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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、魔導師になる
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その娘、お泊まり


「ルディリアちゃん、これも美味しいでしょう?私ミルクティにした方が好きなのよね。」


「はい、とっても美味しいですね」


食前に飲んでいたローズティにミルクとたっぷりのお砂糖を入れて飲んでいるソフィアに尊敬の眼差しを向けていた。


彼女もまた夕食を平らげていたはずだ。それなのにも関わらず、食後にもこうして甘いお茶を口している。彼女の華奢な身体をみて、口にしたものは何処へ消えてしまっているのかと不思議に眺める。


「毎日、こうして食後にお茶を飲まれるのですか?」


「そうねぇ。毎日ではないけど頻度は高いかしら?」


にこりと笑うソフィアはやはり、体重が気にならないようだ。羨ましい限りである。


隣ではサウスライドとクラウストが会話をしていた。どうやら難しい話しをしているようだ。議会で提示された内容に不審があるとか、審問では得られなかった情報が手に入ったなど、自身が聞いても良いのかと狼狽えてしまう。


「そういえばルディリアちゃんは、月末のパーティはどうするの?」


「パーティですか?」


「ええ、王宮の夜会があるでしょう?勿論参加するわよね?」


ソフィアが何を考えているのか予想がつくルディリアはそっと目をそらした。どうにもそういったことに関心が持てず、苦手意識まである。


王宮の夜会とは貴族の社交場として多くの情報を得る為の場所である。しかしもう一つ、婚約者を探す場でもあるため未婚の貴族が集う場でもあった。

華やかなドレスに身を包み、綺麗な宝石で身を飾る。そんな場所へ好んで足を運ぶような性格でないルディリアにとっては避けたい話しだった。


「私は、仕事もありますので」


実際本当に遅くまで仕事をする事があるため、嘘では無いがそれを言い訳になんとかその場を凌ごうとするも、目敏いサウスライドが口を挟んだ。


「おや?別に仕事は構わないよ?ルディリアもいい歳なのだから婚約者候補の1人や2人捜してこなければならないだろう?」


「そうよ、ルディリアちゃんならすぐにいい人が見つかるわ!」


「い、いえ、私はそういうことには…」


「エスコート役がいないということであればクラウストに任せればいい。構わないだろう?」


サウスライドの言葉に、ルディリアは首を傾げる。


彼をエスコート役とすると余計に相手が見つからないのではないだろうか?

そもそも必要としていなから別に問題はないのだが、その矛盾が引っかかる。


これは、またなにか企んでいるな。と瞬時に悟ったルディリアは「必要ありませんよ」と返しておく。

本当に彼にエスコートなんてされたらそれこそご令嬢方から目の敵にされかねない。そうでなくとも最近は行動を共にする事も屡々ある。そこから妙な噂話がたっていることはルディリアの耳にも入っていた。これ以上は困るためここは頑としてでも断っておかなければならない。


「おや?クラウストでは不満かい?」


「そうではありません。私が隣にいてはご迷惑をお掛けしかねませんから。」


「そんな事はないだろう?クラウスト。」


サウスライドが論点をずらそうとしていることにも気がついたルディリアは、そうはさせるかと食らいつく。こういう所で引いていてはいつまで経ってもこの人に勝てない。


そんな2人のやりとりを見て、クラウストはため息を付く。


「私がエスコートするのは構いませんが、それでは彼女が夜会へ行く意味がなくなるのではありませんか?そもそも彼女はパーティへ出席する予定もない様子ではありませんか。兄上の考えには賛成しかねます。」


夕食の時とは違い、クラウストは自身の意見を言い放つ。そこでやはり自分の考えは間違ってはいなかったとルディリアは目を細めてサウスライドを見遣る。


「はぁ…全く素直じゃない子達だ。まぁ、私はどちらでも構わないが、パーティには参加しておいた方が良いと思うよ?」


「なぜですか?」


「それを考えるのは君の仕事だよ?ルディリア。」


やれやれとルディリアとクラウストを見るサウスライドは、少しばかりつまらなそうに見えた。やはり何かを企んでいたらしい。しかし、ルディリアはサウスライドの言葉の意味が掴めずにいた。


「ルディリア嬢は少しでも早く婚約者を決めなければ、王太子殿下、もしくは第二王子殿下の婚約者候補とされてしまう可能性があるため、兄上は参加した方がいいと仰っているのだろう。しかし、それは君が決めることだ。それらの回避方法は他にも幾つかある。」


