたことで今日の情報収集に専念する事が出来る様になった。

イクリスとルディリアは17時まで情報収集を行い、夕食を食べがてらそれらを共有することを決めて別々の道へと歩き出す。



「さて、まずはここに住んでいる人から聞いてみるべきよね。となると、一番情報が集まりそうなのは三カ所かな…。」


ルディリアは一カ所目であり一番近い、市場へと足を運んだ。

この街へ来た時も思っていたがとても大きな市場である。活気があり、人の通行量も多い。そういった場所には噂話も飛び交うものだろうと当たりを付けたのだ。昼食を取りがてら、お店の人に話を聞いてまわる。


「おじさん、これ一つくださいな。」


「あいよ、お嬢ちゃん見かけない顔だな?」


「えぇ、発見された遺跡の調査で来たのだけど、おじさん知ってる?」


店主はルディリアが頼んだ肉刺しを焼きながら、頭を悩ませている。どうやら知らないようだ。焼き上がった肉をルディリアへと渡すと、申し訳なさそうに謝る。


「すまねぇ、そういうのは疎くてな。そういうことなら、波止場のアンリスって爺さんのほうが詳しいかもな。」


「アンリスさん…そっか、ありがとう!」


ルディリアは頭を下げると、その場を後にする。「女神様みたいに綺麗な子だったな…。」ぽつりとこぼした店主の声はルディリアには届かず、また次の店へと向った。


数件市場を回ったルディリアだったが、得られた情報は波止場の「アンリス」という人物の名前とその人の情報だけだった。そのため、波止場へ向う途中にある魚市場へ行くことにした。そしてここがルディリアが最初に思い浮かんだ二カ所目である。


港町であるシロスの街は、やはりというべきか普通の市場よりも魚市場の方が賑わっていた。ルディリアはまたもや「美味しいものを食べるぞ」と意気込みながら情報収集にあたる。


「おねーさん、これこの場で調理とかできます?」


ルディリアは鮮度が高そうな一匹の生魚を指さすと店先にいる女性へと声をかけた。近くからは魚の焼ける良い香りが漂っている。もしやこれも焼いて出してくれるのではないかと期待を込めて尋ねた。


「えぇ、奥で調理したものを出せるわ、買っていく?」


「はい!ではこれ、一つお願いします!」


「はい、まいど!ちょっと待っててね。」


どうやらルディリアの思惑通り、生きの良い魚をその場で調理して提供してくれるらしい。緩みそうになる頬を引き締めて、魚が焼き上がるまでにとルディリアは情報収集も忘れずに行う。


「あ、それなら少しだけ伺いたいことがあるのですが、ここら辺で発見された遺跡の話し、知ってます?」


「あぁ、デイロス島の遺跡の話し?あなたもそういうのに興味あるの?」


「はい、そういうの大好きなんですよ。でも危ないからって近づけないので情報だけでもないかなーと。」


少し悲しげに声色を変えて尋ねれば、その女性も「なる程ね」と理解を示してくれた。警戒されても困るので、適当に作り話を混ぜながら会話をする。それは辺境地で学んだことだ。


ヒースロッド辺境伯領では古代遺跡が近くにある為か、領民はみな警戒心が高い気質がある。その為彼らと打ち解ける為にいつの間にかこのような社交術が身についていたのだ。貴族よりもルディリアにとっては平民である彼らとの方がよっぽど打ち解けやすかった。


「そうね、余り詳しい事は知らないけど、見つけたのはリール村の子供って話しよ?どうやってそこまで行ったのかは分からないけど、凄いわよね。」


「へぇ、でも島渡りって結構大変と聞きましたが、子供でも行けるものなんですか?」


「あーあの人じゃないかしら、波止場のアンリスさん。」


新しい情報に、小さく眉を寄せたルディリアは気付かれないようにすぐに表情を戻す。

そのアンリスさんという人物は子供が好きなのか世話好きなのか。他の人からは頑固だとか気難しい性格なんて話しも聞いていた為、ルディリアは少し戸惑った。


「あーその方のお名前、さっき市場でも聞きましたよ。そういうことに詳しいとか?」


「詳しいっていうより、船を出すときは必ず彼の所に行かなきゃいけないから情報が集まりやすいのよ。」


「…なる程。アンリスさんってどんな方なんです?」


「そうね、山菜が好きらしいわよ?」


苦笑しながらも、ルディリアの頼んだ蒲焼きを手渡すと「気を付けてね」と手を振ってくれた。頭を小さく下げて「ありがとう」と返すと、ルディリアはまた数件の店を回った。


いくつか回った所でお腹がいっぱいになったルディリアは食べ歩きを止め、波止場へと向うことにした。

本当は、三つ目に思い浮かんでいた飲み屋へと行こうと考えていたのだが、もう何も入りそうに無い。その為夕食を期待して、波止場へと向うことにしたのだ。



預けていた魔馬に乗り、シロスの街から出て真っ直ぐに海へ魔馬を進めると、思った寄りも近い位置に波止場があった。波止場には大きめな建物があり、その近くにはたくさんの船が止まっている。中には魔船などもあり、明日もここから出港するのだろうことが窺えた。魔馬を建物の前へと止めると一撫でしてから建物の中へと入る。


