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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、魔導師になる
24/67

その娘、夕食


ルディリアは午後から魔道具の改良に取りかかった。


前日の夜に数名に渡していた試作品についてのレポートを読み耽り、試してみたいことが幾つも浮かんでいたためあっという間に時間は過ぎていく。


気がつくと研究部屋で作業をしていた人は半分を切っていた。時計を見ると既に16時を回っている。何も用意をしていないルディリアは不味いと思いすぐに切り上げる。


部屋に戻り、何を着るか迷いながらも秋色のワンピースを着てその上からショールを羽織る。小さな鞄には必要最低限のものだけ詰めると急いで城前までやってきた。


「やぁ、随分と準備が早かったね?」


穏やかな笑みを浮かべながらサウスライドはルディリアに声をかける。どうやら研究室を出る所を見ていたらしい。30分ほどで準備を終えて出てくれば驚かれるのも無理はない。


「はい、急ぎましたので。」


「別に構わないのに、律儀だねぇ?」


男が女の支度を待つのは当たり前であるこの貴族社会。それでも待たせるのは悪いと急いだのだ。今から行くのは公爵家であってそこらのお店ではないのだから気も遣う。


「もう少しでクラウストも来るだろうし、馬車の中で待とうか?」


「はい、ありがとうございます。」


息をするように華麗なエスコートで馬車へと誘導され、ルディリアはいつもと少しだけ違う雰囲気に戸惑った。

研究室の室長としての彼は、抜けているところが多く、仕事嫌いの人間である。しかし、今目の前にいるのは次期公爵としての彼だ。流石にこういうエスコートには慣れているらしい。


馬車の中で数分、話しをしているとその扉が開いた。開く前からルディリアには誰かがすぐに分かった為、サウスライドへと目配せをする。するとサウスライドはニコリと笑い扉側に詰めて座り直した。


ルディリアが困惑しているとクラウストが姿を現し、困った様にこちらを見つめた。


「ルディリア嬢、遅れてすまなかった。…隣いいか?」


「…えぇ、お仕事お疲れ様です。」



ルディリアの反対側に座っているサウスライドはそこから退くつもりも、詰めるつもりもない様子だ。わざわざもうすぐ来るぞと目配せしたにもかかわらずこの仕打ちはなんなのか?と問い詰めたくなるが、それよりも早く彼が座れるようにしなくてはと、ルディリアが横へとずれた。


「すまない。…その服、よく似合っているな。」



クラウストの表情はいつもと何も変わらない。しかし、声色と青い瞳のその奥には優しさが籠もっている。そんな彼から視線を逸らして俯いた。


「あ…ありがとうございます。」


やはりローブで参加すれば良かったと後悔するももう遅い。部屋を出る直前までいつものローブで参加するか迷っていたのだが、こちらの方がソフィアは喜ぶだろうと結局ワンピースで来てしまった。着飾れば、貴族男子はこうして褒める言葉をかけるのは当たり前であることをルディリアはすっかり忘れていたのだ。


勿論、褒められればその分言葉を返すのが当たり前である。そのため、ちらりとクラウストに目を向ける。

いつもの騎士服とは違い黒系でまとめられた装いは彼の魅力を良く引き立てていた。



「アルンベルン騎士団長も、とても素敵ですね…。」


こう言ったことになれていない為か、どうしても気恥ずかしくなってしまい視線が彷徨う。それを見たクラウストは小さく笑うと、「ありがとう」と先程よりも低く甘い声色で返した。


早く目的地についてくれと心の中で強く思いながら、ルディリアは顔を窓の外へと向けた。

もう随分と日が落ちて薄暗い。そんな窓には少し火照った自身の顔がぼんやりと映っていた。


「仲が良いじゃないか?」


愉快そうにそのやりとりを見ていたサウスライドはルディリアにとって余計な一言を落とす。一度冷たい目をサウスライドへと向けたが、彼の笑みに流され意味を成さない事を理解したルディリアはまた外へと視線を戻した。


__



ガタゴトと揺れる馬車は嘶きとともにゆっくりと止まる。

随分前から公爵家の敷地には入っていたが、漸く門前まで付いたらしい。何とも大きな敷地である。


ヒースロッド辺境伯家の邸は公爵家に引けを取らない程に大きいが庭自体はそんなに大きくない。緊急時にすぐに外へ出られるようにしておかなければならない為である。しかし、中央にあるこの公爵家ではそんな必要もない為贅沢に土地が使われているのだろう。


アルンベルン公爵家の執事が馬車の戸を開け、出迎えてくれる。その奥には邸の扉が開かれており、幾人もの使用人が列を形成していた。その中央には綺麗に着飾った華奢な婦人と乳母であろう人に抱きかかえられている小さな子供がこちらを見て手を振っていた。


「お帰りなさい」


「ただいま、ソフィア、ヴィルヘルト。」


「クラウストも、ルディリアちゃんもいらっしゃい。」


「あぁ、邪魔する。」


「お招きありがとうございます。ソフィア様は本日もお美しいですね。」


サウスライドはソフィアを見るなりすぐに抱きしめる。それを気にもとめずにソフィアとクラウストは挨拶をしていた。呆気にとられながらも、なんとか綺麗なカーテシーとともに挨拶をすると、ソフィアはとても嬉しそうに微笑む。


「まぁ、ルディリアちゃんありがとう。貴女もっても素敵よ」


「さぁ、二人ともそんな所に立っていないで中へ入ろうじゃないか?」


いつの間にかヴィルヘルトを抱きかかえていたサウスライドは、邸の外いたクラウストとルディリアを中へと招き入れる。そもそもサウスライドが扉の目の前でソフィアを抱きしめていた為中に入ることが出来なかったのだが、それを口にするものはここにはいない。