なる程と、ルディリアは関心すると共にまた彼らの優しさに触れたような気がした。しかし、確かに式典前にも王族が地盤固めの為に動くかもしれないなんて話しを聞いていたルディリアは腑に落ちた。


王族からの要請を断るのは至難の業だ。不敬とも取られかねないそれはもはや命令に近い。しかし、それを回避する方法はいくらでもあるとクラウストは言い切ったのだ。その方法とやらを教えてくれるつもりはないようだが、それもまた自身の成長を促す為だろうと、ルディリアは考えた。


「クラウスト、お前もそろそろ婚約者が必要だと分かっているね?」


「結婚することが義務と言うことは理解していますが、現状必要だとは考えておりません。私は公爵家の当主となるわけでもありませんし、公爵家として縁組みを行いたい家柄がありますか?」


「根本的なところで間違っているよ。今はまだいいだろう。お前は令嬢方に人気がある。しかし数年後にはどうだ?近い年頃の令嬢はみな結婚してしまい相手なんていなくなってしまうよ?」


クラウストであればどれだけ年が離れていても彼と共にありたいと考えるご令嬢はこれからも増えそうな気はするが、ルディリアはそれを口にはしなかった。

ここで口を挟めば、今度は自身が標的になる事は目に見えているのだから。


クラウストはうんざりとした表情でサウスライドを見ている。彼には兄の考えが手に取るように分かるのだろう。付き合いが長いせいか、それとも同じ様な教育下にあったためか、この2人は考え方が似ているだけでなく、人の心を読むことにも長けているのだ。


「そもそも、お前はイリスト伯の当主となったのではなかったかい?それならばやはり、早い内に結婚し子をもうけなければならないだろう?」


兄というよりもはや父親のような発言である。

まだまだ自由にしていたいクラウストにとってそれは面倒以上のなにものでもない。


「それでは私はイリスト伯としての仕事に精を出すとしましょう。今後はアルンベルン公爵家の仕事は全て兄上に任せ、私は自身のやるべき事と向き合いましょう。その上で必要があればすぐにでも婚約者を作ると誓います。」


無表情である。これまでルディリアが彼と共に仕事を行ってきたが、その中で見てきたどの表情よりも怖いと思った。クラウストは本気で結婚すること、婚約者をつくる事すらも嫌がっているらしい。


「あらあら…」


困り顔を初めに作ったのはソフィアだった。サウスライドは、笑んだまま固まっている。それを見てルディリアは理解した。書類仕事が苦手なサウスライドには研究室の仕事だけではなく、次期公爵としての仕事も多いだろう。しかし、そんな量の仕事を今までどうしていたのか。


クラウストがそれを支える立場として暗躍していたのは言うまでもない。彼はきっと半分以上書類仕事を担っていたのだろう。


「…うん、そうか。ではそれでも良いよ?」


暫く固まっていたサウスライドは口角をゆるりと持ち上げた。そしてクラウストへと向けていた視線を今度はルディリアへと向ける。

嫌な予感のしたルディリアは両手で耳を塞いだ。何かここからの話しは聞いてはいけない気がしたのだ。


サウスライドは小さく驚きながらも、ルディリアまで近づくとその両の手を掴んだ。そしてこう言い切る。


「私にはルディリアという補佐がいるからね。これからは彼女に頼るとしよう。彼女は私の弟子なのだから問題あるまい?」



ああ、聞いてしまった。

こうなるのではないかと思ったから耳を塞いだというのに。



「兄上は彼女をアルンベルン公爵家に入れると申されるのですか?」


ひやりとした空気の正体は言わずもがな、彼であることをルディリアは見ずとも分かる。

恐る恐るクラウストへと視線を向けると、やはり冷ややかな目でこちらを見ていた。それがルディリアに対するものでないとしても、サウスライドがルディリアの目の前にいる以上、その威圧感はルディリアにもひしひしと伝わっていた。