「こんにちは」


ルディリアがひょっこり顔を出すと、そこには数人の船乗り達が受付前に備え付けられているテーブルで談笑をしており、年老いた男性が受付台の奥に座っていた。


「なんの用だ。」


受付台の奥に座っていた男性が面倒そうにルディリアへと話しかける。街の人々から聞いた情報を元にすると彼が波止場のアンリスで間違いなさそうだ。


「もしや貴方が波止場のアンリスさんでしょうか?」


「さぁな。」


ふいっと顔を背けるあたり、聞いてはいたがやはり気難しい性格のようだ。ルディリアは顔を窓へと向けると、海を指さす。


「明日出る者なのですが、海の様子が知りたくてきました。明日は無事出向できますか?」


「あぁ、あんた王都の。」


騎士服やローブは部屋に置いてきた為、見た目では分からないだろう。しかし、明日船で島を渡ると言えばすぐに気がつかれる。それも理解した上での発言だった。この人に嘘や当たり障りのない話しなんてするだけ無駄だと一目見て理解していた。


「えぇ。私、魔法が好きなので遺跡調査が楽しみなんですよ。」


「ハッ、お嬢ちゃんみたいなのが調査?怪我する前に帰りな。」


「あ、私の事か弱い女の子と思ってます?じゃあ少しお見せしましょうか?」


ふんっと鼻で笑うアンリスに、むすりと唇を突き出すと、ルディリアは薄汚れて埃のたまった室内を見回した。腕を突き出すと魔力を込めて魔法を発動させる。発動させた魔法で部屋の埃を吹き飛ばし、水の魔法で部屋中をピカピカに洗い流す。そうして温風で乾燥させると、またアンリスへと向き直る。ドヤ顔で「ほらね?」と小さく口角を上げて見せると、アンリスではなく船乗り達が歓喜の声をあげる。


「おおー!すげーぜ、姉ちゃん!」


「姉ちゃん、そんだけの魔法が使えるんなら、ぎっくり腰とか治せねぇの?」


「それは無理だろう」とガハハと笑い合う彼らに、顔を向けた。事がルディリアの思惑通りに進んでいることにほっとしつつ、腰をさする男の元へと近づいた。


「出来ますよ。後ろ向いて下さい。」


彼は半信半疑といった表情を向けるが、ルディリアがこてりと首を倒すと、素直に背中を向けた。男の背に触れると、治癒魔法を掛ける。肩から背中を通り腰と足までの筋肉を解し治癒魔法を施す。腰が悪いからと腰だけを治すなんてルディリアにとってあり得ないことだ。原因となる箇所とそれに連なる箇所まで治してこそ意味のある魔法だと考えている。


「――どうです?」


男は胸を反ったり、座ったり立ったりと、腰に負担がかかるような姿勢を何度も試すと笑顔が深くなる。


「―――治った…。ぎっくり腰が、治っちまった!腰だけじゃねぇよ、身体が軽くて、嘘みたいだ。」


その男の声でまた室内が賑わう。それをみて、ルディリアはアンリスへと向き直る。


「ね?魔法、得意なの分かって貰えました?」


アンリスは大きなため息を付くと、「分かったよ」と窓へと向った。どうやら海の様子を確認してくれるらしい。彼が窓を開けると潮風が吹き込んできた。海辺特有の湿った空気が肌に纏わり付き、髪が頬へ張り付く。


「ふむ、風は強そうだが問題ないだろう。」


「よかったー!でも、デイロス島へ行くには、明日ディース島へ行ってその次の日にシーコス島からデイロス島へ行くんでしたよね。と言うことは、明日が晴れていてもその次の日の天候によってはやっぱり調査出来なくなっちゃうのかしら?」


小さく小首を傾げてみせると、鋭い視線をルディリアに向けながら、ハッと呆れた様に笑う。


「大丈夫だ、問題なくたどり着けるだろうよ。」


「それは良かった!あ、これアンリスさんがお好きだって聞いて買ってきたんです。」


事前に調べていた彼の趣向の品を袋ごとアンリスに渡す。彼は眉をひそめながら「なんだ?」と中を見るなり目を輝かせた。


「これ、どうやって…。」


「丁度、騎士の一人が持っていたので分けてもらいました。ここら辺では珍しいでしょう?それ。」


こてりと首を傾げてみせると、船乗りたちが寄ってくる。どうやら彼らは中身が気になるようだ。


「アンリスさん、何もらったんだ?」


一人の男が尋ねると、アンリスは嫌そうにしながらもそれを袋からだして見せる。彼が手にしていたのは「トリュフ」である。ここら辺では取れない高級なキノコ。袋にはまだまだ入っている。冬の山菜、山わさびやセリなどは山のないこの辺りでは滅多に手に入らない代物だろう。王都では何処ででも手に入るようなものが、ここではお宝だ。


