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最後の試験は危険がいっぱい!

「それでは、只今より受験生諸君に最終試験の内容を説明する!」


 事前に瞑っていろと言われた目を見開くと、そこにあったものは、予想もしていなかった──見知らぬ光景だった。

 それは多くの受験生たちも同じのようで、困惑が広がる中、先生が動揺に騒めく私たちを前に、宣言する。

 無事に魔力測定試験も終わって、私たちに伏せられていた「最後の試験」が始まろうとしてるのだ。


 濃厚な草木の匂いと雨の香り。今、私たちがいるのは、少なくともステラティア学園の敷地内じゃない。

 目の前に立ち並ぶ森は、木々の間隔が比較的整備されていながらも、野生的な匂いが立ち昇るように漂ってくる。

 つまり、魔物の気配がするということだった。


「既に察しがついている受験生もいるだろう! ここはステラティア学園の敷地内ではない、王都の外れにある『ニアリの森』だ!」

「ぴ、ぴぇっ!? それじゃあ、魔物が……!」


 先生の言葉に、受験生たちの多くはざわめき立つ。

 フィービーも思わず声を上げてしまうぐらいには、びっくりしてしまったようだ。

 無理もない。


 定期的に狩人に間引いてもらっているとはいえ、基本的に魔物除けの光魔法による結界が張られている王都や街の近くと違って、結界が届かない場所では、魔物と出くわす危険性が一気に跳ね上がるのだから。


「その通りだ、フィービー・アクシア! 最後の試験は、夕刻までにこの森で、諸君らの魔法を使って『獲物』を仕留めてもらうことだ! 机上の空論だけでは魔導の道は極められない! 覚悟と実力を示すときだ! では、始め!」