流石によそ者にそこまで開示する事を好まないのだろう。だからこそ執事でもなく、クラウスト自身が代りを行ってきたのだから。


「なんだい?不満かい?」


「兄上の仕事を彼女に押しつけるというのは些か不自然ではありませんか。ご自身で担うおつもりはないと?」


「そんな事は言っていないよ?仕事は私が行うことになるだろう。彼女にはその手伝いを頼むと言うことさ。」


ピリピリとした雰囲気に、ルディリアは内心ため息をついた。

どうしてこんなことに巻き込まれてしまったのか。そもそも王宮の夜会の話しからどうしてこんなに飛躍できるのか。

彼らが何を企んでいるのかルディリアにはさっぱり分からなかったが、これだけは確かだ。


――2人とも素直でないから拗れる。



ルディリアがどうしようかと悩んでいると、ソフィアが大きなため息を付いた。

自然とその場の視線は一点へと集まる。不自然過ぎる大きなそれに注目が集まるのも無理はない。しかし、それがソフィアの狙いでもあった。


「全く、貴方たちは勝手ね。公爵家のお仕事なんてどうでもいいわ。お仕事が追いつかないのであれば御父様に頼めばいいわ。それでもダメなら御祖父様がいるじゃない。そんなことで牽制しあって何が楽しいのかしら。貴方たちは論点がずれているわよ?私は、ルディリアちゃんが夜会で着るドレスの話しをしているの。エスコートなんてルディリアちゃんのお兄様かお父君を引っ張ってくれば良いだけじゃない?あんなにも仲がよろしいのですもの、ねぇ?そう思わない?ルディリアちゃん。」


「…え、えぇ。そうですね。」



お淑やかであるが故の迫力にルディリアは頷いた。やはりここで一番敵に回してはいけないのはソフィアであると再認識する。


「いや、父上方にご迷惑をかけるわけにはいかないんじゃないかな?」


「あら?だって仕方がないじゃない?貴方は執務机に座ってお仕事をするのが苦手でしょう?今日だってトーマスが困った顔をしていたわよ?今まではクラウストが協力してくれていたけど、それも無くなるのだから協力を要請するほかありませんよ。彼らも貴方を次期当主にと決めたのだから、責任は取るべきです。こうなることは最初から分かっていたのだもの。彼らがなんと言おうとも、私達の中では最初から決めていたのよ?」


ソフィアのいう“私達”というのは、現公爵夫人と前公爵夫人の事である。

男達の不甲斐なさをよく理解していた彼女たちはサウスライドが次期当主と決まった際に話し合いの場を設け、作戦会議していたのだ。

能力だけで見ればクラウストの方がより次期当主としての能力が高いことは皆理解していた。しかし、サウスライドは惚れていたソフィアと結婚する為にはその壁を越えねばならなかった。そこでサウスライドは情報戦で次々に敵対していた家柄を味方、もしくは配下へとすることでその実力を見せつけた。


領地経営についても、当時問題の多かった案件に頭脳を駆使して対策を行い、見事問題を解決して見せた結果、次期当主としての立場を得ることが出来たのだ。そんな彼の姿をみて、彼女たちは出来る限り彼の応援をするべく、問題が起きればすぐにでも助力できるよう準備を行ってきたのだった。




クラウストとサウスライドは苦笑を漏らす。

アルンベルン公爵のご夫人方が揃ってこの問題を予見しその対策を講じていたとは露知らず、自身達の先程の言動を顧みてそれを恥じた。


「そうかい、それは何とも情けない話しだね?もう少し、私も努力せねばならないな?」


「私もイリスト伯の前にアルンベルン公爵家の1人として尽力しましょう。」


「あら、それは嬉しいわ。それでは、このお話はもうお終いね。」


パチンと手を合わせて、可愛らしく小首を傾げるソフィアに、サウスライドがぎゅっと抱きしめる。そんな2人の様子を見ていたルディリアとクラウストは頬を緩めた。


「ルディリアちゃん、こんな話しに付き合わせてしまってごめんなさいね?お詫びに夜会のドレスはアルンベルン公爵家で持つからルディリアちゃんにぴったりのドレスを作りましょう!」


ふわりと微笑むソフィアを見たルディリアは、やはり敵わないなと思いながらもその提案を呑むことにした。ここでまた遠慮でもすれば同じ様なことが繰り返されない為だ。どうしたってルディリアにはこの話の主導権を握ることはできそうにない。



「それじゃ、気分でも変えましょうか。」


「そうだね?では、遊戯でもしようか?ルディリアは魔法が得意だからね、私達相手でも問題ないだろう。」


「いいわね。楽しみだわ!」


ソフィアとサウスライドは楽しそうに部屋を出る。仲の良い2人をみて苦笑を零すクラウストはルディリアへと視線を向けた。


「すまなかったな。…ほら、行こう。」


自然と出されたその手に戸惑いながらも自身の手を乗せると、クラウストにエスコートされながら彼らの後を追った。




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