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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、魔導師になる
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アイゼン


「アイゼン~、こっちも手伝ってくれ!」


俺は作業していた手を止めて、振り返る。

折角集中していたというのに…仕方がない。


後ろから声をかけてきたのはラシャード・イクラエン。

同期の研究員だ。貴族院からずっと同じクラスで就職先も同じとは、なかなかの腐れ縁だ。

こいつは優秀なのに阿呆という残念な男だった。顔も頭も良いのに女の趣味が悪いため、婚約者候補を見つけてはすぐに白紙となる。まぁ、女運がないというのも一つの要員なのかもしれないが。


そんなラシャードはまた書類作成でミスをしたらしい。研究以外はからっきしなところが本当に残念である。数枚の書類を俺に振っている。


「またか。ルディリア様が折角作ってくれた便覧があるんだ。それを見ればすぐだろう?」


「もう集中力がないんだ…。」


「全く…貸せ。」


どうやらラシャードは書き方どうこうではなく、書類仕事に飽きたらしい。このままでは最終的に室長やルディリア様にまで迷惑がかかりかねない。そう思った俺はラシャードから書類を奪い取った。この研究はラシャードと俺ともう数名の研究員との合作の品だから誰が書類を作製しても問題はない。


「助かるよ~」


そう言ってにこやかに別の研究部屋へと駆け込むラシャードをみて、ため息を付いた。俺は書類仕事をする為に研究室ではなく応接室とは名ばかりの小休憩用のロビーの机へと向った。ここは滅多に来ない御客人が来た時のみ応接室として使用されるが、それ以外ではみんな自由に使用している。


「おや?アイゼン、今日は書類仕事はなかったはでは?」


「ラシャードに押しつけられた。」


既にそこで仕事をしていたらしいグレイルに数枚の書類を振ってみせる。

そう言えばこいつもまた今日は研究に没頭できると朝から楽しげな様子だったはずだが、ここに居ると言うことは同じように書類仕事を押しつけられたのだろう。俺もグレイルも甘いことだな。


「まぁ、開発の進みも悪かったし、息抜きと思えば問題ないな。」


小さな言い訳と共に、グレイルとは反対にある机へと向った。クスリと笑みを零すグレイルに苦笑を返し、さて仕事に取りかかろうか、と言うところで研究室の扉が開いた。


「はぁー。良いお湯だったわ!」


「ええ!これでまたルディリアを綺麗に出来るわね!」


「明日誘ってみようかな?」


「いいじゃない!ルディリアも気に入ってくれると思うわ!」



賑やかな声とともに研究室に入ってきたのはマリアナとキャサリンだ。彼女たちは年齢も近いためか、ルディリア様ととても仲が良い。女同士って事で気もあうのだろう。いつの間にか敬語や敬称は抜けて楽しそうに話している。

かく言う俺も最近は敬語が抜けつつあるのだが。ルディリア様は余り畏まられるのが得意ではないらしい。だから研究員達も気軽に話しかける者が増えている。グレイルは元々の性格なのか誰に対しても敬語を使っているが。


「楽しそうですね。お風呂の開発進みましたか?」


「はい、グレイルさん。とってもいい湯加減で疲れが吹き飛びますわ!今度は男性用も用意するつもりですので是非お試し下さいね!」


マリアナはとても嬉しそうに開発した魔道具について話している。どうやらルディリア様にも助言をもらいつつ試験運用といってお風呂とやらに入っているらしい。


マリアナの開発した魔道具とキャサリンが研究している美容関係のポーションやら精油やらがとても相性が良いらしく、よく二人で実験している。


そんな話しを聞いていると、今度は中央の扉が開いた。そこから出てきたのはキーストン副長だ。

何やら様子がおかしい。腹を押さえて顔からは汗が噴き出ている。



「副長、体調が優れないのでしたらソファにお掛け下さい。」


「あぁ、すまない。」


誰に対しても優しく気遣いの出来るグレイルはすぐさま立ち上がると、副室をソファまで支える。その間も副室は腹を押さえていた。


「腹痛ですか?それならクスリを持って参りましょうか?」


俺は副長の様子から腹痛だろうと当てを付け、提案をする。しかし、副長は「いい。」と大きく手を振った。どうやら少しすれば収まる程度の具合らしい。


最近はルディリア様の試作品の魔道具を使用している為か熱中症で倒れることが減ったため、体調はすこぶる良くなったのだろうと思っていたのだが、そうでもないのか?