 この話を一発で理解して、動けない受験生たちはその時点で足切りだと言わんばかりに、先生は試験開始を宣言した。

 さて……この試験、ルールはシンプルなんだよね。

 ただ、獲物を仕留めてくればいい。恐らくは大きさや危険度によって、点数づけがなされるのだろう。


 だけど、別に──誰かと協力するな、とは一言も言われていない。

 仲間を作り、強大な魔物を分け合って仕留めることも、暗黙の内に認められていると見ていいだろう。

 事実、それに気づいていたのであろうケインとコーザ、カルスの三人組は真っ先に森の中へと駆け出して行ったのだから。


「フィービー、落ち着いて。一人で獲物を狩れとは言われてないし、お姉ちゃんと一緒に行こっか」

「ぴぇ……で、でも、魔物を倒すなんて……」

「お姉ちゃんの実力はフィービーが一番よく知ってるでしょ? 村の自警団で鍛えた腕前、見せてあげるんだから」

「……ぴぇ。そ、そうだった……! 流石お姉ちゃん!」


 怯えるフィービーを宥めて、私たちも森の中へ入ろうとした、そのときだった。


「美しい姉妹愛ね! じゃあ、あたしも混ぜてもらって構わない?」

「リーヴェなら一人でもできるでしょ」

「できるわ! でもね、シャルローネ。あなたはあたしのライバルなの。一緒に行動するとは言ったけど、協力するなんて一言も言ってない……つまり、競争しようってこと!」


 ふふん、と得意げに鼻を鳴らして、リーヴェが挑戦状を突きつけてくる。

 なるほど、どっちがより早く、強い魔物を仕留められるかで白黒つけようって話ね。

 別に乗ってあげる義理はないんだけど、一緒に行動する人は多い方がいい。


「わかった、リーヴェ。でも、獲物を見つけたら」

「勝負のときね! 腕が鳴るわ!」


 自分が負けるとは微塵も思っていなさそうな、自信に満ちた笑みを浮かべながら、リーヴェは銀髪を優雅な仕草でかき上げた。

 ここまでリーヴェに執着されている理由はわからないけど、勝負を挑まれたなら負けられない。

 それに、フィービーの前では、「格好いいお姉ちゃん」でいたいという願望みたいなものも、あるにはあったりするし。


「森の進み方は知ってる? ここは比較的整備されてるから、そこまで警戒する必要はないと思うけど」

「もちろんよ、自分の足跡や辿ってきたルートを見失わないこと。そのために目印をつける」

「……少しはできるみたいだね」

「狩猟は貴族の嗜みよ。基本ぐらい知っているんだから!」

「ぴぇ……二人とも、すごいなぁ……」


 私とリーヴェがバチバチに視線で火花を散らしている間、フィービーは感心したように何度も小さな首を縦に振っていた。

 うん、私の妹は今日もかわいい。

 自明の理はともかく、風魔法を極めていれば、先生のように転移魔法も使えて、帰り道の心配はないから、「六重属性」のリーヴェが森の歩き方を知っていたのは意外だった。


 私は用心深く、ナイフで木々に印を刻みながら、なるべく大物がいそうな森の奥へと進んでいく。

 頼りになるであろうリーヴェを殿に、不慣れなフィービーは真ん中に。

 こうすれば、咄嗟の襲撃があったとしてもすぐに対応できる。


「この辺りでの大物となると、ラプテラスかしら?」

「そうだね。群れを作って行動する魔物だから、危険だけど」

「ふぃ、フィービーにもちゃんと、倒せるかなぁ……」

「大丈夫。ラプテラス一体ぐらいなら、フィービーも倒せるよ。なるべく群れから離れた、餌探しをしてるやつらを狙うから」


 ラプテラスは、鳥竜みたいな魔物だ。

 新米の狩人や、自警団の新入りがベテランに連れられて討伐できるぐらいの危険度しかない。

 もっとも、群れの中心になる「ドゥプテラス」という大型の個体になると、ベテランでも苦戦するぐらい強いんだけど。


「志が小さいわよ、シャルローネ! せっかくならドゥプテラスを倒して、群れを壊滅させるぐらいは目指さなきゃ!」

「志が大きくても、生きて帰れなかったら試験は落第よ、リーヴェ」


 この歳で「六重属性」に目覚めているリーヴェなら、ドゥプテラスが率いる群れを壊滅できるんだろうけど。

 実戦経験のないフィービーを連れている時点でそれは無謀だ。

 やるなら一人でやってくれればいい。元々一緒に行動するけど協力はしないって約束だし。


「水と……血と……微かだけど、変な匂いがする。多分この辺りね」

「ぴぇ、ち、血の匂い……!」

「犠牲者が出たってこと?」

「わからない。でも、慎重に進もう」


 小川のせせらぎと、漂ってくる匂いを頼りに私はフィービーとリーヴェを先導していく。

 水と血の匂いはわかったけど、そこに混ざっていた変な匂いが引っかかる。

 ……警戒しておくに、越したことはないわね。


 木立ちを抜けて、開けた小川に出ると、そこには。


「よう、遅かったじゃねえか田舎者。お前らも狙ってたんだろうけどよ、この森で一番のドゥプテラスは、俺たちがいただいちまったぜ!」

「流石だね、ケイン」

「『三重属性』のケインさんには敵なしっす!」


 ケインたち三人組も同じことを考えていたのか、そこにあったのは血を流して倒れ伏すドゥプテラスの巨体と、取り巻きだったラプテラスの死骸だった。

 先を越されたこと自体は、まだいい。

 ケインたちは剥ぎ取りに夢中になっているけど、なんだか嫌な予感と共に、微かだった変な匂い──花の香りと似たものが、濃くなっていくのを感じる。


「ケイン、今すぐそこから離れて!」

「なんだよ田舎者、ドゥプテラスは譲らねえぞ?」

「そうじゃない、なんか嫌な匂いがするの!」

「ぶ、無礼なやつ! ケインさんが不潔だって言いたいのか!?」

「そうじゃなくて──」


 私が言いたいことを口に出す直前だった。

 急速に濃くなってきた花の香りと共に、ガサガサという足音が近づいてくる。

 ──そして。


「ぐぎゃっ!」

「か、カルス!?」


 気づいたときには既に遅く、カルスの体を、一本の大きな針が刺し貫いていた。


『キチチチチチッ……!』

「な、なんだこの化け物……!?」

「ケイン、あれはフラウスパイダーだよ!」


 フラウスパイダー。

 コーザが言った通り、花に擬態して獲物を誘き寄せるだけでなく、麻痺毒と腐肉食性も持ち合わせる魔物だ。

 ドゥプテラスですら捕食する、危険で巨大な花蜘蛛が、私たちの目の前に立ちはだかっていた。

カルスは荼毘に付したよ

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