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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、魔導師になる
23/67

その娘、昼食



「ルディリア、君今夜何か予定はあるかい?」


いつも通りルディリアは室長室でサウスライドと書類仕事を行っていると、思い出したかのように突然問われた。

資料から顔を上げ、ちらりとサウスライドへと視線を向ける。いつも通り彼は穏やか笑みを浮かべていた。


「特にこれといった事はありませんが、まだあの魔道具が完成していないので、研究に時間を充てる予定でした。」


でした。と過去形にしたのは十中八九、この後彼によって自分の予定が埋められると予測したからだ。そしてそれは当たりらしい。サウスライドは満足げに頷いた。


「そうかい。じゃあ、今夜は我が家にきなさい。ソフィアが楽しみにしているからね?」


「承知しました。いつも通り17時でよろしかったでしょうか?」


「あぁ、それで構わないよ?」


「分かりました」と返事をして時計を見る。現在14時だ。

既にお昼の時間も過ぎていたのか、とサウスライドの執務机を見ると、もう殆ど仕事は片付いている様子だった。


最近のサウスライドはやる気に満ちているようだった。もしかしたら、やっとコツが掴めた為ni

要領よく仕事ができているのかもしれないとルディリアは思っている。


以前までとは違い、仕事から逃げ出さなくなった。他の部署から回ってくる書類の数は減るどころか増えていることを彼は気がついているだろうか?それでも最近はこうして午前中までに本日分の仕事を終わらせ、研究を行っている。ここまで来ると逆に心配になるから不思議だ。


少しは身体と頭を休めた方が良いのではないか?と彼の集中の邪魔にならないようにひっそりとお茶を出すようになっていた。以前は、彼の飽き防止の為だったと言うのに素晴らしい成長である。


「よし、これで終わりだ。もう研究部屋にいっても問題ないかな?」


「あ、はい。問題ありません。後は私が各部署に届けて参りますので。」


「うん、頼んだよ?」


いつもの微笑みを浮かべながら早速と室長室を出ようとするサウスライドに声をかけた。


「あの…室長。」


「何かな?」


「お食事をすませてから行って下さいね。その方が頭も良く回りますし、集中力も続くでしょうから。」


研究や開発中のサウスライドの集中力はこちらが驚くほどに高い。その為、そんな忠告をする必要はないのだが、なんとなく身体の心配から声をかけてしまったのだ。


「…そうかい。…そうだね、そうさせてもらうよ。君が私を心配してくれることも珍しいからね。」



そういってサウスライドは今度こそ室長室を出て行った。


彼は本当に感情を読み取るのが得意らしい。いや、日々自身の感情を読み取るのが上手くなっているとルディリアは思っていた。

最初の頃はじっと顔を見られていたが、今では普通に読み取られてしまう。もしや私の感情が出てしまっているのだろうか?そう思って自分の顔をこね回す。


ふと我に返ると自身の行動が恥ずかしくなり、室長の執務机にある「済」の箱に入った資料を取り出すと魔法研究室を出た。



___



「――はい、ではこちらお預かりします。」


「はい、よろしくお願いします。」


いくつもの部署を回って、最後の書類を届けるともう16時になっていた。

昼食を取るようにサウスライドに声をかけたが、自分はまだ取っていないことに気がつき、軽食を取ろうと食堂へとそのまま足を運ぶ事にした。


食堂へと続く道を歩いていると、正面からクラウストが歩いてくるのが見える。人通りの多い廊下では気配は読みづらく目視頼りになってしまうため王宮内では常時身体強化は使い勝手が悪い。



「ルディリア嬢、久しぶりだな。」


「お疲れ様です、アルンベルン騎士団長。」



騎士服の上から青いローブを羽織ったクラウストは兄とは違い硬い顔をしていた。それが周りには冷たく見えるらしい。彼の青い相貌の印象のせいだろうか?ルディリアにとっては特段そんな印象もなく、普通に見える。それはきっと内面を知っているからだろう。厳しい人だが、何度も助けられたし、何度も彼の微笑みを見たからかもしれない。



「今から食事か?」


「はい。研究室の書類を届けていたらこんな時間になっていました。」


「そうか、では一緒にいくか?私も今からなんだ。」


クラウストの口角が上がり、穏やかな瞳を向けられてルディリアは戸惑った。

彼と共に昼食など目立って仕方がないだろう。しかし、断れるだろうか?


自然と下がっていた視線を上げて、ちらりとクラウストを見るとばっちりと目が合った。そして彼の口角が更に上がる。


「構わないだろう?団長補佐殿?」


あぁ、これは逃げられないな。と感じたルディリアは素直に彼に付いていく事にした。

しかし、何故分かったのか?周りの目を気にして彼との食事を躊躇ったことを。


特に周りに目を向けたわけでもないのに何故だろう?

…もしや、やはり私の表情にでてしまっているのだろうか?


