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新たな家族

 どこかから、程よく焼けたパンの香りがする。

 それを道標にするように、慣れた様子で森の中を歩いているランベルさんとビアンカさんに、私は、ニーアの村──お母様がいうところの、「南の村」まで連れられていた。

 明かりの魔法を杖の先に灯したビアンカさんの先導もあってか、さっき感じていた不安は全くといっていいほど、なくなっている。


「シャルローネ、きみは森の中で一人だったけど、親御さんとはぐれたのかい?」


 村の守衛さんが立っている門の前で、ランベルさんが、不意に問いかけてきた。

 親御さんとはぐれたというか、親御さんから直々に森の中へ捨てられたというか。

 でも、ここで私の出自を明かしてしまうと、ランベルさんとビアンカさんにも問題が飛び火しかないから、ヴァルモニカ家のことは伏せて、事情を説明することにした。


「実は、お父様から、お前のような子はいらないと、捨てられまして……」

「こんなに幼い子を危険な森の中に捨てるなんて……!」

「言葉が出ない……いくらなんでもひどすぎるわ……!」


 かなり大雑把になった事情説明でも、理解してくれたのか、それともこの辺りではそういうことが日常茶飯事なのか、ランベルさんとビアンカさんは、私に同情的だ。

 ……生まれてくるべきではなかった、なんて言ってきたお父様とは、大違いで。

 どうしようもなく、泣いてしまいそうだった。


「ありがとうございます。村に案内してくれただけでなく、あたたかい言葉もかけてくれて」

「気にすることはないよ。ニーアの村はよく森で迷った旅人を迎え入れているんだ」

「だからっていうわけじゃないけど、シャルローネも、よければこの村に住んでみない?」


 ビアンカさんの提案は、帰る場所を失った私にとっては、まさに、渡りに船だった。

 だけど、そう都合がいい話があるのだろうか。

 この村にタダで住めるなんて、いくらなんでも都合が良すぎて、裏になにかあるのではないかと勘繰ってしまう。


「あの、私は対価としてなにを差し出せばいいんですか?」

「対価?」

「帰る場所もない私を受け入れてくださるのはありがたいと思っています。でも、ご厚意に甘えているだけじゃ、ダメだと思って」


 ランベルさんとビアンカさんのことを疑いたくはなかったけど、私を助けてくれたというだけで、この人たちが実は人攫いだった……なんて可能性も否定できない。

 だから、なるべく前向きに聞こえる形で、探りを入れさせてもらった。

 本当に、命の恩人に対して、非常に申し訳ないんだけど。


「対価、といってもなあ……」

「今まで、たくさんの迷い人を助けてきたけど、あなたのようなことを言う人は初めてだわ」


 マジか。

 大分呑気だな、この世界。

 いや、私が人を疑いすぎなだけか? ここまで困った顔をされると、流石にちょっと心が痛んでくる。


「なにか、お手伝いできることでいいんです。助けられてばかりじゃ、落ち着かなくて」

「うーむ……シャルローネは考えのしっかりした子だな。なら、うちの娘にならないか?」

「えっ?」

「それは名案ね、ランベル。うちにもあなたと歳が近い女の子がいるの。ちょっと泣き虫だけど、魔法使いを目指して頑張ってる、とってもいい子なのよ」

「え、えっと、そんな! 助けていただいただけでもありがたいのに、養子なんて!」


 話がいきなり過ぎてびっくりしてしまった。

 牧場の雑用係とか、そういう仕事をもらえるだけでもありがたかったのに、いきなり養子縁組なんて。

 ……でも、悪くないどころか、とてもいい話だ。家族、という響きに心が無意識のうちに惹きつけられている。


「困ったときは助け合うのさ。ニーアの村では、そうやって皆で生きてきた。だから、きみも今日から俺たちの家族さ、シャルローネ」

「……っ、ありがとうございます!」

「もう、そんなに固くならないでいいのよ? あなたはもう、アクシア家の一員なんだから」

「ランベルさん、ビアンカさん……」


 ぎゅっ、と握りしめた拳を胸に当てて、私は小さく俯いた。

 私を愛してくれたお母様とは、もう会えないかもしれない。

 だけど、こうして二人と手を取り合って、新たな家族として生きていくことはできる。


「ううん、お父さん、お母さん!」

「まあ! 聞いた? ランベル!」

「ああ、ビアンカ……これは早く、フィービーにも知らせてやらないとな! シャルローネ、歳は幾つだい?」

「六歳ですっ!」

「それじゃあフィービーのお姉さんね。ふふっ、きっとあの子、びっくりするわ」


 ビアンカさん──ううん、新しい私のお母さんは楚々と微笑んで、足取りも軽やかに家へと向かっていった。

 フィービーちゃん、私の義妹かぁ。

 一体どんな子なんだろうな。楽しみだ。


「なんだ、ランベル。また捨て子を拾ってきたのか」

「新しい家族を迎えただけさ。フィービーもシャルローネも、俺の自慢の娘だよ。トム」

「お前らしいぜ」


 村の見回りをしていた、大柄な男の人と軽口を叩いて、ランベルさん──新しいお父さんも私の手を引いて、お母さんの後に続いていく。


「フィービー、今帰ったわ」

「あ、あわわわ……お帰りなさい、お母様。そ、そっちの子は……?」

「ああ、その子はシャルローネ。今日からフィービーのお姉ちゃんになる子だよ」


 お母さんとお父さんに呼ばれて顔を出した、水色の髪の毛をおさげにし、箒を持った女の子が、おっかなびっくりと問いかける。

 そっか、この子がフィービーちゃんか。可愛らしい顔立ちをしている。

 微笑ましさを感じていた私をよそに、フィービーちゃんは慌ただしく二人と私の間で視線を往復させると。


「ぴ、ぴええええええっ!?」


 ……なんだか、キャパオーバーを起こしてしまったのか、フィービーちゃんは、謎の叫び声を上げて硬直してしまった。

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