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大魔法使いを目指してHighになる  作者: ぽこん
その娘、魔導師になる
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その娘、魔道具を開発する2


「珍しいですね、ルディリア様がため息を付かれ、頭を抱えるなど。」


誰も居ないと思っていた部屋に、丁度入って来たらしいグレイルにこんな姿を見られてしまったことにルディリアは苦笑した。


「すみません、見苦しい所をお見せしました…。」


「いや、そんな事はありませんよ。寧ろ少し安心しました。」


「え?」


クスリを笑うグレイルを見上げると、穏やかな眼差しでこちらを見ていたグレイルの瞳とかち合った。


「ここへ来てから、思い悩んでいるご様子を拝見したことがありませんでしたから。…いえ、あまり感情を表に出すことをなさらないので、無理をされているのではないかと…申し訳ありません、少し厚かましかったですかね。」


頭を掻きながら笑うグレイルの優しさに触れて、ルディリアの先程までの悩みは吹き飛んでいた。


「いえ、ありがとうございます。ご心配お掛けしっぱなしですね。」


「いいえ、私達はルディリア様にとても助けられてばかりで、ご恩をお返ししたいと思っているのですよ。」


助けた…?

私は彼らに何かしただろうか?


「熱中症のこと、でしょうか?」


小首を傾げ、グレイルへと再び視線を戻すと、彼はゆっくりと顔を横へ振った。


「いえ、それだけではありません。室長の事もそうですが、ルディリア様が来て下さる前まで、この研究室は仕事で溢れかえっていたのです。室長にばかり書類仕事を任せるわけにもいかないと書類仕事に手を付けてみたものの、部署毎、内容毎にまとめ方や体裁が異なるでしょう?それらを熟すのにとても時間がかかり、研究や開発にまで影響が出ていました。そんな時にルディリア様が室長補佐として配属となり、あっという間に書類仕事を整理してくださった。」


確かに最初は色んな部署の偉い人にお小言をもらいながら書類の書き方や体裁について学び、書き直してまたお小言をもらっての繰り返しだった。

今までよく書類仕事が回っていたなと思うほどに、様々な部署から苦情が来ていた。


期日まで間に合わないもの、内容が異なるもの、体裁が異なるものと、整理するだけでも大変だったな。

それでも…。


「でも、それは結局皆さんと共に頑張ったからこそ熟せた事です。そして、要領を掴むことが出来たから、今こうして円滑に仕事が回っているのではないでしょうか。私だけの力ではありませんよ。」


ほんの少し前の出来事だというのに…いや、今も行っている作業であるのにも関わらず、何だかルディリアは懐かしい気持ちになった。


「いや、そうでもないよ?ルディリアが各部署の体裁や内容についてまとめてくれた資料を基に皆書類仕事を進めている。かく言う私もね?」


いつの間にか応接室に来ていたらしいサウスライドが穏やかな笑みを浮かべながらルディリアの向かいのソファへと腰を下ろした。


「あれだけの量、大変だったろう?私の書類の仕分けや整理を行いながら便覧作りだ。寝る間も惜しんで尽力してくれた結果が今だ。私の研究の時間まで割いてくれた。とても感謝しているよ?」


ルディリアは二人を交互に見つめ、大きな瞳をしばたたかせる。


無駄ではなかった。


雑用係とまで思った自身の仕事、役割は熟せば誰かの役にたち、この部署の仕事を円滑に進めることに繋がった。

そう思うと、不思議と口角が緩み引き上がる。抑えようにも、その感情を止めることは出来なかった。


「…ありがとう存じます。」



ルディリアの美しい笑みに、二人は唖然とした。


今まで無表情を貫いてきたからだろうか?その衝撃は大きく、二人はぽかんと口を開けてルディリアを見つめる。


「…?あの…どうかしました?」


「いや…。」


「ルディリア、君は笑った方が良い!とても美しいじゃないか!?」


「え?いえ、そんなご冗談…ですよね?」


あまりのサウスライドの勢いにルディリアはグレイルを見上げる。しかし、彼もまた、大きく首を縦に振っていた。そんな状況にまたもやぱちくりと瞳を瞬かせ、ルディリアは小首を傾げた。


