乙女たちの放課後
「それでは、各自。放課後だからといって気を抜かず勉学と魔導の探究に励むように。以上だ」
『ありがとうございました!』
セオドール先生には気を抜くなと言われていたけど、私はいつドレスが到着するのかが楽しみで、気が気でなかった。
ステラティア学園に入学して、大体一ヶ月。
懇親会も、この一ヶ月を記念して開かれるものだとはリーヴェの話だ。
「ねえ、リーヴェ。ちょっと聞いてもいい?」
「なにかしら、シャルローネ?」
ただ一つ、私には気になっていることがあって、思い立ったが吉日というし、リーヴェへ尋ねることにした。
「ステラティア学園って、その……なんていえばいいんだろう。部活……じゃなくて、そのクラブ活動みたいなものってあったりしないの?」
今のところ、私たち新入生は放課後になったら寮に帰る生活を続けているけど、本当に勉強と魔法の研究だけで六年の学校生活が終わるとは考えられないし。
「いい着眼点ね、流石はあたしが認めたライバルってところかしら。あるわよ? 一年生は懇親会が終わるまで入会は禁止されているけれど、見学は自由だもの。てっきり、興味がないと思ってたわ」
「興味がないっていうか余裕がなかったっていうか……」
色々ドタバタしすぎていたのだ、ここ最近は。
でも、部活……というか、なにかしらの同好会あるというのは朗報だった。
剣術探究同好会とかあったりしないかなー?
「そうね、でも同好会に目を向けるのは正しいわ。ステラティア学園は貴族が大半だもの、所属する会によって派閥があるのよ」
「派閥……」
「一番大きな派閥は、この国の第一王子──フェルニクス殿下が所属されていれる『大鷲の会』ね」
リーヴェは人差し指を立てて、得意げに語る。
うーん、なんか想像していたのと違う気がしないでもないというか、多分そういう派閥の下に、さらに同好会があるって構造なのだろうか。
というか、この国の第一王子殿下──王位継承権第一位のお方まで通ってらっしゃるのか、ステラティア学園には。
「そして、『大鷲の会』が擁する中でも一番大きな同好会は『箒競空同好会』よ」
「それって、箒に跨って空を飛んだりするとか、そういう?」
「ええ。用意された障害物を避けて、いかに最速でゴールまで辿り着けるかを競うものね。風の魔法適性が強く求められるから、フィービーは向いてるんじゃないかしら?」
「ぴぇっ」
突然話を振られてびっくりしたのか、フィービーは鞄に教科書の類を詰めていた手を止めて、おっかなびっくりといった様子でリーヴェを振り返った。
フィービーの適性は「風」と「水」と「光」の三重属性。
村にいた頃はよく水魔法を使っていたけど、起源になる属性はどうやら「風」だったらしいから、確かにぴったりかもしれない。
「フィービーは、箒で空を飛んだりすることに興味はない?」
「あ、あるけど……競争は、あんまり……」
「そうね、フィービーは争いが苦手だものね」
箒レースで活躍するフィービーを見てみたかった気持ちがないとはいわないけど、本人が望んでいないなら強制することはよくないだろう。
「他には、どんな会があったりするの?」
「そうね……例えば二番目に有力な派閥は『月百合の会』だけど、あんまりいい噂は聞かないわね」
「『月百合の会』……」
「第二王子殿下と第三王女殿下が有力者と噂されているけれど、本人たちが会合に顔を出したことは一度もなく、怪しげな魔法を研究している同好会もあるとか……とにかく、徹底した秘密主義なのよ」
そんな勢力が学内の二番手って、なんだか嫌すぎるなあ。
実態が見えないまま活動しているってことは、未公認の同好会とかもありそうだし。
それに、怪しげな魔法を研究しているっていうのもきな臭い。
「いいところは、放任主義なところかしらね。だから、自由に色々な同好会を傘下に入れているのが『月百合の会』の強みよ」
「なるほど……」
「ちなみに今回の懇親会で主催を務めるのは生徒会だけど、『大鷲の会』の影響が強い派閥とはもっぱらの噂ね」
「そうなんだ……」
懇親会にも派閥が絡んでいるとなると、なんだか嫌な予感がするのは私だけだろうか。
もっとも、一番まともそうな「大鷲の会」が多数派ってことは、変に警戒する必要もなさそうではあるけれど。
それに、「月百合の会」が怪しいと決まったわけでもない。
トップが顔を出さないのだって、王族だからって事情もあるだろうし、なにより良くも悪くも自由な放任主義ってことなら、学生が活動する幅も広いってことだろうし。
「どうかしら、少しは参考になった?」
「うん、ありがとう。やっぱり派閥争いとかそういうのって、あるものなんだね……」
「ん、貴族は家柄で優劣をつけたがる生き物だから仕方ない」
机の下からいきなりにゅっと生えてきたラクィラが、呆れたように呟く。
まあ、確かに私の元実家も実の娘よりも家柄が大事だと言い切ったところだから、気持ちはわかるけど。
「そういうあなたも貴族じゃないのかしら、ラクィラ? 『五重属性』が在野の存在だなんて、とても考えられないわ」
「ん、秘密。今はまだそのときじゃない」
「どんなときになったら聞かせてくれるのよ……」
「ん、シャルローネにとって必要なとき。リーヴェに正室の座は譲ったけど、わたしの秘密も、わたしの全部もシャルローネのもの」
ラクィラは立ち上がると、静かに踵を返して教室を去っていく。
そんなに好かれてたんだ、私。
嬉しくないかって聞かれて、首を振ったら嘘になるけど、全部あなたのもの、なんて遠回しな告白みたいで、ちょっと恥ずかしい。
「上手くはぐらかしてばかりなんだから、全く」
「あはは……でも、不思議で掴みどころがないのも、ラクィラらしくて私はいいと思うよ」
「……そうね」
「妬いた?」
「ええ。埋め合わせはしてくれるのよね?」
「もちろん。一緒に『箒競空同好会』でも見にいこっか、二人きりで」
「ふ、ふんっ! たまには気が利くのね、あなたも!」
私はリーヴェと約束を取り付けて、ラクィラに続く形で教室を後にする。
フィービーを置いていくのには罪悪感があったけど、私の妹は決して察しが悪いわけじゃない。
なんせ、話を聞いた途端に、とてとてとラクィラの後を追いかけて、走っていったのだから。




