第5話 【技の試練】
メッセージを読み終えると、強制的にウィンドウが閉じられた。
「今のはなんだったんだ?」
ステータス・ボードに記載されていた文字・数字が消えて明確な意図を持ったメッセージが表示された。
真灯雪白の記憶を辿っても、過去一度もそんな現象は起きていないし、耳にしたこともない。
どう考えても異常事態だ。
「星よ。何が起きているか説明してくれ」
九鐘は人差し指と中指を立てて占星術を発動。
星にコンタクトを試みた。ところが。
バヂィッッ――!!
「…………弾かれた、だと。星が俺を拒絶した、とのか?」
これまた不測の事態。
九鐘は思考を巡らせ、「違うな」と結論を出した。
「異質なのはこの空間。【第三領域】とやらにおいて、占星術、またはそれに近似するスキルは使用不可とみた。フン……下らない小細工を」
吐き捨てると同時に、フロアの中央部が陽炎のように歪み始めた。
歪みから現れるは一匹のモンスター。
九鐘はそのモンスターを見上げ、シンプルな感想を抱く。
「でかいな」
見た目は重騎士。
目算10メートルはあろうかというその巨体は、威圧感と堅牢感を兼ね備えた装甲に覆われている。
肩当ても巨大で、鋭い棘が突き出し、まるで敵を威嚇するかのよう。
頭部は完全に鉄被面に覆われているが、スリット部から覗く二対の光が、不気味な雰囲気を醸している。
他には分厚い装甲板と重厚なベルトを装着、右手には剣、左手には盾といった出で立ちだ。
鈍色に輝く圧迫感溢れる装備が松明の青炎をてらてらと反射して、九鐘は若干の煩わしさに目を細める。
ふいに、スリット部から覗く赤い光が九鐘を捉え、直後、その見た目からは想像出来ない程の速度で剣が振り下ろされた。
ガッッッッ!!!!!
「ははっ、面白いなお前。明らかに物理法則を無視した動きだが、何かのスキルか?」
九鐘は振り下ろされた剣を右手で掴んでいた。
肉体は霊力で強化されている。
傷の一つも付こうはずが無い。
それにしても流石にでかいな。
まるで鈍器でも持っているみたいだ。
否。実際にここまでの体格差がある以上、見た目に惑わされてはダメだな。最早アレは剣でなくハンマーの類だ。
『ォオ、オ――オオオオオ!!!!!』
「ほぉ、俺ごと持ち上げるか!」
『オオオオオオ!!!!!!!』
重騎士は剣身の向きを変えて、またもや音速超えの一撃を繰り出した。薙ぎ払いである。
ドゴォオオオオ――――――ッッ!!!!!
巨大な剣が壁面を破壊し、瓦礫の崩落と共に土煙が上がる。
重騎士は体の向きを変えて、瓦礫の山を見やる。右に左にと首を振り、何かを探す素振り。
しかしそこにあるべきモノの姿は無い。
九鐘は壁を足場に天井へ、天井を蹴って重騎士の頭上へと瞬時に移動を済ませていた。
「俺の死体でも探しているのか?」
重騎士が反応して上空を見上げるも時既に遅く、九鐘の姿は眼前にあった。
『――!??』
「残念だが今の攻撃では威力も速度もまるで足りていない。しかしまぁ、演出の派手さだけは褒めてやろう」
ゴキャッッ!!!!!!
