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わたしと「ちゅー」してみる?

「ほら、起きてラクィラ。もう朝だよ」

「全く、『七星学徒(セブンステラ)』第二席が聞いて呆れるわよ!」

「ぴぇ……遅刻しちゃいます!」


 一般女子寮に入った翌日、私たちは部屋の左右にそれぞれ二つある二段ベッドの右下側で、未だにすやすやと寝息を立てているラクィラを起こそうと必死になっていた。


「……すぅ。あと五時間」

「日が暮れるわ!」

「日没には間に合うと思うけど……」

「このあたしに連帯責任とはいえ遅刻なんて許されないわ! 強硬手段よ!」


 言うなり、リーヴェはラクィラが被っていた布団を引き剥がして、叩き起こす。

 南方には、あらかじめセットした起床時間になったら騒音を出してくれる魔道具があるらしいけど、あったら便利だなあ。

 ……もっとも、ラクィラはありそうな専用寮への入居を蹴ってここにきたんだけど。


「……リーヴェはひどい。女の子の身包みを剥がすなんて」

「あら、ごめんあそばせ。でも、遅刻の二文字はあたしの辞書にはないの。引きずってでも連れて行くわよ!」

「あーれー……」

「き、着替えはここに置いておきますねっ!」


 リーヴェの手でパジャマから制服姿に着替えさせられたラクィラは、フィービーが持ってきた歯ブラシで歯を磨かれ、櫛で髪を梳かされて、瞬く間に美少女へと姿を変えていく。

 ……目元は相変わらず眠たげだけど。

 本当はリーヴェの方が侯爵令嬢なんだからお嬢様なのに、こうして見るとラクィラがお嬢様に見えてくるから不思議だった。


「さあ、準備はできたわね! 張り切って登校よ!」

「……わたし朝ごはん食べてない……」

「ち、遅刻しちゃいますよぅ!」

「こんな時間だから、寮の食堂も閉まってるだろうし」

「そんなー……」


 着替えを終えたラクィラは、まだ眠たげにしていながらも、容赦なく、リーヴェの宣言通り引きずられる形で寮の部屋を後にする。

 王都の学生街に建てられた女子寮は、ステラティア学園の近くにこそあるけど、学園の広さが規格外だから、走らないと今からじゃ間に合わない。

 だから、私たちは未だに夢とうつつを行き交っているラクィラを引き摺りながら、全力で学舎へと疾走するのだった。



 なんとか遅刻を免れた私たちは、特段先生からそれについて咎められることもなく、授業を受けていた。

 ステラティア学園は、魔法学園を標榜していないだけあって、普通の……国語だとか歴史だとか、座学のカリキュラムも充実している。

 なんでもこれは、初代学長が「魔法の資質だけが人間の価値を決めるわけではない」と言い残したからだとか。


 でも、実態的には、魔法社会が成り立っている以上、メインになってくるのは魔法や魔力に関する授業だ。

 そんなわけで程よくお腹も減ってきた四時限目。

 私たちは、学内に設けられた──とはいっても、野晒しな、修練場に足を運んでいた。


「今回の授業は魔力の制御についてだ。知っての通り、魔力というものは繊細な扱いが求められる。コントロールを十全にできて、初めて一人前の魔術師になれるといっても過言ではないだろう」


 担当の先生が説明してくれた通り、魔力はコントロールすることが重要になってくる。

 例えば初歩魔法の「火球」だって、込める魔力が高まれば高まるほど、威力も上がれば、副次的な危険性も高まってくる。

 獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすというけれど、例えばゴブリンのように大したことのない魔物相手に山の中で最上級の火炎魔法を使えば、山火事が起きてゴブリンどころじゃない大惨事になる、ということだ。


「このように諸君らには制御と集中を学んでもらう──『火閃』!」


 先生が構えた短杖(ワンド)の先端から、一本の直線を描くように炎が走り、木人の真ん中にかけられた的の中心を射抜く。

 それ以外には、なに一つ余計な被害は出していない。

 流石はステラティア学園の先生を務めているだけはあった。


「それでは各自、木人の前に並び、諸君らが得意としている属性の初等魔法にて的を撃ち抜け!」

『はい!』


 先生の合図に従って、生徒たちが配置された木人を前に、それぞれ短杖(ワンド)長杖(ロッド)を構えて、初等魔法の制御に勤しむ。

 ただ、先生のように中心だけを狙って撃ち抜くことができる生徒は意外と少ない。

 ──それこそ。


「『火閃』!」


 リーヴェの詠唱が高らかに響くと同時に、構えた短杖(ワンド)から放たれた炎の光線が、先生のやってみせた実例と全く同じように的の中心を射抜く。

 穴の周りが焦げているようなこともない。

 十三歳にして、リーヴェは凄腕の大人も顔負けな魔力コントロールを身につけているのだ。


「流石は『六重属性』のリーヴェ・アルモントだ」

「お褒めにあずかり、光栄です」


 先生の言葉に、リーヴェはスカートの裾を摘み、カーテシーを添えて一礼する。

 普段の勝ち気な姿とはギャップがひどかったけど、様になっていて、綺麗だった。

 賞賛の声や拍手がリーヴェを包み込む一方で、私は。


「──『火閃』!」


 剣を構えて同じように唱えてみても、魔法が出てこない。

 魔術式や魔力の原理は理解してるのに。

 うーん……どうしてなんだろう。


「……簡単。シャルローネ」

「うわっ、ラクィラ!?」


 相変わらず神出鬼没で、気づいたら私の背後にいたラクィラにびっくりして、思わず剣を取り落としそうになる。


「……シャルローネは、生まれたて。だけど、とっても大きい」

「……ええ、と? つまり?」


 ラクィラは相変わらず説明する気があるんだかないんだかよくわからない口調で、淡々と語る。


「……色がなければ、魔力は発現できない。だから、シャルローネ」

「色? それって……」

「……わたしと、『ちゅー』してみない?」


 ラクィラは、私の疑問をよそに、公衆の面前でとんでもないことを言い放った。

 えっと!?

 なにがなんだか、ただでさえ理解が追いついていないのに、ラクィラがぽやっとした顔を微かに赤らめて近づけてくるものだから、こっちは頭が沸騰しそうなんですけど!?

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