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入学試験のはじまり

「さて、受験生一同におかれては、本日、ここに集ってくれたことに感謝したい。しかし、今から始まるのは遊びではなく、真剣に魔導の道を極めたいと願う人間たちのぶつかり合いである。よって我々教師一同もまた、忖度や加減の類は一切しないこと、不正は一切許さないことをここに誓おう。全ては、『始祖の魔女』サイェアと、伝説の『聖女』様を育て、ステラティア学園の祖となった賢者たる、カルストレア・カーウス大先生の名において!」


 ステラティア学園への第一関門である筆記試験の前に、試験官になる先生が、私たちを激励するための祝辞を述べる。

 こうして受験会場の雰囲気を肌で感じると、よくわかった。

 殺伐とした緊張とストレスの匂い。リーヴェが言っていた通り、先生が言った通りに、ここにいるのは、皆「将来仲良くする学友」であるより前に、「蹴落としあうライバル」なのだ。


 それはもちろん、フィービーだって例外じゃない。

 姉妹二人で合格を目指せたら、もちろんそれが一番だし、私もそれを願っている。

 でも、まだ魔法を使えない私がその前に考えなければいけないのは、この筆記試験でいかにフィービーや、リーヴェに比肩する点数を叩き出せるかどうかだと、先生は言いたいのだろう。


「それでは筆記試験を只今より行うものとする! 制限時間は四十五分だ、始め!」


 試験管の先生が口火を切ると、受験生たちは目の色を変えて羽ペンにインクをつけて、机に伏せられていたテスト用紙に、かりかりと答えを書き込んでいく。

 最初の数問は、思った通り全然難しくなかった。

 当たり前だ。手習でもいいから、魔法を覚えていたり、教えてもらっているなら、覚えていて当然の知識が問われているのだから。


 ここに時間はかけられない。

 とにかく一秒でも早く答えの欄を埋めて、次から始まる応用的な問題を解く時間を確保しなきゃいけない。

 案の定とでもいうべきか、設問の二番目以降からは、感覚的に魔法を使っているだけじゃ言語化できないような、理論に基づいた知識を活用しないと解けないようになっていた。


(危なかった……魔法の基礎理論をフィービーから教わってなければ、全然解けなかったな、これ)


 私は、望外の幸運に思わずほっと胸を撫で下ろした。

 私でも魔法が使えるようにと、フィービーが、内緒で貯めていたお小遣いで誕生日に買ってくれた、「魔術論基礎体系」という、分厚い本を擦り切れそうになるまで読み返した甲斐があったというものだ。

 最愛の妹からもらった知識を武器に、私は自信を持って設問を解き進めていく。


 魔法が使えなくたって、理論を解することはできるのだから。

 そして、最後の問題まで問題なく解けたことを確認した上で、私はむふー、と小さく鼻息を荒げた。

 見直しもした上で、問題ない。これならきっと、満点とは言わずとも確実に上澄みに入れるだろう。


 試験管の先生に怒られないよう、そっと周囲の様子を伺ってみると、フィービーも、当然リーヴェも、試験問題を解き終えていたようで、羽ペンを手放している。

 よかった。フィービーも緊張に負けずよく頑張ったわね、さすがは私の自慢の妹だ。

 リーヴェに至っては退屈そうに小さく欠伸までしている。ぐぬぬ、「六重属性」の女の子だ。


 だけど、二人に、筆記の点数で並ぶことは、あくまでも前提でしかない。

 筆記が終わったら、次は一番私がダメダメな魔力測定の試験と、そして。

 詳細が伏せられている、「最後の試験」が待ち受けているのだから。



「ねえ、シャルローネ。筆記はどうだったかしら? あたしは退屈すぎて寝ちゃいそうだったわ!」


 魔力測定の試験となる、「大鑑定の儀」を前に、私の隣に並んでいたリーヴェが、苦笑混じりに問いかけてくる。

 人によっては嫌味に受け取られかねない質問だったけど、他でもないリーヴェが言うってことは、皮肉でもなんでもなく、ただ事実を述べているだけなのだろう。


「うん。やれるところまではやったよ。だから、あとは結果を待つだけ」

「そう! それでこそあたしが名前を覚えたライバルね、魔力測定試験でもいい結果を出してくれることを期待してるわよ!」


 ぐぬぬ。

 さっきから、リーヴェが口にしているのは、嫌味が一切ない純粋な賞賛だから反応に困る。

 これだから天才というのは。なんて、毒づいたところでなにかが始まるわけでもない。


 私が魔法を使えないのは事実だから、もうこの魔力測定試験は零点でもいいのだ。

 幸い、試験は三つに分かれているんだから、総合点で勝てばいい。

 ……どっちも満点だったとしても、魔力測定が零点だったら大いに足を引っ張るのは事実なんだけど。


「それでは次の三名、前へ!」

『はい!』


 私とフィービー、そしてリーヴェは先生からの呼び出しに応じて、実家にあった「鑑定の間」に置いてあったものとは比べ物にならないほど大きく、純度の高い水晶の前へと歩み出た。


「では、フィービー・アクシア! 始め!」

「ぴぇ……よ、よろしくお願いしますっ! えいっ!」

「素晴らしい……輝きの光量と純度も高く、この歳で水と風の『二重属性』だとは! それだけでなく光魔法の素養もある。では次、リーヴェ・アルモント!」

「ふふん、それじゃ……いくわ!」

「お、おお……っ!? この圧倒的な輝きとグラデーションは、ま、まさか……伝説の『六重属性』……! す、素晴らしすぎる! 君の素養は魔導の至宝だ!」


 フィービーとリーヴェが水晶に手を当てて魔力を込めると、それぞれの属性に対応した色──水なら青、風なら緑といった具合に変わっていく。

 リーヴェのそれは、先生が目を丸くしていただけあって、虹色に、かなり眩しく輝いていた。

 だけど、私は。


「なんだと……? し、白? こ、光量や純度は申し分ないが……こんな結果は見たことがないぞ?」


 リーヴェの次に呼び出された私が、大水晶にえいやっと力を込める感じでイメージした魔力を投影すると、実家では「光らなかった」水晶が、眩ゆい白の輝きを放っていた。


「それってやっぱり、私が魔法を使えないからでしょうか?」

「いや……魔力を使えない者は大水晶がそもそも輝かぬのだが……ううむ……」


 恐る恐る先生に聞いてみると、どうやら先生もこの現象については詳しくわからなかったらしい。

 ……白い輝き。

 誰も見たことも聞いたこともないもの。


 私にもなにがなんだかわからなかったけど、でも、それは。

 ──魔力がないことの証明である、「無色」とは違う。

 私の中には、確かに魔力が眠っている。


 それがわかっただけでも、一安心だった。

それは、誰も知らない輝き

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