「君はどうして表情を隠すのか?」


「…昔、父と兄に外では笑わないようにと、きつく言われまして。それ以来、感情を隠すようにしていました。」


「成る程?」


サウスライドは腕を組みながら「ふむ」と悩み、グレイルは訳が分からないとばかりに顔をしかめた。そして二人はサウスライドへと視線を向ける。


「確かにご家族の気持ちが分からないでもない。君に笑顔は人を魅了する程に美しい。だから君を守る為かもしれないね?」


「…確かに、当時王宮からお茶会の招待がたくさん来ていた時期でしたね。」



当時5歳のルディリアはその時から魔法に強い関心を持ち、魔法の勉強に明け暮れていた。

丁度その時期にプライダル王国の王太子が10歳になった事で婚約者候補を集めたお茶会が開かれることが多くなり、ルディリアもまた、そのお茶会へと招待され何度か足を運んだ。


全く関心のなかったルディリアはすぐに行くのを止めてしまったが。その最初のお茶会の前日に、見初められてしまう事を危惧した父や兄達がルディリアに「王宮内では笑わないように。」と強く言葉をかけたことが始まりではあったが、ルディリアは綺麗さっぱりそんな昔の話しは忘れてしまっていた。


「では、やはりそういうことなのだろうね?」


にこりと笑みを浮かべるサウスライドとは対照的に、グレイルは呆れた様な表情をしていた。それもそうだろう。我が子に笑わずに過ごせという親がどこに居るのかと問いたくなる気持ちはサウスライドには良く分かる。しかし、ルディリアは取り立てて気にもしていないのだから、ここでそれ口にすることも出来ない。それならば、少しでも良い方向へ思考させた方が余程賢い。



「まぁ、ですが。お二人のお陰で少し見える物がありました。」


副長に出された課題、どうにかやり遂げて見せようと気合いを入れるルディリアをサウスライドとグレイルは微笑ましく眺めた。



それから一週間、二週間と日々の仕事を行いながらキーストンに任された魔道具の開発を行っていた。


ルディリア最初、冷風が身体を纏えば全体が涼しくなるだろうと考え試作品を作ろうとしていたが、それは思ったよりも難しく大きな壁にぶち当たった。問題は魔力消費量と範囲指定である。


装飾品として身につけるのであれば大きな魔石を使用すれば、それだけ重量が増え動きにくくなる。範囲も人それぞれ体格が異なる為小さな装飾品の範囲に収めた状態でその陣を埋め込むことが出来なかったのである。


そうして何度も試行錯誤を重ね、やっと試作品1号が完成したのは夏の終わりだった。

結局キーストはこの夏、何度も体調を崩し、ルディリアの魔法に助けられながら研究を行うこととなった。

試作品1号はルディリアにとってはまだまだ改良すべき点が多い。しかし、あまりにもキーストンが体調を崩すものだから試作品段階でありまだまだ完成は遠いと強く明言したのちにそれを手渡した。



「いいですか?まだ改良する点は多くて使い物にならないかもしれませんから十分に注意して使用して下さいね。」


「あぁ、勿論だとも!私は研究室の副長だぞ?その位の事は理解しているから問題ない。さぁ、それをこっちへ!」


とても嬉しそうなキーストンは渋るルディリアから試作品を受け取ると、早速ともらった魔道具を首から提げはじめる。


その魔道具は首飾りの形をしており、真ん中に大きな魔石が埋め込まれていた。そこから一定方向へと冷風が出力され、服の下から熱気を飛ばすといった構造だ。


「どうですか?」


恐る恐る、魔道具を起動したキーストンに尋ねると、彼は目を細めて心地よさそうな表情で返す。


「あぁ、とてもいいよ!このままずっと付けていたくらいだ!」


「それは良かったです。魔石の裏に出力を変える為の装置がありますからそれを下げてみて下さい。」


「ふむ」とルディリアの言葉に従ってキーストンが小さな突起を下ろすと先程まで服の中で靡いていた風が小さくなるのが分かった。次にキーストンがその突起を上げると今度は最初よりとても大きな冷風が服を仰いだ。