「それなんだ?」


「トリュフじゃ、馬鹿者!高級食材も知らんのか!」


「へぇ、美味いのか?」


「お前らのような価値の分からん者に食わすようなもんじゃない。」


ギロリと睨め付けると、船乗りたちは苦笑する。「わかった、わかった」と興味を失った彼らはまたテーブルへと戻って行く。


「ねぇ、アンリスさん。アンリスさんは遺跡について何か知っているんじゃないですか?」


ルディリアが尋ねると、アンリスは黙ったままじっとルディリアを見つめた。何かを考えている様にも見えて、ルディリアはそのまま彼の言葉を待つことにした。


「――奥へ、こい。」


ルディリアがちらりと船乗りたちを見ると、彼らは「ここは任せて良い」と言わんばかりに笑ってくれた。それに安堵し、アンリスについて受付の奥の小部屋へと足を踏み入れた。


中は狭く、小さなテーブルとソファが中央においてある。部屋の隅にはたくさんの本棚が並べられ圧迫感がある。アンリスはルディリアにソファへと座るよう言うと、本棚を漁りはじめた。


暫くすると、アンリスが一冊の古いファイルを持ってくる。そしてそれをルディリアへと手渡した。何も言わないアンリスにルディリアは戸惑いつつもそれを受け取り、ぺらぺらとめくる。


「――航海日誌。」


「あぁ、30年前からのものだ。」


中にはディース島、シーコス島、デイロス島、エルムポース島の事が書かれていた。彼らはこの頃からあそこに遺跡があることを知っていたらしい。しかし、それを隠してきたのは何故か。最近になって、危険地帯になったからか?それとも何か事故でも起ったのか?ルディリアはそう考えながら日誌を読んでいく。そこで引っかかったのが、毎年特定の時期にリール村の人間がデイロス島まで渡っているという事実だった。


「――10日後。」


「あぁ、あと10日後にまたあいつらはあの島へと渡る。理由は分からんがな。」


毎年11月の15日にリール村の人間が数人、デイロス島へと渡っていた。


「なぜ、遺跡を公表したのでしょう?」


「さぁな。だが、去年何かが起きた。そうとしか思えんだろう。」


去年、いったい何が起きたのか。島渡りした人数が変わった訳でも、事故が起きたという内容も記録には無かった。勿論書かれていないだけということも考えられるが、そうではない何かが起きてしまったのではないかと、ルディリアの胸がざわつく。


「今年も、来るでしょうか?」


「あぁ、来るだろうな。」


「――では、知らなければなりませんね。」


じっとアンリスの灰色の瞳がルディリアを見つめる。ルディリアへ教えたこの情報はもしかしたら彼らの平穏を壊すきっかけとなるかもしれない。王都の人間であるルディリアへ伝えるというのはかなりのリスクを伴うことだ。それでもきっと、アンリスは自分を信じてこの情報を渡してくれたのだろうと思うと嬉しさと同時に強い責任感を意識した。


「私は、これでも騎士ですから、守ります。その為に情報が必要なんです。」


ルディリアは、小さく微笑んだ。不安に揺れる彼の瞳を見て、どうにか安心させたいという一心だった。幼い頃からの家族との約束ではあるが、それでもルディリアはそうしてみせたのだ。彼の思いを汲み取って、ルディリアは強い眼差しを向ける。アンリスは少しだけ驚いた表情を見せるが、すぐに小さく目元を緩めた。


これ以上は何も出ないだろうと、ルディリアが「戻りましょうか」と提案すると、アンリスはすんなり頷いた。受付のロビーへと戻ると船乗り達の視線がこちらを向く。


「姉ちゃん大丈夫だったかー?アンリスさん怖ぇからなぁ。」


ケラケラと笑いながら話す彼らを見て肩の力が良い具合に抜ける。ルディリアは困った様に言う。口角を少しだけ上げて。


「大丈夫ですよ。私はもっと怖い方を知っていますから。城にいる方達はお堅いだけで無く、悪知恵の働く方ばかりで参ってしまいます。」


「もしや、姉ちゃんってお貴族様なのかい?」


「この立ち居振る舞いと綺麗な顔立ちを見ればすぐに分かるだろう!そんなことも分からないからお前達はダメだと言うんだ!明日は気軽に話しかけるなよ?嬢ちゃんに迷惑かけるようなことはするな!」


「ありゃ~、アンリスさんもう姉ちゃんに首ったけだねぇ。」


「何馬鹿なことぬかしてんだ!」と怒るアンリスさんをみて、船乗り達は楽しげに笑う。この笑顔を守らなければと、ルディリアは強く思った。


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