くだらなくって、思わず
「デザインから仕立てから納品まで一週間ですか!? それも二着!?」
リーヴェからの話を持ちかけられた、高級店のオーナー兼デザイナーの女性は、その場に倒れ込みそうな勢いで目を見開いて後ずさった。
だよね、うん。
依頼主と手を組んでいる私がいうのもなんだけど、普通ならどう考えても無理だし。
「報酬は五千万レジットよ?」
「し、しかし……いかにアルモント侯爵家ゆかりの依頼とはいえ、二着ものドレスを、オーダーメイドでかつ一週間で……」
「ええ。足りないなら倍額出すわ! 一億レジットね!」
「い、いちおく……」
言葉通り桁が違う報酬を提示されたデザイナーさんは、唖然として口を半開きにする。
いや、報酬の話じゃないと思うんだけど、一億レジットなんて提示されたら、いくら貴族御用達のお店とはいえ、揺らいでしまうのも頷ける。
私たちの村が年に稼げていたのは、大豊作の時期でさえ、リーヴェが最初に提示した五千万レジットの、足元にも及ばない金額なのだから。
「……? ダメかしら? なら、仕方ないけど他を当たって──」
「わ、わかりました! 喜んで引き受けさせていただきますとも、ええ!」
「話がわかる人間は好きよ。約束手形に名前を書くから、王都の銀行で引き換えてくるといいわ」
リーヴェは、ぱちん、と指を鳴らして、護衛として私たちの後ろに控えていた魔術師の人に、約束手形を持ってこさせる。
そして、羽ペンをインクに浸して、さらさらと自分の名前を書き記した。
す、すごい。これが貴族の力か。
「なにをぼーっとしてるの、シャルローネ、フィービー? あなたたちのためのドレスなんだから、採寸やデザインを今すぐやってもらわなきゃ!」
「いや、金額がすごすぎてつい……ごめん。それじゃあ行こっか、フィービー」
「う、うんっ!」
フィービーも即断即決で一億レジットを払ってのける、リーヴェの豪胆には、度肝を抜かれてしまったらしい。
私たちはまだ現実感がないまま、デザイナーさんに案内される形で奥の部屋へと通された。
インスピレーションをその場で閃いて、かつ依頼主であるリーヴェも満足させられるようなデザインを完成させないといけない以上、彼女には相当なプレッシャーだろう。
「しかし、アルモント侯爵家のご令嬢がご学友に選ばれただけありますね、あなたたちは。お二人とも、インスピレーションが湧きすぎて困るぐらいには見目麗しくいらっしゃる」
「そうですか? ありがとうございます」
「ふぃ、フィービーはお姉ちゃんにもよく褒めてもらってます!」
「ふふっ。微笑ましいですね」
フィービーの幼さが残る返答に、デザイナーさんは自然と相好を崩していた。
「あはは……ごめんなさい。でも、自慢の妹なんです。最近は『三重属性』にまで目覚めてたりしますから」
「三重属性! そのお歳で……道理でアルモント侯爵令嬢がお気に召すわけです。それでは、デザインを決めるためにも軽いデッサンを行わせていただきますから、更衣室で着替えてお待ちくださいね」
『はい!』
私とフィービーは、デザイナーさんに元気よく返事をして、石膏像や縫製機が並んでいる部屋のさらに奥にある更衣室へと、足を運ぶ。
デザインを決めるためにヌードデッサンを経なければいけないのはちょっとはずかしいけど、仕方ない。
そういう事情もあるから、リーヴェは同じ女性がオーナーをやっているこのお店を選んでくれたんだろうけど。
「ぴぇ……は、裸になるの、恥ずかしい……」
「それは私もだよ、フィービー。だから大丈夫。お姉ちゃんがついてるから」
「ぴぇ……」
既にブラまで脱ぎ終わっていたフィービーが、私に抱きついてくる。
おかしいなあ。
リーヴェはいいもの食べてる貴族令嬢だからわかるけど、私とフィービーでどこに差がついたんだろう。
胸か。やかましいわ。
などと、妹のマシュマロのような、背丈に似合わず豊満なバストが潰れる感覚を受け止めながら、私はそっとフィービーの髪を撫でてあげる。
私だって本音を言えば恥ずかしいし、出来合いのもので済ませられるならそれに越したことはないけど、これはマイヤー辺境伯と、ニーアの村のためでもあるのだ。
だから、頑張って社交界に乗り出さないと。
礼儀作法は、もう記憶の彼方に飛びかけているけど、元々捨てられるまでは貴族として必要なことは学んできたわけだし。
下着を脱いで、震えるフィービーと手を繋ぎながら、私はデザイナーさんの工房へと赴いた。
……正直ちょっと開放感がなくもないとか思った自分を殴りたくなったけど、それは別の話だと思いたかった。
†
「どうだったかしら、いいドレスは作ってもらえそう?」
「うん。デザイナーさんもいい人だったし」
「は、恥ずかしかったです……」
「でも、彼女は王都でも唯一と言っていいほどの腕前よ? 成果物の出来はあたしが保証するわ」
小首を傾げたリーヴェの返答は、少しだけ私やフィービーの認識と噛み合っていない。
それができるまでの過程で全裸を晒さなければいけなかったのが恥ずかしいという話なんだけど、やっぱりリーヴェはそういうことにも慣れているからなんだろうか。
別に、変な目で見られるとか見てるとかそういう話じゃないんだけど、乙女としてこう、大切ななにかが削られたりしないのかな。
「リーヴェはすごいね、恥ずかしくないなんて」
「このあたしの肉体美に恥じるところなんて、なに一つないもの!」
「ぴぇ」
フィービーはあまりにも自信に満ち溢れたリーヴェの返答に、キャパオーバーを起こしてしまったようだ。
うん、私も正直そこまでリーヴェが自信家だとは思ってなかったというか、うん。
すごいね、としか言いようがなくて。
「なによ? あたしは別に誰彼構わず裸を晒したりしないわよ! あたしが認めた相手にだけ!」
「ならよかった……私はてっきりリーヴェに変な趣味があるのかと……」
「だから、ないわよそんなの!」
「ん、リーヴェは正室だからシャルローネは特殊なプレイにも付き合わなきゃいけない。頑張って」
「ぴぇ……ぷ、ぷれい……?」
「違うって言ってるでしょうが! それと、フィービーは知らなくていいことよ!!!!」
リーヴェはフィービーの耳を塞ぐと、からかってきたラクィラに全力で牙を剥く。
他愛もない言葉を……いや、他愛もないかどうかはわからないけど、こうして交わし合いながら帰り道を歩むって、村にいた頃は考えられなかったな。
……会話の内容は、大分最悪だけど。