ソファに座り、暫く立つと少し痛みが治まったらしい副長が「参った、参った」と笑いながら理由を話しはじめた。


「いや~、ここの所これに頼ってばかりだったから、少しの熱さでも汗が出てきてな。急いでこれを付けるとすぐに体温が下がって涼しくなって本当に重宝しているんだが…どうにも汗で身体が冷え過ぎる。」


「それには風量の調節ができる装置がついておりませんでしたか?」


「私も使っていますけど。」とマリアナが魔道具の裏を副長へと見せる。隣のキャサリンも大きく頷いていることから彼女も試作品を持っているのだろう事が窺える。ちらりとグレイルを見ると、彼の首にも同じ物が下がっているのが見えた。


どうやらこの場にいる俺以外は全員その試作品を持っているようだ。


「いやー、研究に熱中しているとそれどころではなくてな。腹が痛くなってから毎回気がつくんだ。」


どう考えても自己責任の範疇だ。この人から取り上げて俺にくれないだろうか。いや、無理か。そもそもこの魔道具を作れと命じたのは副長らしいからな。


そうこう話している内にまた痛みがやってきたようだ。この人の為に薬を取りに行ってやるのもなんとなく抵抗があり、俺はそのままその様子を眺めていた。すると、また中央の扉が開き、そこから室長とルディリア様がやってきた。

彼女は副長の様子を見るとすぐに駆け寄ってきて状態を尋ねる。副長が答えられる様子でもなかった為、俺が代わりに答えると、キャサリンがルディリア様を庇う発言をした。


ルディリア様に非は無いと誰もが理解している。しかし、ルディリア様はそのまま副長へ治癒魔法をかけ、更に魔法で身体まで温めてやるというなんとも至れり尽くせりである。多少腹が立ったことも仕方がないと思う。


すぐに体調が良くなった副長はとてもにこやかな表情を浮かべてルディリア様をべた褒めしはじめた。そんな事は研究室に所属する誰もが思っていることだ!と言い返してしまいたい気持ちをなんとか抑えて俺は副長に冷たい目を向ける。


「ふむ、キーストン。それを私に見せてくれないかい?」


室長の言葉に副長は目くじらを立てて抗議しようとするが結局室長にあっさり取り上げられていた。そしてそれをよく確認もせず、ルディリア様へと渡すと室長はまたいつもの笑顔で満足げに頷く。対照的に副長は不満を零しているが。


副長がそれでもしつこく「返せ」と訴えたところで室長の雰囲気が一瞬変わったような気がした。



「いーや、ダメだ。もう外気もそれほど高くならないだろうし、窓でも開けておけばこれからは熱中症になることもないだろう。それよりも、試作段階のこれに頼りすぎているキーストンをなんとかせねばならない。ということで、これはルディリアに返すのがいいだろう?」


有無を言わさない笑みとその張り詰めた緊張感にその場に居た誰もが身体を強張らせた。いや、ルディリア様は流石と言うべきか、いつもとなんら変わりない。しかし、俺たちは冷や汗が止まらないと同時にこの人の言動を見て再確認した。


やはり、アルンベルン公爵家の跡取りであると。

そして、若くして研究室 室長まで上り詰めただけはある。


再認識させられたと言っても良いだろう。いつもはちゃらんぽらんで仕事を投げ出してはルディリア様に迷惑をかけている人もこういう時はちゃんとしているのだ。



「ん?何かな?何か言いたいことがあるようだね?」


「い、いえ…」


そんな事を思っていたからか、室長の視線はこちらを向いた。どうやら俺が一番顔に出ていたらしい。ルディリア様のように表情に出さないといった事が出来ない俺はいつもすぐに目を付けられる。本当に嫌になるぜ…。


ハハっと笑ってお茶を濁してその場をなんとか乗り切る。他の奴らも大体似た様なものだった。この人は人の顔色を読むのが得意な為、俺以外の奴らの表情もすぐに理解したのだろう。流石は室長…。


「全く、君たちは…。」


ため息を付いた室長は、今度はルディリア様へと視線を向けた。彼女は恐れることも慌てることもなく、いつもの無表情で言い切った。


「普段からそのようにしておられれば、このような事にならないのでは?」



その瞬間その場にいた副長でさえ冷や汗が流れただろう。今回ばかりは室長も怒るのか?と思ったが全く別の表情を見せた。


苦笑いである。ルディリア様の言葉に思う所があったのか、発言をしたのが彼女だったからか、室長は不満げながらも笑っていた。


「副長、これは没収です。先程室長が仰っていた通り、これから先はそんなに熱くなることもないでしょう。ですからレポート、お願いしますね。」



そう言ってルディリア様は研究部屋が続いている扉を開けて行ってしまった。ちゃっかり副長へレポートの催促をしている辺りも流石だ…。


そしてすぐにルディリア様を追いかけるように室長も扉を手にかけると、一度こちらを振り返った。それも満面の笑みで。


「君たち、真面目に仕事しようね?特にキーストン。君には自由にやらせているんだ。きっちり成果を出してもらうからそのつもりでね?」


「はい…。」


いつもの笑みで。

そう、いつもの有無を言わさず、全て自分の思惑通り進めるときの恐ろしい笑みを向けると、そのままルディリア様の後を追いかけた。


「こっわ…。」


扉が閉まり、思わず溢れた俺の言葉に、グレイル以外の皆が頷いた。グレイルは苦笑している。こいつはいつもそうだ。ルディリア様が来る前も、苛立ちが隠せない室長に真っ正面からぶつかっていく度胸がある。心底尊敬に値する人物だ。


「ほら、みなさん仕事しないと今度こそ怒られちゃいますよ」


グレイルの言葉で皆が動き出す。ちらりと副長に視線を向けると未だ引きつった顔をしていた。最近副長の命令でルディリア様が動いていることが多かったからか室長もピリピリしていたんじゃないかと、俺は思う。



この研究室にはルディリア様の存在が必要だ 絶対に…。


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