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君は誰と「ちゅー」をする?

「あのね、よくわかんないけど! そ、そういうことは好きな人とするものであって……! 大体私たちは女の子同士で!」

「ん。教会も連盟もちゃんと女の子同士での婚姻を認めてる……シャルローネは、お堅いんだね」

「とにかく、そういう問題じゃなく! ラクィラは私のことが好きなの!?」


 私はひどく慌てふためき、捲し立てていた。

 いきなり背後に現れたかと思ったら、訳のわからない理屈でキスをしてみないか、なんて提案されて混乱するなという方が無理筋だ。

 それに、キスしたらなにかが起こるのはおとぎ話の中での話であって。


「好き」

「そんなにあっさり!? どの辺が!?」

「顔」


 元も子もない答えに、思わずすっ転びそうになってしまう。

 いやまあ、顔は確かに人類が相手のことを好きになる第一印象になるポイントだけど!

 私もお母様やお父さんとお母さんに褒めてもらったぐらいには顔がいいみたいだけど!


「ん。だからちゅーしよ、シャルローネ。その方がきっと幸せになる」

「待って、せめてちゃんと説明して!」


 積極的に可愛らしいキス待ち顔で顔を近づけてくるラクィラを制しながら、私は全力でファーストキスが奪われそうになることに対しての説明を求めていた。

 ラクィラが私のことを好きだからって、いくなんでも初手からキスをするのはこう……恋愛の階段を何個もすっ飛ばしているようなものだ。

 それに、含みのある言い方だから意味はわからなかったけど、他にも理由はあるみたいだし、その辺の説明をしてもらわないと割に合わない。


「待ちなさい、ラクィラ! シャルローネも! あなたたち、い、いきなりなにを不埒な話をしているの!? 校内でそういうことをするのは学則違反よ!」

「リーヴェ! 助かった、とにかくラクィラを止めて!」


 突如として人混みをかき分け、現れたリーヴェに、私は全力で助けを求める。

 別に、ラクィラとのキスが嫌なわけじゃないけど。

 でも、それはそれとして説明ぐらいしてもらわないと、納得がいかないのだ。


「なにって……ちゅー、しようとしてるだけ」

「それが不埒なのよ! それにシャルローネ、あなたも!」

「私!?」

「なに満更でもなさそうな顔してるのよ! あなたにはこのあたしというライバルがいるのに!」


 そんな顔してる覚えはないんだけどなあ!?

 でも、ラクィラが仄めかしていた言葉を整理するなら、どうやら私は「大きいけど生まれたて」らしい。

 ……それがなにを意味しているのかはよくわからないけど、きっと、魔法に関係あることには違いないだろう。


「リーヴェが拗ねちゃった……」

「拗ねていないわ、あなたが不埒なことにうつつを抜かそうとしているのに失望しただけよ!」

「うっ、返す言葉もない……でも、ラクィラにも事情があるみたいだし、それをちゃんと聞いてからにしてくれないかな」

「……むぅ。いいわよ。説明しなさい、ラクィラ。ちゃんと聞いている人が理解できるように」


 ぷんすこと頬を膨らませて、大きな胸を支えるように腕を組んでいるリーヴェを宥めつつ、私はラクィラに、キスを迫ってきた真意を問う。

 リーヴェが「ちゃんと聞いている人が理解できるように」と補足してくれたから、きっとラクィラも説明してくれるはずだ。

 ……多分、だけど。


「ん。シャルローネは、生まれたての赤ちゃん」

「だからそれをわかりやすく説明しなさいと言っているのよ!」

「ん……説明、苦手。でも頑張る。前提……人間は生まれたての頃、魔力を持っているかいないかに大別される」

「そうね。だけど、それがどうしたの?」

「ん。リーヴェは、生まれたての赤ちゃんが魔法を使うところを見たことがある?」


 ラクィラは小首を傾げて、必死に考えて咀嚼してくれたのであろう問いを投げかけてくる。


「ない、けど……当たり前じゃない? 赤ちゃんは言葉を話せないもの」

「ん、違う。魔法は言葉じゃない、真理への干渉とイデアの構築。詠唱破棄って技術もある」

「言われてみれば、確かに……」


 詠唱破棄は、読んで字の如く、本来は魔法の発動トリガーとなる詠唱を完全に省略してしまう高等テクニックだ。

 確かに、大人でも言葉を用いず魔法を使えると考えれば、逆説的には言葉を話せない赤ちゃんでも魔法は使えることになる。

 ……もっとも、生まれたての時点で「魔女」と同等の素質を持っていることが条件だけど。


「リーヴェが魔法を使えるようになったのは、いくつ?」

「あたしは……三つのときね」

「そう。自意識がはっきりきてきた頃には、既にリーヴェのお母さんからもらった因子が、リーヴェの持って生まれてきた『白』の魔力と合わさってる……これで、わかる?」


 小首を傾げるラクィラが、人差し指を唇に当てて、悩ましげな表情を浮かべる。


「えっと……つまり、私はお母様から魔力の因子を上手く受け継げなかった、ってこと?」

「ん。そうなる……だから、わたしの因子を分けてあげようって」

「それでキスを……でも、キスで魔力の因子が受け継がれるなんて、聞いたこともないわ」


 今度はリーヴェが頭を抱えて、小さく呟く。

 まあそうだよね。

 それで魔法が使えるようになるなら、世の中もっとカップルだらけだろうし。


「ん、因子を吹き込む方法は色々ある。そういう魔法だから。でも、好きな人とはちゅーしたい。リーヴェは、違う?」

「どうしてそこであたしに話を振ってくるの!? しゃ、シャルローネはあくまでライバルであって! そう! 超えるべき壁……対等に戦って勝つべき存在なのよ!」

「……? なら、リーヴェがシャルローネとちゅーすべき」

「だーかーらー!!!!」


 な、なんだか収拾がつかなくなってきた。

 でも、私が魔法を使えない理由はなんとなく理解できた。

 真っ白な魔力のままでは魔法が使えなくて、そこに遺伝や外部的な要因で「色」をつけてもらえないと、魔法は使えない。


 ……じゃあ、どの道、私は魔法が使いたければ、誰かとキスをしないといけないってこと!?

 過去一大きな叫び声が出そうになった。

 喉元まで迫り上がってきた声を飲み込めた自分を褒めてあげたいぐらいには。

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