九鐘は全霊力を攻撃に集中させて、渾身の右ストレートを繰り出した。
そして腕を振り抜くとほぼ同時に、重騎士が壁面に叩きつけられ、先ほどの数十倍もの崩落が発生。
生じた亀裂は壁を伝い、天井部、果ては地面にまで伸びていく。
「終わりか、つまらん」
九鐘は着地と同時に背を向けて、ポケットに手を突っ込んだまま例のウィンドウの出現を待つ。
しかしウィンドウは出現せず、代わりに、背後から無数の瓦礫が散弾と化して飛来した。無論、それら全ては九鐘の霊力に阻まれたが。
振り向くと、重騎士は平然とした様子で立ち上がっていた。鉄兜には凹みはおろか傷一つ見当たらない。
「あの一撃を耐えるか」
常識では考えられん。
となると何かしらのネタがあるな。
「試してみるか――オイお前。一度だけチャンスをくれてやる。次の攻撃、俺は防御しない。この肉体一つで受けてやろう。最後のチャンスだ、全力で振り抜けよ?」
すると重騎士は左腕を壁に叩きつけ、右足で大きく地団駄を踏んだ。
なんとなく神聖なイメージのあるフロアだが、もはや滅茶苦茶である。
踏み割られた地面から、九鐘の一歩手前まで亀裂が伸びる。意図して力を加減したのなら随分と器用なヤツだ。
『ニンゲン。ワレ、グロウスルカ』
九鐘は目を点にして重騎士を見据えた。
「なんだ、喋れたのか!」
『ワレ、オマエ、ユルサナイ!』
「そう思うのなら口ではなく手を動かせ」
『ノゾミドオリ、ニクカイニシテクレル!!』
巨大な剣が九鐘目掛けて振り下ろされる。純度100%、そこには殺意しか乗せられていない。
ズドォォオオオオオンッッ!!!!!
そして爆発にも似た轟音が空気を揺らし、重騎士が大きく咆哮した。
『オオオオオオオオッッ!!!!!』
それは歓喜の雄叫びに聞こえた。
自分を愚弄した人間を叩き潰してやったのだと。
なにせ一撃目とは訳が違う。
攻撃は受け止められず、剣身は間違いなく九鐘の胴体に直撃した。
勝負あり。
そう思うのも当然。
だがそれは、相手が九鐘でなければ――の話だ。
「よくやった、褒めて遣わす。おかげで検証の手間が省けた」
『……………………?????』
「なんだその反応は。まるで幽霊でも見たかのようだな」
『バカナ、アリエナイ。ナゼ』
「俺の攻撃を受けてもノーダメージ。俺も全く同じ感想を抱かされたぞ、あり得んとな。そこで一つの仮説を立てた。その剣を見れば明らかだな。証明は成された。とはいえ、最初から答えを聞かされていたにも関わらず脳筋でいったのは自省せねばならぬか」
そう言って、九鐘は例の巨剣を指で差し示す。
重騎士は首を横に向け、絶句。
『…………ワレノ、ケン、ガ。ナゼダ。ナゼ、ケンガ、リョウダンサレル???』
「単純な話だ。俺の防御力にお前の剣が勝てなかった。だから圧し折れた、それだけだ」
『ア、ァアアアア……』
「さて。ネタも割れたことだし、幕引きとするか」
九鐘は歪に口角を吊り上げて、右手を前方に突き出した。
「自身を対象にする物理系攻撃の完全無効化。それがお前の能力だな? スキルか、はたまたこの空間における限定の能力か……おそらく後者だろうが、細かいことはどうでもいい。いま消し飛ばしてやる」
『グ、クッ! ォオオオオオオオオ!!!!!』
重騎士は怒声を上げながら全力で九鐘を潰そうとする。武器でダメなら自分の力でと、そんなところだろう。
「無駄な足掻きを」
略式・水穿――!!
ズドドドドドドドド!!!!!
水穿とは例えるなら水鉄砲だ。
しかし九鐘から放たれるそれの威力は、一撃一撃が音速ミサイル以上。
はじめに頭部が撃ち抜かれ、次に右腕部と左腕部。さらには胸部、腹部、脚部――。
全ての箇所が寸分の狂いなく正確かつ同時に撃ち抜かれ、重騎士は完全に活動を停止した。
ウィンドウは現れなかった。
代わりに現れたのは2つのホール。
「3つのうち中心のホールがこの【技の間】に通じていた。となると他の2つ、左のホールが【心の間】、右のホールが【体の間】といったところか」
九鐘は手頃な瓦礫を拾い上げ、表面に霊力を付着させてから親指で弾いた。
降ってきたそれをキャッチして表裏を確認する。その後、静かに独り言ちた。
「右か」
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