「おおお、これは凄いな!良いではないか!」


出力を変えながらキーストンはとても楽しそうに笑っていた。そんな彼をみてルディリアもほっと息をつく。


「では、暫くお使い頂いて、使用感を後ほどレポートにして下さると嬉しいのですが。」


「あぁ、勿論さ。そこは任せたまえ。」


グッと親指を立ててルディリアに向けるその姿をみて、ルディリアは副長室を後にした。



それから暫く、キーストンは熱中症で倒れる頻度は減ったが、今度は別の問題が発生した。

それは寒さである。一定時間付けたままにすると身体が冷えるそれを嫌ったキーストンが一時的にその魔道具の使用を止めると、今度は熱さで再度使用する。それを繰り返している内にお腹を壊し、体調が悪化してしまったのだ。


ルディリアが午前中の仕事を終え、サウスライドとともに研究部屋へと向う為、応接室の扉を開けると、そこにはソファに横たわるキーストン姿があった。周りには心配そうな表情のグレイルとマリアナ。呆れた表情をしながら声をかけるアイゼンとキャサリンの姿。


「うぅ…」と呻くキーストンにルディリアは駆けつけた。



「どうしたんですか?」


ルディリアの声を聞いて、アイゼンとマリアナが道をあけてくれ、キーストンの姿を捉えることが出来た。


「副長がお腹を壊したらしい。」


「え?」


アイゼンがルディリアの問いに答え、原因を指さす。それはルディリアの作った魔導具である。


「汗をかいたままこれで身体を冷やして、寒くなったら止めての繰り返しをしていたらしい。」


「こうなるのも当たり前のことだわ。ルディリアが気に病むことじゃないわ。」


アイゼンとキャサリンはキーストンの自業自得だと呆れた様子でルディリアの肩に触れた。そんな様子を見てルディリアもキーストンへと向けていた心配の眼差しが薄れ、小さく息を吐くと治癒魔法と共に温風でキーストンの身体を温めた。




「いや~~!本当に助かったよ!ルディリア、君は本当に魔力の操作が上手いなぁ!」


にこやかな笑顔をルディリアに向けるも、ルディリアとしてはそんな事はどうでも良く、彼からその魔導具を取り上げるべきだろうと悩んだ。


「ふむ、キーストン。それを私に見せてくれないかい?」


ルディリアとともに応接室へとやってきていたサウスライドは状況を見守りつつ、キーストンの体調が回復した事をみて、魔道具を指さした。



「サウスライド、お前には必要無いだろう!」


「うん、そうではなくてね?その魔道具の作りに興味があるのだよ?」


嫌そうにしつつも、一応室長という立場のサウスライドにキーストンは魔道具を渡した。するとサウスライドは殆ど魔道具を確認する事もなく、それをルディリアへと手渡した。


「はい」


「…ありがとうございます。」


「おい!」


「なにかな?」


「それは俺のだ!返せ!」


「いーや、ダメだ。もう外気もそれほど高くならないだろうし、窓でも開けておけばこれからは熱中症になることもないだろう。それよりも、試作段階のこれに頼りすぎているキーストンをなんとかせねばならない。ということで、これはルディリアに返すのがいいだろう?」


有無を言わさない笑みに、ルディリアは驚いた。

いや、ルディリアだけでなく、その場に居たグレイル、アイゼン、マリアナ、キャサリンも驚き固まっていた。それに気がついたサウスライドは、キーストンへと向けていた笑みを周りへと向け直した。


「ん?何かな?何か言いたいことがあるようだね?」


「い、いえ…」


アイゼンはすぐさま視線を逸らし、口元が引きつる。一歩ずつ後ずさりしては、乾いた笑みを零す。

サウスライドがアイゼンだけでなく、他の研究員達にそれを向けると皆同様に後退る。それを見て、サウスライドは小さく息を吐いた。


「全く、君たちは…。」


心外だと不満げな顔をルディリアへと向けた。どうやらルディリアも同じように驚いていたことをサウスライドはきちんと読み取っていたらしい。


「普段からそのようにしておられれば、このような事にならないのでは?」


冷酷無慈悲とも言える一言を落とすと、ルディリアはキーストンへと視線をむけた。


「副長、これは没収です。先程室長が仰っていた通り、これから先はそんなに熱くなることもないでしょう。ですからレポート、お願いしますね。」


そういってルディリアは、解散だとその場を後にした。そして、とてもありがたい実験結果をもたらしてくれたキーストンに呆れつつもルディリアはそれをどうにか解消する事は出来ないものかと、頭を悩ませた。



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