中に入ると天井から大きなシャンデリアがこれでもかと輝きながらその存在感を表している。壁には名画が幾つもかけられており、廊下には陶器や磁器が飾られている。そこには綺麗な花々が生けられており心地よい空間が広がっていた。


何度かこの邸に足を運んでいるルディリアだが、この豪華さの中にある暖かな雰囲気がとても気に入っていた。


「何度見ても素敵なお屋敷ですね。」


隣で笑んでいるソフィアに語りかけると、とても嬉しそうにしてくれる。それだけでルディリアの心は穏やかになり、今日は来て良かったとさえ思えた。


「ありがとう、花は毎日私が摘んでいるのよ?」


ふふっと笑うルディリアは自慢げに、それでも花を慈しむ様な眼差しでそれを見遣る。そこから彼女の心が伝わってくるような気がした。


「ソフィア様がいかに公爵家を大切になさっているのか、ご家族を愛しておられるのかが伝わってきます。」


「恥ずかしいわ…」


小さく照れ笑いをすると、談話室へとルディリアを促した。食事の前に皆でお茶をするらしい。

ソフィアが示したソファへと腰を下ろすと、その右側にソフィアが左側にはクラウストが座った。サウスライドは言わずもがな、ソフィアの隣である。テーブルを中心に円形に設置されているソファは会話を楽しむのには最適だ。



執事がお茶を持ってくると、その香りを楽しむ。

ルディリアは魔法研究室へと配属してから幾種類もの紅茶を口にしてきた。最初来たばかりの時は特に気にすることもなかったが、あれは全てサウスライドが用意していたものだとグレイルに教えてもらい、彼の趣味の一つであったことを知った。

そして公爵家に足を運ぶようになってそれがソフィアから影響をうけたものだということも知り、ソフィアとの会話のネタになればと色んな種類を口にするようになった。


「これはね、今ご令嬢方にとても人気がある紅茶なのよ。何でもバラの花びらから作ったお茶なのですって。ルディリアちゃんもお茶が好きでしょう?用意してみたの。」


「ありがとうございます。とても嬉しいです。バラの香りがとても強くて驚きました。甘い香りなのに味はさっぱりとしていてとても美味しいです。」


「ルディリアちゃんのお口にあって良かったわ!私もとっても気に入って最近は良くこれを飲んでいるのよ。少し分けてあげるわ!」


「よろしいのですか?今話題ということはかなり量が少ないのでは?」


「ふふふ、大丈夫よ!これでも、アルンベルン次期公爵夫人だもの!」


胸を張って答えるソフィアが可愛らしくて、思わずルディリアの表情も緩む。張っていた気が緩んだせいかソフィアの話術のお陰か、あっという間に時間が過ぎた。

食事の用意が整った知らせを受けたソフィアは立ち上がると、両の手をパチンと併せて、「行きましょう!」とはしゃぐ。



公爵家の料理はどれも美味しくてあっという間に完食してしまった。

今日のお昼を遅めに取ったというのに…。それもクラウストと共に高官用の食堂でとったというのに見事なまでの完食だ。

騎士団団長補佐として数週間に一度という頻度で遠征に行きはするものの身体を大きく動かすこともない為体重が気になるところである。


「とても美味しかったです。本当にありがとうございます。」


時計を見ると、良い時間だ。既に19時を回っている。早く帰らねば迷惑になりかねないと思ったルディリアはそれとなく帰る旨を伝えた。


「本日は楽しい時間をありがとうございました。」


「あら、もうそんな時間なのね。まだまだ話し足りないわ…。」


しゅんと眉を下げるソフィアに、慌てたルディリアはサウスライドへと視線を向けた。こういう時なんとかしてくれるのは彼だろうという期待を込めてである。


「ふむ、そうだね。明日はルディリアも私も休みだから、今日は泊まっていく。というのはどうだろうか?」


いつもの穏やかな笑みを浮かべながらとんでもない発言をした上司に眉をひそめる。

何を企んでいるのだろうか?いや、嫁を愛して止まない夫として彼女が喜ぶだろう提案をしただけかもしれない。現にソフィアは大きな撫子色の瞳を輝かせている。


「まぁ、それは素敵!ルディリアちゃん、いいでしょう?」


小動物のような可愛らしいソフィアの誘惑につられないようにと今度はクラウストへと視線を向けた。こういう時はきっと助け船を出してくれるだろうと予想して。しかし、意外なことに、彼は苦笑しながら困ったようにこちらを眺めている。不思議に思い小さく傾げると、サウスライドが口を挟んだ。


「クラウストも今日はもう泊まっていきなさい。お前も明日は休みだと聞いているよ。」


「そうですね…まだやることが残っているのですが、仕方ありませんね。」


なんということか。

クラウストまでもが陥落されてしまいルディリアは頬が引きつる思いだ。


「ですが、流石にご迷惑になりますし…」


「ルディリアちゃんを迷惑だなんて思うわけないわ!今日はクラウストも泊まっていくのだし、いいでしょう?ね?」


どうにか一人でも戦ってみようとはしたものの、ソフィアに敵うわけもなく渋々と頷くこととなった。


「…では、お世話になります。」


「嬉しいわ!!じゃあさっきの紅茶にミルクとお砂糖を入れてお話しましょう?」


キラキラとした瞳でみるソフィアに、ルディリアは快諾した。

内心、はやり体重の心配をしたが後日ちゃんと身体を動かせば問題ないだろうと、今日の所は楽しむ事にしたのだ。

それを見ていたサウスライドはとても満足そうであり、クラウストは予想していた通りになったなと苦笑を漏らしていた。



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