領主様からのご褒美
「りょ、領主様!? なぜこのような村に……!」
突然木陰から姿を現した壮年の男性は、どうやら領主様だったらしい。
……領主様って言われても、私の知識が前世の世界史とラノベの類で止まってるし、顔も見たことなかったから、いまいちどれぐらいすごいかわからないんだけど。
でも多分、領主様なんだから、きっとこの地方一帯を治めてたりするんだろうなあ。
そう考えると、凄い人だ。
そんな人が直々にこんな片田舎の村を訪れるなんて、一大事に違いない。
ようやく理解が追いついたから、周りの大人たちに少し遅れて、私もぺこりと領主様へと頭を下げた。
「うむ……近頃辺境を襲う山賊団の噂を聞きつけてな。山賊にしては装備が整っていて、練度もあると報告を受けておる」
「では、この騎士様たちは……」
「そういうことだ。我が身の不徳の致すところよ。心配をかけたようで、すまなかった」
要するに、フルプレートメイルの騎士たちは、領主様の身内だったということだ。
いくら魔法の隆盛で食うに困ったり、立場が悪かったとしても、こんな辺境の村を襲って好き放題するなんて、許されないし許せない。
むっ、と私は片眉を吊り上げる。
「こら、やめなさい! シャルローネ!」
「でも、お父さん! 領主様の騎士が山賊と手を組んでたんだよ! 私が気づいて片付けたからよかったけど、鐘を鳴らしてくれたアンヘルおばあちゃんも殺されてたかもしれないんだよ!?」
「よい、ランベル。そなたの娘の言うことは正しい……すまなかったな、シャルローネといったか。この通りだ」
領主様は疲れの滲んだ笑みを浮かべると、私に小さく頭を下げた。
ふん。
領主様には領主様の事情があるのはわかるけど、村の皆は私の家族も同然なんだから、家族が殺されるかもしれなかったとなれば当然だろう。
「りょ、領主様! おやめください、子供に頭を下げるなど!」
「よいのだ、私は部下の不徳を実害が出るまで見抜けなかった。聖女様と勇者様の作ってくださった平和に慣れすぎていたと詰られても反論はできまい」
宥めるように、領主様は、疲れた笑みを浮かべたまま、剣を抜きかけたお付きの騎士を制止する。
流石にそこまで悪くいうつもりはなかったから、罪悪感がふつふつと湧き出してしまう。
でも、領主様は、本気でこの山賊騒ぎに心を痛めているんだとわかった。
意外だ。
自分の領内で起きた出来事だから当然ではあるんだけど、貴族ってもっと無責任で、自分一人のことにしか関心がないと思っていたから。
……って、かくいう私も、そんな自己中貴族は、元お父様ぐらいしか知らないんだけど。
「ご、ごめんなさい。私もそこまで領主様のことを悪く言うつもりはなかったんです!」
「よい。ところで、ランベル。このシャルローネが山賊たちを一人で倒してしまったというのは、まことか?」
「はっ、私たちが到着した頃には既に山賊たちは全員気絶していました!」
「ふむ……」
なんだか値踏みをするように、領主様が私の瞳を覗き込んでくる。
別に、いくら訓練を受けてたって、最初から最後まで自分たちの作戦を勝手に喋ってくれた相手だったから、大したことなかったけど。
来るとわかっていれば、魔物であろうと人間であろうと対処はできる。
大切な村を守るのに、私の「剣聖」スキルはこれ以上ないほど有用だった。
「荒くれ者に身をやつしてしまったかもしれないが、アルフォードとルマントは王都で剣術指南を受け、見事に免許皆伝を勝ち得てきた者なのだが……それを、君が一人で倒したというのか。シャルローネ」
「はい! 大したことなかったので!」
「ふ……はは、はははは! 面白い! どうやら、ランベルの話を聞くに、それも嘘ではないと! 面白い……面白いぞ、シャルローネ。では、この騒ぎを収めてくれた君には、褒美を取らせよう!」
領主様はお腹を抱えて、心底愉快そうに笑っていた。
むぅ、私は別に、自警団見習いとして当然のことをしただけなんだけどなあ。
それなのにご褒美をもらってしまうなんて、なんだか悪い気がしてならない。
「君ほど優れた剣士であれば、王都に通って指南を受けるのも悪くはないだろう。そのための学費は、このプラート・マイヤー辺境伯の名において全額保証しよう。どうだ、シャルローネ。私の騎士になってはくれないか?」
「そうですね……ありがたいお話なんですけど、お金をいただけるなら、私じゃなくて、妹のフィービーをステラティア学園に通わせてあげてください」
「なんと……!? 君は、庶民の出から騎士階級になる絶好の機会を不意にするつもりなのか?」
マイヤー辺境伯というらしい領主様は、理解できない、といった様子で目を丸くした。
でも、私が王都で剣術を学んでいたら、この村の守りは手空きになっちゃうし。
お父さんや、自警団の皆のことを信じてないわけじゃない。
でも、それだけじゃなくて。
もし、平民出身でも、王都に行けるチャンスがあるのなら。
それは、剣しか取り柄のない私じゃなくて、優秀な、もしかしたら魔女になれるかもしれないフィービーが受け取るべきだ。
「君には、夢がないのか……?」
「ありますよ? 私はいつか魔女になりたいです。でも、フィービーと違って、私には魔法の才能がほとんどないから……いっぱい時間がかかります。だから、できることならフィービーを先に魔女にしてあげたいんです」
「む……難儀な……しかし、よもや……」
領主様は、私の言葉に首を傾げつつ、細い顎に指をやった。
うーん、どうしよう。
私もここまで領主様を困らせたいわけじゃないんだけどなあ。
「……よし、わかった。シャルローネ・アクシア! 君と妹のフィービー・アクシアをステラティア学園へと、この私の名において推薦し、見事合格してみせたなら、学費を全て援助しよう!」
「え、ええっ!?」
今度は、私が困惑する番だった。
昔は確かに「七星学徒」になるって意気込んでたけど!
でも、まさかこんなに早く、夢を叶えられるかもしれない契機が転がり込んでくるなんて。
「よ、よいのですか? 領主様……確かに娘たちは、手前味噌ではございますがそれぞれ剣と魔法の才に長けております、ですが……」
「よい、これは我がマイヤー領の将来を担う人物への投資というものだ。早速推薦状をしたためようではないか、紙を持て!」
「はっ!」
領主様は、騎士たちに号令をかけると、紙とペンとインク持ってこさせて、この場でさらさらと推薦状を書き上げると、右手の人差し指を紙に擦り付けた。
本で見たことがある。
確か、魔力判、というやつだ。魔法を使える人の、身分証明みたいなもの。
「それでは、シャルローネ・アクシア。そして、フィービー・アクシア、君たちの未来に神の祝福があらんことを!」
「あ……ありがとう、ございますっ!」
「ど、どうしたの? お姉ちゃん? それにこの紙って……ぴぇ!? ステラティア学園への推薦状!?」
遅れてやってきたフィービーは、騎士の人から推薦状を受け取ると、あまりの出来事にぐるぐると目を回していた。
……よかった。
私はダメ元受験だろうけど、フィービーの才能が、世間に認められるかもしれない日が来て。
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