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今日から同室よ!

「──以上、新入生代表、『七星学徒(セブンステラ)』第一席、リーヴェ・アルモントからでした」


 長かった入学式も、新入生代表のリーヴェによる挨拶でようやく終わろうとしていた。

 学長先生の式辞は興味深かったけど、来賓からの挨拶って絶対いらないよね。

 なんてことを考えている間にも締めの言葉が終わって、あとは解散になる。


 私は見上げるばかりだったけど、入学生代表として、大講堂の壇上に七つ設けられた席に、フィービーが座っているのは、姉として誇らしかった。

 ちょっとだけ悔しい気持ちがないかと聞かれて、首を横に振ればそれは嘘になる。

 でも、緊張でかちこちになってるフィービーも可愛かったし、それでよしとしよう、うん。


 それで新入生一同がこのあとなにをするのかというと、教室に置いてきた荷物を持って、寮に帰るだけだ。

 既に先生やクラスメイトとの顔合わせは済ませていて、幸運なことに私はフィービーとも、リーヴェとも同じクラスだった。

 ……いきなり匂いを嗅いできた、ラクィラとも同じクラスだったけど。


 まあ、それは過ぎたことだから割り切るとして。

 ここまではフィービーとずっと一緒だったけど、寮に戻ってからは会えなくなる日が多くなってしまうだろう。

 なぜなら、「七星学徒(セブンステラ)」と一般生徒は、待遇が違うからだ。


 基本的に一般生徒は、学園近くに建てられた寮で、三から四人のルームメイトと合同で暮らすことになるけど、「七星学徒(セブンステラ)」は、学園の敷地内に建てられた専用の豪華な寮での個室暮らしが約束されている。

 その代わり、定期試験の成績然り、特権を受け続けるためには色々な制約があって、入れ替わりを狙う生徒たちとの戦いに常に勝ち続けなければいけないのだ。

 そう考えると、一般生徒の方がいくらか楽かもしれない、とぼんやり考えていたときだった。


「お、お姉ちゃぁん……!」

「フィービー、どうしたの?」

「ぴぇ……フィービーも一緒に帰りたいから……」

「でも、フィービーは『七星学徒(セブンステラ)』じゃない。ダメだよ、これからはちゃんと、お姉ちゃんがいなくても──」

「その心配はないわ!」


 フィービーが、私に泣きついてきたのと同時に、優雅な足取りで壇上を降りてきたリーヴェが得意げに言い放つ。

 心配はないって、なにが。

 私が答えるよりも早く、リーヴェは得意げに大きな胸を反らして言葉を続ける。


「あたしとフィービーは、シャルローネと同じ部屋で暮らすって、学長に言ったら認めてもらったもの!」

「はぁ!?」


 正気かこの女。

 フィービーと一緒に暮らせるのはありがたいけど、わざわざ「七星学徒(セブンステラ)」の特権を投げ捨ててまで一般寮で暮らしたいなんて、本当にどうかしているとしか思えない。

 広々とした個室やら、東方や南方から輸入されてきた魔道具の数々や、極上の家具と天秤にかけて、私が釣り合う存在かと言われたら、断じて違うだろうに。


「学則には『七星学徒(セブンステラ)』が一般寮で暮らしてはいけない、なんてどこにも書いてないわ! だからフィービーの意を汲んであげたというわけ! ふふん、感謝しなさい!」

「それは……ありがとう。でも、なんでリーヴェまで?」


 確かに、学則には書かれていなかったけど。

 それに、フィービーの意を汲んでくれたというのなら、リーヴェまで同じ部屋で暮らす必然性はどこにもないはずだ。

 ある種「七星学徒(セブンステラ)」が学園の特権階級とはいえ、前例がなさそうなことを無理やり認めさせた罰、というわけでもなさそうだし。


「……べ、別にシャルローネと一緒に暮らしたいとかそんなのじゃないわよ! あたしはただ、そう……ライバルとして、あなたたちを監視するためにわざわざ同じ部屋を選んだのよ!」

「流石に無理ありすぎるって……でも、ありがとう。私なんかのために」

「だーかーらー、あなたのためじゃないわ!!!!」


 ぷんすこと地団駄を踏むリーヴェは、とても学年首席の優等生とは思えないほど子供っぽくて、思わず笑みがこぼれてしまう。


「……わたしもいるよ」

「うわっ!? ラクィラ!?」

「……そういう反応されると、傷つく」

「ご、ごめん。でも、いきなり後ろから話しかけられたから……」


 いつの間にか私の背後にいたラクィラが、少し俯いて悲しそうな目を向けてくる。

 なにを考えているのかよくわからなそうな女の子だったけど、意外と感受性は豊かなところがあるらしい。

 ……で、そして、「わたしもいる」ってことは、それはもしかしなくても、ラクィラまで同室ってことになるんだろうか。


「正解……だから言った、すぐ会えるって」

「正直ラクィラまで同室になりたいって言われたときはびっくりしたけど、四人部屋だから大差ないわよね!」


 しょ、正気か。

 これで「七星学徒(セブンステラ)」のおよそ半数が特権を放棄して私の部屋で暮らすことになったんだけど。

 そこまでの価値が私にあるとは思えなくて、嬉しいとかよりも、驚きと困惑がどうしても先に立ってしまう。


「で、でも……本当にいいの? 一般寮ってあなたたちが思っているほどいいところじゃないよ?」

「ふぃ、フィービーはお姉ちゃんがいるところがいいです……!」

「言ったでしょ? あたしはライバルと対等でいたいの。シャルローネ、あんたはあたしの宿命のライバルと認めた女の子なんだから、もっと胸を張りなさい!」

「……一人は、退屈。面白い方が、いい」


 ずっと一緒に暮らしてきたフィービーの理由はともかく、リーヴェとラクィラの理由と価値観はよくわからなかったけど。

 でも、本人たちが納得した上で一般寮での暮らしを望んでいるなら、私がとやかく言う権利はないのだろう。

 それに、見知らぬルームメイトと一から関係を構築するよりは、ずっと暮らしていくんだから、見知った相手と一緒にいた方が私も精神的に楽だし。


「……ありがと。それじゃ、一緒に帰ろっか」

「ぴぇ……お姉ちゃん……!」

「もう、フィービーは甘えんぼさんなんだから」


 大きな瞳をうるうるとさせて、私の左腕に抱きついてきたフィービーの髪をそっと撫でつつ、苦笑する。

 横目でちらりとリーヴェとラクィラの様子を伺ってみると、ラクィラはその辺を飛び回っていた蝶に視線を向けていて、なにを考えているのかよくわからなかった。

 でも。


「……」

「なにか言いたいことあるんでしょ、リーヴェ」

「……べ、別にないわ! ふんっ」

「私の右手なら空いてるけど」

「そうね、あなたがどうしてもあたしに感謝するって言うなら、手を繋いであげてもいいわ!」


 虹の瞳がきらきらと輝く。

 良くも悪くもわかりやすいなぁ、リーヴェって。

 ポーカーフェイスを装っていても、表情が万華鏡みたいにくるくる変わるんだから。


「はいはい、ありがとう。一緒に暮らしてくれて」

「感謝が足りない気がするけど……いいわ、あたしは寛大だから許してあげる。このあたしが、リーヴェ・アルモントが手を繋いであげるのだから、さらに感謝することね!」

「はいはい」


 リーヴェと右手を繋いで、フィービーに左腕に抱きつかれたまま私は、少しだけ窮屈だけど、どこか晴れやかな気持ちで──最愛の妹と、友達と、帰り道を歩んでいた。

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