ルディリアは廊下の窓に目を向けると、そこには無表情の自分の顔が薄らと映っている。特に変わりはないが、周りから見ると違うのだろうか?と小首を傾げつつ、また顔に触れる。先程とは違い小さく両手で頬に触れるもやはり分からなかった。



クラウストに連れられてやってきたのは高官専用の食道である。勿論例外が許されないわけではないが、高官と位置付けられない者が一人で使うことは中々に難しい場所だ。


ルディリアはサウスライドに連れられて何度かここで食事をした事がある。しかし、通常サウスライドは公爵家から届いた食事を取る為、使用頻度は高くない。希に使用する際には必ずルディリアを連れてきては食事をしていた。


「初めてではないだろう?」


「はい、室長と何度か来ています。」


「そうか、いつもはどうしているんだ?」


「…そうですね、外で買ってきたものを研究室でとったり、あとはもう一つの食堂を使っていますね。」


城の外ではたくさんの店が並んでおり、食事を取ることも買って帰る事もできるので気分転換にとても良い。


「それと?」


「え?」


「まだ何かあるんだろう?顔を見れば分かるぞ。」



ニヤリと口角が上がり、クラウストはルディリアを見る。ぎくりと肩を小さく上げた事もバレたらしい。やはり顔に出ているのだろうか?と今度は頬をつねる。ぎゅっと引っ張ろうとすると、それをクラウストの手で遮られた。


「やめておけ、別に君が変わったわけではない。それより、赤くなるぞ。」


「…すみません。」



呆れた目を向けられ、ルディリアは視線を逸らして、目の前の食事に手を付けた。


その後も穏やかに時間が流れるものの、何度も何度も思いや思考を読み取られてしまい気恥ずかしさを感じるようになった。


それを見て彼は楽しんでいるのだろうこともなんとなく分かって、そっぽを向く。そうすれば流石のクラウストでも分からないだろうと。しかし今度はクツクツと楽しげな声が聞こえてきた。


目を細め、彼に不満を伝える。


「アルンベルン騎士団長…。」


「すまん、ついな。」


穏やかに微笑む彼は、確かにサウスライドの血縁者だった。その表情はどことなく似通って見える。


「やはりご兄弟ですね、色々と。」


「似ているか?そう言われることは少ないのだが。」


「ええ、とても。」


「ふっ、そう怒るな。悪かった。」


「本当に思っておられますか?」


「あぁ」と大きな手がルディリアの頭に乗せられ、ぐりぐりと掻き回される。子供ではないのですが?と抗議しようと彼を見ると、何とも楽しそうである。


思わず小さく唇を尖らせ、彼から視線を逸らす。されるがままの状態でルディリアは鼓動が大きくなるのを感じた。


「君は特に変わってはいない。ルディリア嬢の表情を周りが少し読み取れるようになったと言うだけだ。慣れだ。あまり気にするな。」


何も言っていないのに、何故かルディリアの悩みが分かったらしいクラウストはルディリアから手を離して食事へと目を向ける。

姿勢も、食べ方も綺麗でついつい見惚れそうになるのを堪えてルディリアも食事をし終えた。


二人の食事が終わり、食堂を出て歩きながらルディリアは再認識した。周りの目が凄い。しかし、絶対に声をかけてこないところを見ると、彼が怖いのだろう事も予想が付く。

きっと私もこうして関わることがなかったら同じように少し遠巻きに見ていたのかもしれない。


気になるのも分かる。

あのクラウスト・アルンベルンが女性と共に談笑しながら歩いているのだから。


「そういえば、今日はこのあと何かあるのか?」


「午後からは魔道具の改良を行い、夜はアルンベルン公爵家で夕食の予定があります。」


「あぁ、ルディリア嬢も参加予定だったか。私も誘われてはいるが…そうか。」


クラウストは公爵家から王宮へ来ているのではなく、自身で持つ邸から通っているらしく、たまに兄や兄嫁から食事に誘われるのだとか。


「アルンベルン騎士団長も参加されるのですか?」


「…そう、だな。」


じっとルディリアを見たクラウストはゆっくりを口元を緩めた。そして「あまり無理はするなよ」とまたルディリアの髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。


どうやらいつの間にか分かれ道まで来ていたらしい。それも研究室の近くである。

貴族男子らしく紳士的な彼の行動にルディリアは困った様に眉を下げた。


「お送りくださりありがとうございました。」


「構わん、こちらが誘った事だ。では、また後でだな。」


ふっと笑った顔はやはりとても格好良くて、颯爽と歩いて行くクラウストを見送った。暫く呆然としていると、肩をぽんと叩かれる。驚いて振り返ると、そこには同じ様に穏やかな笑みを浮かべた彼の兄がそこにいた。


「室長!」


「やぁ?クラウストと食事をしていたのかい?」


「はい、偶然途中でお会いしまして、お誘い頂きました。」


「そう、美味しいものが食べられて良かったじゃないか。」


一般用よりも、高官用の食堂の方が豪華で美味しいというのは王宮に務める誰もが知っていることだ。


「はい、そうですね。」


うん、と満足げに微笑むとサウスライドはそのまま歩いて行く、どうやら外に用事があるらしい。


「すぐ戻るよ」


去って行くサウスライドが小さく「順調だ。」とつぶやいた声はルディリアには届かなかった。




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