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百合園のシャルローネ

 どうやら私は、魔力因子を分けてもらえさえすれば結構、魔法の才能があるらしかった。

 初めての箒での飛行でラクィラと一緒にアクロバット軌道を描いていたら、セオドール先生が目を見開いていたぐらいだし。

 でも、その度にキスをせがまなきゃいけないのがなんだかなぁ、と、割り切ったつもりでも少し罪悪感があるけれど。


「んっ……あたし以外にこんなこと、頼むんじゃないわよ!」

「ん……ありがと、リーヴェ」

「未来永劫感謝しなさい! あなたはこのあたし、リーヴェ・アルモントのライバルにしてファーストキスを奪った相手なのだから! 金輪際! 二度と! あたし以外にキスをせがまないことね!」


 今日も、魔法の実習を前に、私はリーヴェと口づけを交わしていた。

 飛行実習のときに、ラクィラとフレンチキスをしたという話に、ひどくご立腹だったけど、それは今も続いている様子だったようだ。

 とはいえ、今日の実習が「刃」系魔法による模擬戦であるからか、幾分かリーヴェの機嫌は上向いているように見える。


「リーヴェ、少し機嫌直った?」

「そ、そんなこと! ないわ! でも、ようやくね。今日の組み合わせは抽選とはいえ、やっと対等の条件であなたと戦えるかもしれないんだもの!」


 リーヴェは、良くも悪くも気高い女の子だ。

 フラウスパイダーを倒したとき以来、私のことをライバルだと認定して、なにかと張り合ってくるから、負けず嫌いにも程がある。

 でも──出会ったばかりの頃、全ての相手を平等に見下していたリーヴェよりは、今のリーヴェの方が、私は好きだと、確信を持っていえるだろう。


「そうだね。でも、リーヴェって、変わったよね」

「……変わったんじゃないわ。あたしはずっとあたし、アルモント侯爵家のリーヴェ・アルモントよ!」

「うん、知ってる。でも、勝ち誇らなくなったよねって」


 昔は「六重属性」であることを枕詞にしていたのに、今は全然、鼻にかけている感じはしないし。


「当然よ、肩書きは力にならないもの」

「うん。その方が素敵だよ、リーヴェは」

「なっ……いきなりなにを言ってるの!? あたしが華麗で可憐で素敵なのはいつものことじゃない!」


 顔を真っ赤にして噛み付いてくる辺り、多分リーヴェはストレートに褒められることに対して弱いのかもしれない。

 だったらこの勝負は私の勝ちだね──なんて言うと、またややこしいことになるから黙っておくけど。

 だけど、今のリーヴェの方が格段に素敵だし、格段に好きなことは事実だから、「好き」に制限なんてないと言われた通り、私の中にある小箱に、この気持ちはそっとしまい込んでおこう。


「それでは只今より、『刃』系魔法を用いた模擬戦実習を行う。その前に諸君らには、『刃』系魔法の成り立ちと役割について──」


 修練場に全員が揃うと、セオドール先生は教科書を暗唱するように、すらすらと「刃」系魔法の成り立ちを語り出す。

 曰く、「始祖の魔女」サイェアが発案したものを、のちに彼女の後継として魔女連盟における頂点──「十二星座(オリュンポス)」の第一席となった、「天剣の魔女」ルレィナが今に語り継がれる形へと昇華させ、戦場に革命をもたらしたとか、その後は戦いの花形になっていったとか。

 ……おかげで私は、転生特典の「剣聖」スキルを持ち腐れさせる羽目になりかけたんだけど、今は魔法が使えるようになったから目を瞑っておこう。


「それでは抽選にて模擬戦の組み合わせを決定する。立会人は私が行う……よって、一切の不正は許されないものと知れ!」

『はい!』

「よろしい、それでは第一試合……シャルローネ・アクシア! アンネローゼ・エリシオン! 両者向顔!」


 どうやら、私の相手はリーヴェじゃなかったようだ。

 アンネローゼ・エリシオン。

 いつもクラスの中心にいる、金髪を縦ロールにしたお嬢様然とした女の子で、そして。


「ふふっ、今日も余裕たっぷりでいらっしゃりますわね、『百合園』のシャルローネさん」

「そういうあなたも、他人を挑発できるぐらいには余裕たっぷりなんだね。『七星学徒(セブンステラ)』第四席だから?」

「まあ、心外ですわ。わたくしは緊張で手が震えておりますのに」


 嘘つけ。

 要するに、アンネローゼという女の子は、「七星学徒(セブンステラ)」の一人にして、とてつもなく陰険なタイプの子だった。

 私に「百合園」とかいう変なあだ名をつけて流行らせたのもこの子だし。


「お喋りはそこまでにしろ。それでは──始めよ!」


 先生のお叱りと号令が飛んでくると同時に、私はバスタードソードを鞘から引き抜いて、リーヴェから分けてもらった魔力を発動する。

 雷が駆け巡るように全身の神経が鋭敏になって、身体が一気に軽くなっていく。

 今日の実習は「刃」系魔法の実習なのだから、剣に全身を駆け巡る雷を纏わせるように意識して。


『光刃!』


 ……アンネローゼと、発動タイミングが被ってしまった。

 気まずい空気が一瞬流れたけど、今は気にしている場合じゃない。

 相手も光の魔力を雷に変えて、短杖(ワンド)に纏わせ、私の出方を伺うように受け流しの構えを取る。


「でも!」

「な──ッ!?」


 私は雷を脚に纏わせるようにイメージして、アンネローゼの反応を超えた踏み込みでゼロ距離へと飛び込んでいく。

 ここまで詰め寄れば、いくら短杖(ワンド)が小回りの利く武器だとはいえ!

 今度は腕に雷を集めて、一閃。


「な……なんですの、貴女……!?」

「ただの村娘だよ」


 アンネローゼの短杖(ワンド)を切断した私は、首元に刃を突きつける。

 もはや、勝敗は誰の目にも明らかだった。

 事実を追認するようにセオドール先生が頷くと、小さく咳払いをして。


「そこまで! 勝者、シャルローネ・アクシア!」


 歓声とどよめきは、半分半分といったところだった。

 先生を含め、魔術師と戦ってわかったことがある。

 現代での魔法戦では、踏み込みはそれほど重視されていない。どちらかといえば、近接戦は魔法による遠距離戦を制した後の後詰めとして使われているということだった。


「流石はあたしのライバルね」

「リーヴェが魔力を分けてくれたおかげだよ」

「ふふん、言ったでしょ? 未来永劫感謝しなさいって!」

「はいはい」

「はいは一回でいいのよ!」


 リーヴェと他愛もない言葉とハイタッチを交わして、私は戦場を後にする。

 やっぱり、予想した通りだった。

 魔法さえ使えれば、私の「剣聖」スキルは、きっと誰も見たことのないものになりうるんだって。

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