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懇親会に向けて

「懇親会?」


 寮で消灯時間までに与えられた自由時間を謳歌していたら、唐突にリーヴェがそんなことを言い出して、私は目を丸くした。


「知らないの? 一週間後に、新入生の親睦を深めるという意味でパーティーが開かれるのよ。シャルローネ。あなた、ドレスは持っているの?」

「一応、私はマイヤー辺境伯から援助を受けているから、支給品の中にあったはずだけど……」


 ベッドから起き上がって、クローゼットを開いてみると、確かに私のドレスは、ハウスキーパーさんの手によってかけられていた。


「……悪くはないけど、足りないわね!」

「リーヴェ?」

「シャルローネ、あなたはあなたが思うよりも遥かに魅力的な淑女なのよ。なにより、このあたしのライバルとして! 隣に立つ存在として! 引き立て役なんかになってもらったら、困るのよ!」


 リーヴェはなんだか興奮気味に捲し立てる。

 パーティーといっても、たかが懇親会なんだから、そこまで綺麗におめかしする必要もないんじゃないだろうか。

 それに、私よりリーヴェの方が綺麗だし。


「ん、それは一理ある。側室としては、ドレスを新調するべきだと進言する」

「ラクィラまで?」

「シャルローネ、たかがパーティー、たかが懇親会。でも、実態は家格で優劣をつけるための場所」


 ラクィラは呆れたような顔で肩を竦めた。

 家格での優劣──なるほど、つまるところ、「娘息子にどれだけ立派な正装を着せてあげられるのか」でマウント合戦しているわけだ。

 く、くだらない。果てしなくくだらない。


「そういうことよ! フィービー、あなたの分も新調して上げるから、感謝しなさい!」

「ぴぇっ!? ふぃ、フィービーは別に、そんな……」

「そうよ、私たちはマイヤー辺境伯から援助を受けているとはいえ、ただの平民だし」


 支給されているドレスだけで、私たちにとっては十分すぎる。

 それに、なにより背負うべき家名だとか、誇るべき血筋だとか、ご立派なものは持ち合わせていないわけなのだから。

 困惑するフィービーの頭をそっと撫でながら、私は苦笑した。


「甘いわ、シャルローネ! あなたはマイヤー辺境伯の援助でこのステラティア学園に来ている……つまり、あなたが『下』に見られるということは、そっくりそのままマイヤー辺境伯が『下』に見られるということなのよ!」

「ん、大体リーヴェが言う通り。わたしやフィービーは『七星学徒(セブンステラ)』だから経費で落とせるけど、シャルローネはそうじゃないから、リーヴェの援助を受けておくべき」


 なるほど、そういう理屈なんだ。

 マイヤー辺境伯は私たちに結構な期待をかけてくれた上で色々と援助してくれているのだから、恥をかかせるわけにはいかないのも頷ける。

 それに、辺境伯が馬鹿にされるということは、彼が治めている領地そのものが馬鹿にされることと同義でもあるなら──ニーアの村が、私たちの家族が馬鹿にされるということだ。


 そう考えると、確かにリーヴェとラクィラが言っていることは正しい。

 フィービーは「七星学徒(セブンステラ)」としてドレスも学費も経費で落ちるらしいけど、私はそうもいかないのだから。

 なら、甘んじてリーヴェの提案を受け入れる他に、道はないのだろう。


「わかった。確かに家族や恩人が馬鹿にされるのは私も嫌だし……リーヴェの申し出を受けることにする」

「ふ、ふふんっ! 当然ね! このあたしのライバルとして、相応しいドレスや宝飾品をオーダーしてあげるわ!」

「……えっと、ドレスって出来合いのものを買うんじゃなくて?」

「甘いわ! オーダーメイドが基本よ!」

「え、えぇ……?」


 あと一週間以内にドレスのデザインを決めてそこから縫い付けて、と考えると、職人さんにかかる負担は尋常じゃなさそうだ。

 でも、そこをリーヴェはお金の力と家の名前が持つ力でなんとか踏み倒そうとしているんだろうなあ。

 貴族らしいというかなんというか。良くも悪くも豪快でシンプルな手段だった。


「決まりね! 明日は王都に出て早速ドレスを作ってもらいにいくわ!」

「あはは……お手柔らかにね」

「ん、リーヴェ。抜け駆けは許さない。シャルローネの側室としてわたしも連れていくべき」

「ふぃ、フィービーも置いていかないでくださいぃ……」


 善は急げとばかりに大きな胸を張ったリーヴェの左肩にラクィラが細い顎を乗せて、フィービーが右腕を掴む。


「離しなさい! フィービーはともかくとして、ラクィラ! あなたは自分のドレスぐらい持っているはずでしょう!?」

「ん、気が変わった。わたしもドレスを新調する」

「気が変わったにしろ、一人で行きなさい!」

「ん! リーヴェだけがシャルローネとフィービーを独占することは許さない。わたしは側室」

「そもそも側室も正室もないでしょう!?」

「わ・た・し、は側室。リーヴェが正室でいいけど、側室の扱いを無下にするのは許されない」


 ラクィラが、頬を膨らませてじとっとした目を向けてくる。

 うーん。

 実際、リーヴェが言う通りそもそも正室も側室もなにもないというか、私たちは、そういう関係じゃ──いや、どうなんだろう。


「シャルローネはひどい。わたしの初めてを奪ったのに……」

「ラクィラは自分からしてきたんでしょ!?」

「ん、そうだった?」

「都合のいいところだけ記憶を失わないで!?」

「でも、お手つきをしたのは事実。手をつけるだけつけて放り出すのは一番よくない」

「うぐっ……」


 別にラクィラと一緒に出かけることが嫌じゃないのは私もリーヴェも意見が一致しているはずだ。

 でも、それならもっと言い方があるというか──ちゃんと、「わたしも連れていってほしい」って頼めばいいのに。

 ラクィラらしいといえばらしいけど、素直になれていなさすぎる。


「はぁ……シャルローネ、あなたはどう思うの?」

「リーヴェまで私に責任丸投げしないでよ……四人で行ってもいいんじゃないのかな? 私、ドレスのデザインとかは全然わからないし」

「それもそうね。ラクィラ、あなたドレスに詳しいの?」

「ん。そこそこ詳しい」

「……家名も伏せているのに、不思議なものね。まあいいわ、どうせ聞いても喋ってくれないでしょうもの」

「ん」


 溜息混じりに呟いたリーヴェの言葉を、ラクィラは小さく首肯した。

 確かに、言われてみればラクィラの名字って、聞いたことがなかったかも。

 でも、本人が話したくないのなら無理に聞くことじゃないっていうのは私も同意するところだし、なにより。


「フィービー、新しいドレスが着られてよかったわね」

「ちょ、ちょっと緊張するけど、嬉しいです……えへへ」


 フィービーが上機嫌そうだから、妹の世界で一番尊い笑顔に免じて、諸々は飲み込んでおくことにしよう。

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